朝田のぶ(今田美桜)は、学校の先生になる夢をかなえるため、女子師範学校に入学した。それを迎えたのが、担任の黒井雪子。黒井は入学初日から「御国のために尽くす覚悟のない者は去りなさい!」と、のぶやうさ子(志田彩良)たち生徒を一喝する。

そんな黒井を演じるのは、朝ドラ初出演となる瀧内公美。瀧内に演じる上で意識していることや、のぶを演じる今田の印象などを聞いた。


黒井のセリフ回しや言い切るような語尾は、同じ時代の映像や映画を参考にしました

――今日からのぶの女子師範学校での生活が始まり、本格的に黒井が登場しました。最初からかなりのインパクトでしたね。

黒井は、この時代を象徴する軍国主義者ですから、やはり威厳のある女性ではありますよね。女性教師がまだまだ少ない時代だからこそ、エリートであり、質実剛健といったところでしょうか。ですから、彼女のきっちりした部分を時代性にちゃんと乗った形で表現できたらなと思いました。

――黒井の声には、生徒たちを震え上がらせるような迫力がありましたが、セリフを言う上で意識した部分はありましたか?

黒井のセリフ回しや言い切るような語尾は、自分がいままで出会ってきた先生たちはあまり発しないようなものだったので、想像のはんちゅうで演じるのは難しい役でした。そういう時は、作品で描かれている時代の映像や映画を自分の中でサンプリングして、どうセリフを言うのかを真似る作業から始めます。

レコーダーでって聞きながら練習しても、いざ現場で相手に伝えようと思うと、どうしても自分の普段の音になってしまうことがあるんです。まだ悩みながら、トライアンドエラーということでやらせていただいています(笑)。

――発声以外でも、黒井雪子という人物を作り上げる中で心がけていることはありますか?

台本には「一切笑わない表情も動かさない」と書いてあるんですけど、キャラクター造形ではそうはしていなくて。これから国の状況が厳しくなっていくにつれて、そういうピリついた空気感を出すために表情を動かさずに演じていることもあるのですが、ただただ厳しくやってもあまり鬼気迫るようには見えないような気もするんです。極端に言えば、逆に笑っていたりする方がすごく怖く感じるというか。なにか緩急みたいなものはつけられたらいいな、と思っていました。

――衣装や髪型なども、キリリとした黒井らしいスタイルですよね。

髪型も時代に合わせて作ってくださっています。最初は見慣れなくて(笑)。でも、このお衣装を着させてもらって、髪型も全部作っていただくと、やっぱり黒井の気持ちになれるというか、演じる上で手助けしてもらっているなというのは感じます。


今田さんが演じるのぶは、エネルギー値が高くて、迷いの中にも強さがあるんです

――「覚悟のない者は去りなさい」など、黒井はかなり生徒に厳しく接します。生徒たちにどんな思いを持っているのでしょうか?

厳しく感じるとは思いますが、この時代は黒井の言動が当たり前なんだと思います。いまの時代を生きていると、平和ボケしていると言われたりします。私自身、何かが起きた時に初めて、「あ、平和ボケしていたんだ」と気づくことがあります。やはり意識していないと見ようとしていないんですよね。黒井は軍国主義の教育を当たり前に施す人なので、ああいう物言いは黒井にとって日常なのだと思います。その精神がないと、君たちはこれから生きていけないぞ、と。強くなってほしいという思いを常々持っている人です。

――のぶの入学試験での失敗も目撃している黒井は、最初からのぶにはより厳しく接しているようにも感じました。瀧内さんご自身は、のぶにはどういう印象をお持ちですか?

実際に今田さんが演じているのぶの目を見ていると、すごく強い意志を感じるんです。エネルギー値が高く、「あ、この子はどこにいても大丈夫だろうな」という感じがします。最初は、のぶはちょっとへっぽこな女の子で、そのままダメダメなりに成長していくのかなと思っていたんですけど(笑)、彼女が演じていると、迷いの中にも強さがあるので、見ていて全然不安がないんですよね。それはすごく不思議な感覚だなと思いました。台本を読んでいた時の印象と全然変わっていくこともありますし、とにかく今田さんのエネルギー値の高さに毎回驚かされています。


黒井は大河ドラマで演じた明子とは真逆の女性なので、驚いていただけたら

――今作が朝ドラ初出演ということですが、改めて出演が決まった時のお気持ちをお聞かせください。

それはとってもうれしかったです。昨年の大河ドラマ「光る君へ」に続いて、朝ドラにも出演することができて、本当にありがたいなと思っています。今回は、一昨年出演させていただいた「大奥」という作品でお世話になったプロデューサーの舩田さんからお声がけ頂きました。何においてもご縁を大切にしていますから、そういった意味で「この役を任せたい」とおっしゃっていただけたのは本当に嬉しかったですし、身の引き締まる思いでした。

――大河ドラマとは違う、朝ドラならではの雰囲気は感じられたりしますか?

なんだか現場がはつらつとしています(笑)。「光る君へ」は舞台が平安時代ということもあり、みやびでたおやかな世界だったせいか、すごく緩やかだったんです。時間がゆったりと流れている雰囲気があるといいますか。明子さまは、激しい描写もあり、内省的な毒々しさのある方でしたが、時代背景がたおやかなので違う意味での怖さがありました。

今回の黒井は、軍隊のようにピシッと動きますから、大河でお世話になったスタッフの方が見にきてくださったんですけど、「真逆すぎてびっくりする」とおっしゃっていました(笑)。みなさんがご覧になられてどう感じていただけるか、楽しみです。

――最後に、「あんぱん」という作品の魅力について教えてください。

台本を読んでいて、可愛かわいらしいな、愛らしいな、ほのぼの、ほっこりする、優しさがあふれているところでしょうか。特に、最後の「ほいたらね」のナレーションが大好きで、ナレーションもしたいと思うくらいです(笑)。それから、一人一人のキャラクターがはっきりしています。こういう長尺もので、いろんなキャラクターが出てくると、ちょっと似ていませんか? と思うことも起こりうると思うんです。それがないんですよ、不思議なことに。一人一人のキャラクターが立っていて全然違うんです。

――確かに、登場人物それぞれのキャラクターが見事に立っていますよね。

もう一つ、台本がとても魅力的だなと思うのは、そんなにドラマチックじゃないんですよ。そこが私は本当に好きで。いろんなことが積み重なって、この結果になっているという感じがして、物語のためだけに人物が登場してないところが、この台本のすごく好きなところです。登場人物一人一人のことをちゃんと大事にしている台本だなということを感じられるんですよね。また、豪華すぎる魅力的なキャストの方々がそろっておりますので、みなさんがどんなふうにそのキャラクターを演じているのか、実際のオンエアが楽しみです。