「べらぼう」で渡辺謙さんが演じる田沼意次。意次と言えば、「賄賂政治家」のイメージがつきまといます。しかし、蔦重をはじめ、当時の江戸の人々にとっては、自由な雰囲気の世の中を作った人物としてありがたい存在でもあったようです。しかも、意次が相良藩主をつとめた地元、静岡県牧之原市では、むしろ“賢人”として評価されているというではありませんか。
早速、牧之原市に行って、真相を突き止めたいと思います!
※この記事は、NHK財団と牧之原市が制作するPR冊子「『べらぼう』+牧之原市」(発行・配布開始は1月下旬ごろを予定)のために取材した際の情報をもとに構成したものです。
向かったのは、意次が築いた相良城跡にある「牧之原市史料館」。
案内してくれるのは、牧之原市学芸員の長谷川倫和さんです。柔らかな物腰で優しそうな方ですが、メガネの奥の眼光がちょっと鋭い……! 意次にまつわる誤解を解こうとする強い意志?が感じられます。
この史料館は相良城主であった田沼意次の資料などを展示し、郷土の歴史の拠点とするために作られました(長谷川さん)
――あ、早速ですがマンガのパネルが!
はい、若い人たちに気軽に親しんでもらいたいと、2022年に意次の生涯を描いたマンガを制作しました。それをパネル化したものです。
意次が作った硬貨の変革は画期的だった
――意次と言えば、商売や経済を重んじる、“重商主義”で知られていますが。
では、貨幣の展示コーナーを見てみましょう。たとえば、この銀貨、南鐐二朱銀とよばれるものです。(長谷川さん)
――特別に持たせていただきました。大きさ、重さが全然違います
当時の交換レートは金1両=銀60匁=4,000文でしたが、実際は常に変動して取引されていました。しかも、銀貨は目方で価値が決まっていたのですが、意次は「南鐐二朱銀8枚で金貨1両とする」とレートを固定しました。差益で儲けていた両替商などの猛反発を食らうのですが、この施策は商売をスムーズにする、画期的な変革だったと言えます。(長谷川さん)
意次は将棋が得意 いろいろな趣味も
経済や政治とは別の顔を知ることができるユニークな展示としては、これをみてください、意次が作った「詰将棋」です(長谷川さん)
意次は将棋を好み、同じく将棋好きの将軍、徳川家治とも指すことがあったと考えられています。将棋だけではなく、和歌を詠んだり、絵や書もたしなむなど、意次にはインドアな趣味がたくさんあったのです。
老中には給料がなかった⁈ 資料に残る心優しい一面も
――文化芸術に理解があったということですね。では、そろそろ本題の……
“賄賂政治家”のことですね。牧之原市としては声を大にして説明させていただきたいと思います。なんといっても当時の老中職には給料がありませんでした。
また一定の贈り物をすることは一般的な価値観に沿う行為でした。それをいまの「賄賂」という物差しで測ってしまうのは、少し無理があると思っています。意次は商業を繁栄させたゆえに、そういった贈り物が増えたことは当然のことでした(長谷川さん)
――ええ? 給料がなかった? それは確かにかわいそうな気がします
贈り物によって私腹を肥やしていたなどというのは誇張ではないかと。随筆家・神沢杜口によって書かれた『翁草』には、寒い早朝に、登城する前の奉公人たちに意次が酒や温かい食事をふるまったなどと書かれています。細やかな心遣いができる人でした(長谷川さん)
――そんな上司がいたら嬉しいですね~。
意次が子孫のために残した『遺訓七か条』には、将軍への忠節を忘れてはならない、大名や旗本とは表裏がない付き合いをしなさい、家来には情けをかけ、えこひいきのないように扱いなさい、などと書かれています。このように忠義を重んじる実直な人だったのです。私利私欲で動く人物とは思えません。(長谷川さん)
――説得力あります。
牧之原市では意次のことをもっと知ってもらうために様々な活動を行っています。「意次ドットコム」サイトでは、スマホで解説動画を見ながら、ゆかりの地を巡ることができる情報を提供しています。また、「田沼意次候」を地域資源ととらえ、シティプロモーションや地域活性化のコンテンツとして魅力あるまちづくりに取り組んでいます(長谷川さん)
――ありがとうございました
牧之原市学芸員・長谷川倫和さんのお話、いかがでしたか。田沼意次のイメージ、変わりましたか?
牧之原市では史料館以外にも、田沼家の位牌をまつる平田寺や、意次が作らせた太鼓が残る般若寺など、いくつものゆかりの場所があります。
これまでのイメージとは違う、“賢人”田沼意次の足跡を訪ねてみてください。
【牧之原市史料館での関連イベント】
「田沼意次の新時代展」
<内容>
・田沼意次や相良藩に関する新発見の資料
・田沼時代に活躍した文化人に関する資料 など
共催:牧之原市、牧之原市大河ドラマ「べらぼう」活用推進協議会
期間:2025年1月26日(日)~2026年1月12日(月・祝)
「大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』展・静岡まきのはら」
<内容>
・番組紹介パネル
・出演者直筆サイン
・キャストビジュアルバナー
・ドラマ使用衣装及び小道具 など
主催:NHK財団 入場無料
期間:2025年1月26日(日)~2026年1月12日(月・祝)
詳細は、牧之原市のサイトでご確認ください。(※ステラnetを離れます)
(取材・文:平岡大典[NHK財団])
(取材協力:牧之原市 写真:Kosuke Kurata)
この記事は、NHK財団が制作したPR冊子「『べらぼう』+牧之原市」のために牧之原市を取材した際の情報をもとに構成したものです。
NHK財団では大河ドラマや連続テレビ小説のご当地のみなさまとともに、冊子やポスターなど様々なコンテンツを制作しています。
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