主人公の米田結(橋本環奈)の父、聖人(北村有起哉)の手術も終わり、平穏な日々が戻った米田家を、結の祖父母である永吉と佳代(宮崎美子)が訪ねてきます。自分のおかげで1970年の大阪万博を開催することができたと豪語する永吉に、聖人たちはあきれ顔。それでも、永吉は聖人と2人で太陽の塔を訪れたことで、ようやく長年のわだかまりを解くことができました。そして、その1か月後、永吉はこの世を去りました。

そんな永吉をこれまで演じてきたのは、松平健さん。佳代や聖人への思いをはじめ、永吉というキャラクターを演じて感じたことなどを聞きました。


自由奔放な永吉も、家庭では佳代の言いなり。それが一番いいバランスだったんです

――今週は永吉との別れが描かれて、涙なしには見られなかった方も多いと思います。でも、これまでホラだと思われていた永吉のエピソードがこんな形で回収されるとは驚きました! 松平さんご自身は、永吉のホラに隠された真実をご存じだったのですか?

1970年の大阪万博にまつわるエピソードは本当だったことは知っていたんですが、その他のことについては、実は私も最初はホラだと思っていたんです(笑)。通夜の日に王貞治さんからバットが届いたり、ラモス瑠偉さんに来ていただいたり、脚本で読んだ時にはすごくうれしかったですね。

そうか、永吉の言っていたことは本当だったんだって。ずっと“米田家の呪い”と言われてきましたけど、永吉は困っている人を見たら助けずにはいられない、すごく優しい人だったんだなと改めて感じました。

――最初からみんなはホラだと決めつけていましたが、確かに永吉はずっと「本当だ」って主張していましたよね。

そうですよね。いくら「ホラじゃない」と言っても、みんなが全然信用してくれないから、永吉としてはその辺はもう気にしていないというか、どっちでもいいやっていう気持ちだったんでしょうね。

――佳代が永吉の遺影に向かって「今、すごくあなたに会いたいです」と声をかけるシーンはグッとくるものがありました。永吉なら、あの時の佳代にどういう言葉をかけると思いますか?

あのシーンは、私もジーンときました。でも、きっと永吉だったら、「(会いたいと思うのは)当たり前だろう」みたいなことを言うんじゃないかな。「そりゃ、私に会いたいに決まってるだろう」って(笑)。

――さすが永吉です! でも、そんな強気な発言の裏で、永吉は佳代に対してどういう思いを抱いていたのでしょうか。宮崎美子さんはインタビューで、永吉と佳代の関係について「佳代さんは外では永吉さんを立てているけど、家ではコントロールしています」とおっしゃっていました。

佳代にずっと家庭を任せっきりで、永吉は彼女の存在に頼り切っていたんですよね。この人にはなんでも任せられると。佳代のおかげで永吉は好きなことをやらせてもらって、自由奔放に生きてこられた。だから、家に帰ったら佳代に叱られてばかりで、佳代の言いなりだったんじゃないでしょうか。

宮崎さんがおっしゃる「コントロールされていた」というのは、その通りかもしれない(笑)。それが2人にとって一番いいバランスだったんだと思います。


50年以上、後悔し続けてきた永吉の最期の願いとは

――永吉と聖人が和解するシーンも描かれました。以前、聖人役の北村有起哉さんはインタビューで、永吉との親子ゲンカを撮影したことで、「親子ゲンカってすごくすてきなことだと気づいた」と答えていました。松平さんは、親子ゲンカのシーンはどんな思いで演じられていたのですか?

やっぱり永吉は自分勝手に仕事ばかりしていて、子どもは佳代に任せきりで、聖人の面倒も見てあげられなかった。それでも永吉は、子どもが父親である自分の言うことを聞くのが当たり前みたいな気持ちがあったんでしょうね。でも、聖人から反抗されて、自分の思う通りにならなくて、そこで決定的にすれ違ってしまった。

永吉としては心の中では反省する部分もあったとは思うんですけど、聖人が糸島に帰ってきても、相変わらず仲直りできずにいて、そこは常に心に引っかかりながら生活していたんだと思います。

――北村さんがおっしゃるように、親子ゲンカは永吉と聖人なりのコミュニケーションだったと感じたのですが、松平さんはどう思いますか?

そういう面もあったんでしょうけど、どうだろうな。いつも永吉が一方的に言いたいことを言っていたような気もするけど(笑)。

――結果的に最後となる聖人とのケンカのシーンでは、あんなにパワフルだった永吉が衰えている様子が描かれました。

いくら気持ちが若くても、やっぱり体力的には衰えていくというか、たとえ永吉でも、老いから逃げることはできない。当たり前だけど、やっぱり永吉も歳をとったんだと感じました。

――永吉は聖人と2人きりで太陽の塔に出かけましたが、永吉はどんな気持ちだったのでしょうか。

永吉は米田家全員で行きたいと言いながらも、本当は聖人に太陽の塔を見せたかったんですよね。子どもの時に連れて行ってやれなかったことを後悔していて、それをずーっと引きずっていたので、どうしても聖人と一緒に行きたかったんだと思うんです。

50年以上って、やっと実現した願いだったので、永吉だけでなく私も万感の思いで撮影に臨みました。聖人としては、「なんでおやと2人だけなんだ」と思っていたでしょうけど(笑)。

――そこで、ようやく長年のわだかまりが解けて、ずっとこの親子を見守ってきた我々も、じんわりと心が温かくなりました。

永吉の心の中にはいつも聖人に対する負い目があって、聖人の中には永吉に対する反発があった。それをお互いにようやく笑って話せるようになったシーンです。永吉も子どものことを思っていなかったわけではないのに、どうしても人助けをしないではいられなかったんですよね。その辺は、世のため人のためを優先してしまう永吉の性格なんでしょう。


永吉という頑固オヤジを演じたことで、新たな一面を知ってもらえたのならうれしい

――糸島から始まった物語ですが、登場人物たちも成長して新たな道に進んでいます。ここまでの「おむすび」を振り返っていかがですか?

やっぱり孫2人、結と歩の成長ですよね。阪神・淡路大震災で心に傷を負ったけれども、結と歩それぞれが進むべき道を見つけて邁進まいしんしていくことができたのは、本当によかったと感じています。結は家庭も持って、永吉にとってのひ孫も生まれて、彼女たちの成長ぶりには感動します。

太陽の塔に一緒に行けないのは、おじいちゃんからしたら寂しい部分もありますけど、そうやって忙しくしている2人を応援してやりたいなという思いです。この先も孫2人がちゃんと自立して、聖人と愛子さんも、みんながうまく行くように願っています。結がどんな親になるのかも楽しみですね。

――松平さんにとって、いままでのイメージとは異なる米田永吉という役柄を演じるのは、ある種の挑戦だったと思います。松平さんの俳優人生の中で、この「おむすび」という作品はどういう存在になりましたか?

ホームドラマ的な作品は以前からやってみたいと思っていて、今回初めて挑戦させていただいたのですが、永吉のような“頑固オヤジ”っていう新たなキャラクターを演じることができて、俳優としての幅もまた少し広がったと思います。いい経験になったし、すごく楽しんで演じることができました。見ている方に、私の新たな一面を知ってもらえたのなら、本当にうれしいことですね。

【プロフィール】
まつだいら・けん

1953年生まれ。愛知県出身。主な出演作に、映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(吹き替え)、ドラマ「ザ・トラベルナース」「下剋上球児」、舞台『暴れん坊将軍』『大逆転!大江戸桜誉賑』など。NHKでは、大河ドラマ「おんな城主 直虎」「鎌倉殿の13人」、「PTAグランパ!」「伝七捕物帳2」などに出演。