大河ドラマ「べらぼう」がいよいよスタートしました。舞台は18世紀後半の江戸。浮世絵や狂歌といった江戸の文化がパアっと花開き、つたじゅうことつたじゅう三郎ざぶろうが鮮やかに駆け抜けていった時代です。

このシリーズ「べらぼうの地を歩く」では蔦重ゆかりの地を歩き、時代の痕跡を探します。確かにそこで生きていた江戸の人々に思いをせていただければと思います。どうぞお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。
第1回は、蔦重のふるさと「吉原」です。

※この記事は、NHK財団が台東区と一緒に制作するPR冊子「べらぼう+台東区」のための取材をもとに構成したものです。


5つの神社が一つになった「吉原神社」

「吉原」があった場所は、現在の台東区千束3丁目~4丁目あたり。今回私たちは地下鉄銀座線・浅草駅から都営バスを利用しました。(日比谷線・三ノ輪駅から徒歩でも行けます)
最初に訪ねたのは「吉原神社」です。

現在の吉原神社には5つの神社が合祀されている。

蔦重の時代、吉原遊郭にはその四隅と、入り口にあたる「吉原大門よしはらおおもん」の手前、合わせて5か所に神社がありました。
中でも、最も信仰を集めたのが「九郎助稲荷」です。「べらぼう」の初回では、綾瀬はるかさんが吉原を見守る「九郎助稲荷」として登場しましたね。スマホ片手に当時の吉原を案内する綾瀬さんの「九朗助稲荷」には白いキツネの尻尾(?)が生えていましたが、ご存じキツネは稲荷の使いです。

吉原神社 松木伸也 宮司

「九郎助という男が神社の前に住んでいたのが由来とも言われています」。九郎助稲荷の名前についてそう説明するのは、吉原神社の宮司、松木伸也さん。「ただし、様々な伝承があり、はっきりとはわかっていません。神社としては、どの伝承も大切にしております」とも。

写真:参拝する前に手を清める女性たちを描いた『青楼絵抄年中行事 下之巻』(画・喜多川歌麿) 国立国会図書館蔵

九郎助稲荷は縁結び、所願成就などの神様とされ、吉原で働く女性たちが連日連夜詰めかけたといいます。かなわぬ恋に心を痛める女性も多かったはずです。

「九郎助稲荷のうまの日の縁日はたくさんの店が立ち並び、大変なにぎわいだったといいます。8月には『にわか』と呼ばれる九郎助稲荷の祭礼が行われていました。芸者たちによる仮装行列や、移動式の舞台の上では踊りや芝居が披露されて人々を楽しませたそうです」(松木さん

九郎助稲荷は「吉原京町二丁目」、吉原大門から遊郭に入って突き当り、(大門を背にして)左端にありました。残念ながら、現在のその場所に名残を見つけることはできません。

明治14年、九郎助稲荷をはじめとする5つの神社が合祀され、現在の吉原神社が創建されます。

吉原神社には合祀された神社の名前などが書かれた提灯が。右から3番目に「九郎助稲荷」という文字が見える。

私がここを訪れた時は「浅草酉の市」の前日。神社の前の通りでは、色とりどりの屋台の準備がせわしなく始まっていました。蔦重が生きた時代の吉原の賑わいや九郎助稲荷の縁日を想像しながら、その光景を眺めていると不思議な気分に……。


吉原の大門があったことを示す看板。

蔦重の最初の店はどこに?

さて、次に訪れたのが遊郭の唯一の出入り口「吉原大門」があった場所。
大門は残っていませんが、看板でその位置を知ることができます

蔦重の店があったことがわかる地図(「吉原再見」より 国会図書館蔵)

吉原大門に至る、曲がりくねった道が「五十間道」。引手茶屋や料理屋が立ち並んでいました。そこで客たちが衣服をつくろったことから「もんざか」とも呼ばれていました。蔦重が書店「耕書堂」第1号店をオープンしたのはこの道沿い、大門のすぐそば、上の写真の赤で囲ったところです。
いま、その場所には民家が立ち並んでいます。

吉原大門交差点付近、現在の“見返り柳”

五十間道の始点、吉原大門交差点付近にあるのが「見返り柳」です。
遊郭から帰る客たちが、このあたりの柳の木の下で名残惜し気に後ろを振り返ることから「見返り柳」の名がつきました。吉原を舞台とする、樋口一葉「たけくらべ」の冒頭に登場することでもその名が知られています。柳の木の下には立派な石碑もたっています。その向こうにはスカイツリーが見えました。


大河ドラマ「べらぼう」は、しばらくはここ吉原がメインの舞台となります。浅草から少し足を延ばして、「べらぼう」の世界や、歴史的背景を感じてみてはいかがでしょうか。

【吉原神社】
住所:台東区千束3-20-2
吉原神社公式サイト:吉原神社※ステラnetを離れます
【台東区】公式サイト「蔦重ゆかりの地 台東区」※ステラnetを離れます

(取材・文:平岡大典[NHK財団]) 
(取材協力:台東区 写真:Kosuke Kurata[一部を除く])

この記事は、NHK財団が台東区と一緒に制作するPR冊子「べらぼう+台東区」のための取材をもとに構成したものです。
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