すっかり漫画少年になった嵩は、弟の千尋(中沢元紀)の勧めで高知新報の懸賞の募集記事に漫画を応募し、みごと入選する。そして8年ぶりに、柳井家に母・登美子(松嶋菜々子)が戻ってきた。
嵩を演じる北村匠海に、登美子に対する思いや、父・清(二宮和也)と育ての親である伯父の寛(竹野内豊)、2人の“父”について、さらには「アンパンマンだ」という千尋について聞きました。
登美子がもたらした嵩の孤独感。そこに光を当ててくれたのは……

――子役の木村優来さんが演じていた部分ではあるのですが、嵩の幼少期、母の登美子(松嶋菜々子)の奔放な行動は、嵩の人格形成に何をもたらしたと想像されましたか?
それで言うと、嵩は愛情が不足している、枯渇している中で、生きてきたんだろうな、と。あとは弟の千尋(平山正剛)に対して、少なからず劣等感があっただろうし、疎外感もあっただろうし……。これは、自分も長男だから、すごくわかるんですよ。
3歳のときに僕の弟が生まれて、両親と弟が3人で前を歩いて自分ひとりが後ろをついていくという情景が、ものすごく鮮明に記憶に残っています。そして僕は母親とあまりケンカができなかったので、弟が母とリビングで膝を付き合わせて泣きながらケンカをしている姿を見て、それがすごく羨ましかったんですよね。だから、嵩も何もかもが羨ましく、輝いて見えていただろうな、と思います。
――嵩の孤独感の要因は、登美子にある?
成長して僕が演じる嵩になって、再び登美子さんが現れたときの、すぐに「母さん」と言えなかったりしたのは、トラウマということではないと思うんですけれど、孤独の中に身を置くことで自分を楽にしようとしたのかもしれないという気がします。
それは柳井嵩を演じるうえで、ずっと漂っているんですよね、今でも。登美子さんがもたらした孤独感というのは、多分、一生つきまとってくるものだとは考えていて、そんな嵩を照らしてくれるのがのぶ(今田美桜)だったという、ある意味、そういう物語だと思っているんです。
翳りの中を生きてきて、もちろん良いこともあったかもしれないけれど、悲しい出来事とたくさん直面してきた人間に、それこそパンを分け与えてくれたのが、のぶであり、千尋(中沢元紀)だったと思うんです。
でも、演じていて思うのは、逆に登美子さんに対する感謝の気持ちもあるんですよ。やっぱり母なので。そこは悲しいかな、どんな言葉を吐かれても、たとえ目の前からいなくなっても、母という存在は消えないし、薄れることもないんですよね。
嵩にとっての父親、寛と清。そして千尋と草吉は?

――のぶと同じように嵩を照らす光として、伯父の寛(竹野内豊)がたくさんの言葉を嵩にかけてくれていますが、嵩にとって寛はどういう人物ですか?
本当のお父さんだったと思いますよ、嵩にとっては。実の父親である清を二宮和也さんが演じてくれていますけれど、やっぱり「お父さんは誰だ?」と言われたら、それはもう寛さんしかいないな、と感じています。
だからこそ、あんなにすばらしい言葉、「アンパンマンのマーチ」の歌詞や今も語り継がれているような名言の数々をセリフとして竹野内さんが語ってくれていますし。それは寛さんだからこそ言える言葉で、本当の意味でのお父さんだったと思いますね。生き方を常に示してくれたのはやっぱり寛さんですよね。
――清役の二宮さんとは直接お芝居をするシーンがありませんでしたが、二宮さんにどんな印象を持っていますか? 二宮さんは「北村さんとは同じ属性だから、親子だという設定がしっくりきた」とおっしゃっていたのですが。
全く同じ思いでいます。それと二宮さんのお芝居って、どの作品を見ても(そこにいるのは)『二宮和也』じゃないんですよね。もちろん技術的なこともあるんですけれど、役者としての心がずっと漂っていて、怖さすら感じるほどです。
普段の二宮さんは、僕もそうなのですが、どちらかというと生きる中でも「何とかなるんじゃない?」みたいな感じなので、おこがましいんですが「似ているなー」と思っていて。たまたま撮影が重なって、現場で1度だけお会いしたのですが、その現場での佇まいも「僕も客観的に見たらこうなのかな」と思えて、そのときに「一緒にお芝居をしてみたかったな」と思いましたね。今は、その願いが叶う日が来ることを祈っています。

――中沢さんが演じている弟・千尋の存在については、どういうふうに考えていますか?
先ほど「嵩は痛みを知っているから、人に優しさや愛を配れる」と言いましたが、それを示してくれたのが、千尋なんです。千尋から嵩が受け取ったものが、すべての始まりなのかなと思いますね。だって、千尋はアンパンマンですから。
僕自身はもう、いろんなものを分け与えてもらっています。中沢くんとはもう何回かご飯に行ったりして。僕、彼のことがすごく好きなんですけれど、彼が演じている千尋には、強さと見守ってくれる力を感じるんですよ。それはシーン的にそう感じることもあるけれど、存在自体が嵩をずっと見守っているような感じで、「どっちがお兄ちゃんなの?」と思ってしまう状況がすごく多いですね。

――もう一人、独特なポジションにいるのが草吉(阿部サダヲ)さんで……。
その話は来ると思っていました(笑)。嵩にとって草吉さんは、ある意味、唯一の友達なんじゃないかなと思うんです。クランクインしてすぐに、川で草吉さんと2人で過ごすシーンが続いて、そのときにお互いアドリブを入れながら撮影していましたが、この2人の絆って、すごく心地いい、いちばん心地いいと言っていいくらい。
それはサダヲさんも音楽と役者をやられていて、しかもバンドのボーカルという、全く同じ立場。お互いのリズム感とか波長が芝居をしていても合うんじゃないかと思っています。お互いに孤独を抱えている草吉さんと嵩が、同じような境遇だからこそ分かり合えるというように。お互いに言葉では言わないけど、心が繋がっていることを、演じていてもすごく感じるんですよね。何だか、一緒にいるとホッとします。