主人公の米田結(橋本環奈)が勤める病院に、栄養失調で意識を失った15歳の少女・うたが搬送されてきます。8歳から児童養護施設で育った詩は、「死んでも構わない」と、食事を一切取ろうとしません。

結の姉・米田歩(仲里依紗)は阪神・淡路大震災で亡くなった親友・真紀にそっくりな詩のことを放っておけず、退院した詩を自分の店で雇って面倒を見ることに。仕事を通じて、詩との絆を深めていった歩は、身寄りのない詩を親代わりとなって引き取ることを決意します。

そんな詩を演じたのは、渡辺真紀役としてもドラマに登場していた大島美優さん。同じ作品でまったく違う二役を演じることの難しさや、真紀と詩、それぞれのキャラクターの魅力について聞きました。


正反対の真紀と詩を演じ分けるために、ちょっとした癖や声の出し方を工夫しています

真紀(左)と詩(右)。

――真紀を演じていた大島さんがまったく別のキャラクターとして、「おむすび」の世界に戻ってきたので驚きました!

詩として出演が決まった時は、私もすごくびっくりしました。また違う役で出演できることもうれしかったですし、おむすびの現場がとてもあたたかくて大好きだったので、また皆さんとご一緒できることもうれしかったです。

――でも、同じ作品の中で、真紀と詩という二役を演じることは難しくはなかったですか?

真紀と詩は正反対なキャラクターなので、演じ分けることが大変でした。人によって癖や話し方は全然違うので、その区別をつけることが難しかったです。真紀には落ち込むようなシーンはなかったのですが、詩は下を向くようなシーンが多いんです。

そういう時に、真下ではなく、少し斜め下を見るようにすると、ちょっとひねくれているというか、心を閉ざしている感じが出るかなと考えてやってみました。声の出し方も、真紀はちょっと低めで、空気量が少ない感じの声で演じていたのですが、詩は少し高めで、空気量が多めの声にするようにしています。

――声の空気量まで使い分けているなんて驚きです!

あと、詩として帰ってきた時に時代が結構変わっていたのでびっくりしました(笑)。新鮮ですし、不思議な感じもしています。真紀としての撮影が終わって、詩として現場に入るまで少し時間が空いたので、出演者の皆さんや現場の雰囲気も変わっていて。改めて勉強になることが多い作品だなと感じています。


お父ちゃんとアユちゃんには「私も一緒にいたかったよ」って思いながら、放送を見ていました

――大島さんは、真紀をどんな人物だと捉えていますか?

オーディション用の台本をいただいた時から、真紀というキャラクターが大好きだったんです。ぐで、素直で、みんなに優しくて、人のことを大切にできる、すごく素敵すてきな女の子だなと感じていました。なので、朝ドラに真紀として出演できると決まった時は、本当にうれしかったです。

――真紀は歩や孝雄(緒形直人)の回想の中で登場するキャラクターでしたが、演じる上で意識したことはありましたか?

真紀のことを、ふとした瞬間に何度も思い出してもらえるような存在にしたかったので、ポジティブな感情を与えられるように、いつも笑顔で元気で明るく演じるように心がけました。

――真紀は震災で亡くなり、その後、父親である孝雄や親友だった歩はなかなか前を向けずに苦しんでいました。大島さんは放送をどんな気持ちでご覧になっていましたか?

「私も一緒にいたかったよ」という気持ちと、「一緒にいられなくてごめんね」という気持ちもありました。お父ちゃんには、真紀のセリフでもありましたが、「またお酒飲んでるん?」と思っていましたし、かっこいいお父ちゃんでいてほしかったです。アユちゃんには、「私の分まで生きて」というのは重すぎると思うのですが、いつも笑っていてほしかったです。

――歩の行動が、孝雄が前を向くきっかけになって、真紀という存在が2人の絆になっていく様子が感動的でした。

私、大人になってからのアユちゃんとお父ちゃんの関係性が大好きで、毎回泣きながら見ていました。真紀としても、いち視聴者としても泣きっぱなしで……。真紀にとっても、大好きな2人が一緒に支え合って生きてくれたのはすごくうれしかったと思います。

一時期、アユちゃんもお父ちゃんも塞ぎ込んで孤立してましたよね。それが真紀としては寂しいし、心配な部分でもあったので、物語が進んでいく中で2人が支え合っていくのを見て、大丈夫、安心できるなと感じました。


自分が組んだコーディネートを褒めてもらえたことで、詩は居場所を見つけられたんじゃないかな

――一方、今演じている詩は「生きてる意味もない」というセリフがあり、真紀とは正反対のキャラクターですよね。詩にはどんな印象を持っていますか?

詩は、今までたくさん悲しいことやつらいことを経験して、まわりの人に対して心を閉ざしてしまっている孤独な子で。私も詩のような経験をしていたら、同じような気持ちになるかもしれないなと思いました。

――詩は少しずつ歩や結に心を開いていきますが、演じる上で工夫されたことはありますか?

演じる時に外見や動きを工夫するというよりかは、「詩は今このぐらい心を開いている状態だろうな」「詩はアユちゃんや結ちゃんのことを今はこういうふうに思っているだろうな」と、自分の心で詩の心を感じながら演じるようにしていました。

――病院を退院した後、居場所がない詩は歩を頼って事務所を訪ねます。それは詩にとって大きな決断だったのではないでしょうか。

そうですね。「いつでも頼って」と言ってくれた信頼や、この人だったら何とかしてくれるかもしれないという期待があったんだと思います。でも、その一方で、入院している時にすごく優しくしてくれたアユちゃんと結ちゃんにまた会いたかったのかも、とも思いました。

――今日放送があった詩と歩が一緒に洋服のコーディネートを考えるシーンは、初めて生き生きとした詩を見ることができました。

詩とアユちゃんが親友のようになれた気がして、あのシーンは撮影もとても楽しかったです。詩も、自分が組んだコーディネートをみんなに褒めてもらえたことで、ここに私の居場所があるんじゃないかと感じ始めたと思います。

「ここにいていいんだ」と思えたことで、こんな私でもみんなの役に立てるかもって、ちょっとずつみんなの言葉を信じることができるようになっていったのかなと思います。

――真紀も詩も、歩に対してとても大きな影響を与える人物ですよね。歩にとって、それぞれどういう存在だと思いますか?

アユちゃんにとって真紀は大切な親友で、ちょっとした憧れのような存在でもあったのかなと思います。いつも新しいことを教えてくれて、「真紀ちゃんってかっこいい」というような気持ちもあったんだろうなって。詩は、真紀とは違って、アユちゃんが「この子には幸せでいてほしい」とか「元気になってほしい」と思う、守るべき家族のような存在なのかなと。

――ドラマはいよいよ最終回を迎えますが、大島さんが演じる真紀と詩が、見ている方にとってどんな存在になれたらいいなと思いますか?

真紀はとても明るい女の子なので、視聴者の方にもたまに真紀の笑顔を思い出していただき、元気で前向きな気持ちになっていただけたらうれしいです。逆に詩は、真紀のようなポジティブなパワーを与える子ではないと思うんです。

ですが、だからこそ、今前を向くことが難しい方に、詩が寄り添うことができたらいいなと思っています。最後まで笑ったり泣いたり楽しみながら、詩がアユちゃんや結ちゃんに少しずつ心を開いていく様子を一緒に見守ってほしいです。

【プロフィール】
おおしま・みゆ

2009年生まれ。埼玉県出身。「ちゃおガール2018☆オーディション」準グランプリ受賞をきっかけにデビュー。2022年、ドラマ「マイファミリー」(TBS系)で物語の鍵となる主人公の娘・鳴沢友果役に抜擢ばってきされ、注目を集める。主な出演作に、映画『沈黙のパレード』、ドラマ「雨に消えた向日葵」などがある。