2025年3月1日(土)、3月8日(土)の2週連続でお届けする土曜ドラマ「水平線のうた」。東京・渋谷のNHK放送センターで行われた記者会見に主演の阿部寛(大林賢次役)、制作統括の杉田浩光が登壇した。
本作は宮城県石巻市と女川町を舞台に、“音楽を通して愛しい人の思いを繋ごうとする”主人公たちの姿を描いた、あたたかなヒューマンドラマだ。
東日本大震災の津波で家族が行方不明になった大林は「亡くなった人の霊がタクシーに乗る」という話を聞き、妻子に会いたい一心から13年間タクシーの運転手として働いている。女子高生のりら(白鳥玉季)をタクシーに乗せたことがきっかけで、奇跡が起こる。
原案は音楽家の岩代太郎氏。「なぜこの世に音楽が必要なのだろうか」と自問し「音楽は心在るところにしか存在できない」という思いに導かれてこの物語が生まれたという。
東日本大震災で実際に被災された方のドキュメンタリーパートも登場する本作。難しかったという役作りや、作品に込めた思いを聞いた。
本当の悲しみを表現するということ
東日本大震災から14年目となる今年。制作統括の杉田は冒頭「当たり前ですが、現地の人たちはまだ終わっていない。地元の人の中には家族にまだ会えるんじゃないかとずっと待ち続けている人がいます。主人公の大林賢次も行方不明になった家族に会いたいと願い続けている。そんな物語です」と本作のテーマを語った。
台本を読んだ感想を聞かれた阿部は、「最初に読んだ時は泣くシーンが多くて、メソメソし過ぎなのでは?」と思ったと話した。
阿部 本当の悲しみを表現するには、涙を流すよりも涙をこらえている方が悲しみの深さを表現できるのではと思ったんです。観ている人の心が本当に動くのは涙ではなく、表情なのではないかと。そこで監督に相談してみたのですが、僕が考えていることを超えた答えが返ってきました。
震災から14年経って、それを経験した大人は悲しみをずっと忘れずにいるけれども、震災の記憶がない世代や震災後に生まれた子どもたちは、そういう大人たちのある種の空気感を押し付けられているのではないか。本人たちは普通に生きていきたいけれど、重い空気の中で育っている。
それを聞いたときに、この作品は女子高生・りらの目線が重要なのだと気づきました。彼女からすると、大林は震災を忘れられずにずっと苦しんでいる大人。泣くというのはその表現の一つなのだと理解でき、腑に落ちました。

そして「若い世代が震災をどう感じているか、それを描いたドラマは新鮮で、自分の学びにもなった。この作品を多くの人に届けたい」と作品に込めた思いも伝えた。
今回はタクシードライバーの役であり、車を走らせるシーンも多い。現地のロケで感じたことを聞かれると「交通量が少なくて、撮影はスムーズな反面、寂しさを感じました」と振り返った。
阿部 震災後、被災地に行かせていただいたことがありました。微力ながらボランティアのお手伝いをさせていただき、3年くらい前に再び被災地に行ったんです。とても静かで、復興はまだ終わっていないと感じましたね。
今回は石巻、女川でのロケでしたが、公園などがたくさんあって整備されてはいるものの、ここでも静けさが印象的でした。現地の方々にいろいろお話を伺いましたが、自分がどんなに理解しようと思っても及ばない部分がある。その複雑な感情を大切に演じました。

ドキュメンタリーと地続きのフィクショントライアル
本作の見どころは、大林の妻、早苗(松下奈緒)と娘の花苗が震災前に一緒に演奏していた曲が起こした奇跡だ。大林はある場所で演奏会を行う。
地元の方々もエキストラで登場するが、ロケ地となった石巻市渡波地区に建つ野外音楽堂「レインボーシアター」の支配人であり、東日本大震災で子ども3人を亡くした遠藤伸一さん(本人が出演)と大林が話すシーンはドキュメンタリーの手法を取っている。その意図について杉田は「地元に根付いて生きている人たちの思い、生の声をドラマに入れたかった」と明かした。
杉田 この作品で一番伝えたいことをどう表現すればよいか。それを考えたときに、脚本家の港岳彦さんがドキュメンタリーを入れることでドラマと地続きになるのではないかと提案したんです。スタッフは全員膝を打ちました。
阿部さんにはとても難しいことをお願いすることになりましたが、撮影当日はまるで涙のような雨が降り、お子さん3人を亡くされて本当に苦しまれた遠藤さんの言葉と大林が対峙することになりました。
――ドキュメンタリーの中で演じるというのはどのような感じだったのだろうか?
阿部 遠藤さんはセリフではなく、ご本人の言葉なんです。僕は大林としてその場に立っているのですが、遠藤さんの繊細な感情の動き、ご経験されたことの深さをもって僕をまっすぐに見る眼差し。視聴者の方もこれは大林賢次なのか阿部寛なのかと思うかもしれません。自分の中では「ここは演技でなくてもいい」と思って撮影しました。
と、貴重な体験を振り返った 。

最後に見どころとして「エキストラの方が感動の涙を流すシーンがあります。参加された方は、撮影でそんな空気になるなんて思っていなかったと思いますが、演技ではなく本当の涙です。音楽のもつ力が改めてすごいと感じていただけると思います」と締めくくった。
大林賢次(阿部寛)は東日本大震災で音楽教師の妻・早苗(松下奈緒)と10歳の娘・花苗が行方不明のままだ。津波で亡くなった人の霊が客としてタクシーに乗るという話を聞き、妻子に会いたい一心から13年間タクシー運転手として働いているが、いまだ一度も会えていない。ある夜賢次は、タクシーに乗せた女子高生・りら(白鳥玉季)のハミングを聞き、驚く。それはとても懐かしい曲……だが賢次が曲名を聞いてもりらは答えず、降りてしまう。数日後、賢次は早苗と花苗が震災直前に何度もその曲を一緒に演奏していたことを思い出し、りらを探して曲名を尋ねる。賢次の話を聞いたりらは、片道2時間かかるとある場所まで連れていけば教える、という。向かった先は音楽喫茶店だった。りらは店の中にあった汚れた楽譜を手に取り、リコーダーで演奏する。それはまさに思い出の曲で賢次はりらの演奏に感涙するが、その楽譜の由来を知り衝撃を受ける。そして賢次はりらと共に、早苗の恩師・菊池先生(加藤登紀子)やかつての音楽仲間を尋ね、この曲を再び復活させようとするのだが……。
土曜ドラマ「水平線のうた」(2週連続)
2025年3月1日(土)、8日(土)
総合 午後10:00~
BSP4K 午前9:25~
脚本:港岳彦
原案・音楽:岩代太郎
出演:阿部寛、白鳥玉季、中川翼、キタキマユ、山中崇
宇野祥平、松岡依都美、山本浩司、菅原大吉、前原滉
/松下奈緒、加藤登紀子ほか
制作統括:杉田浩光(テレビマンユニオン)、高橋練(NHKエンタープライズ)、磯智明(NHK)
演出:岸善幸(特集ドラマ「ラジオ」、映画『サンセット・サンライズ』『あゝ、荒野』ほか)
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