大切な私の家族……ペットと一緒に暮らしている人は、この子をただの動物、と思うことなんてきっとできないでしょう。
今、国内で飼われている犬や猫の数は、1,500万頭以上。災害で避難を余儀なくされた場合、多くの飼い主が自分の命ばかりではなく、この「大切な家族」をどう守るのか、という難題にも立ち向かうことになります。
NHK財団では、防災ワークショップ「災害からペットを守る」を開催します。
10月27日(日)午後1時から、会場は東京・世田谷区にあるNHK放送技術研究所の講堂で、入場は無料です。
※申し込みの応募フォームはこちら(※ステラnetを離れます)
ワークショップでは実際に避難を体験した方をご紹介します。
今回はご協力いただいた、富山県高岡市の女性と、その“家族たち”の避難について、お伝えします。
地震! 避難の日々が始まった
富山県高岡市の子浦幸子さんは、今年1月の能登半島地震で、当時住んでいた氷見市の自宅が準半壊。母親と2頭の犬、2羽のインコを連れて各地の避難先を転々としました。身を寄せた施設は8か所。9か所目でようやく高岡市の住宅に落ち着きました。ペットとの避難の日々は45日間に及びました。
<1か所目>旅館(車中泊)
能登半島地震で震度5強を観測した富山県氷見市では、38棟が全半壊するなど、多くの住宅に被害が出ました。当時、母親と2頭の犬(ポメラニアンのルイちゃん・ルカちゃん オス5歳)、2羽のインコと暮らしていた会社員の子浦さんの自宅も、壁が崩れたりするなどの被害を受け、避難を余儀なくされました。
発生当日の夜は、氷見市内の旅館に宿泊。犬とインコは軽ワゴン車に避難させ、母親と交代で世話をしながら一夜を過ごしました。
<2か所目>小学校
翌日、避難所に指定されている氷見市立上庄小学校に向かいます。犬とインコがいることを伝えると、体育館ではなく「指導員室」に案内されました。10畳ほどの広さで、ストーブもあり、温かく過ごすことが出来ました。短く自宅に戻り、取り出せるだけのフードとペットシーツを確保しました。
<3か所目>スポーツ施設(車中泊)
小学校の避難所は1月5日で閉鎖になり、氷見市内のスポーツ施設に移るよう指示されました。「動物も大丈夫」と聞いたものの、実際にはロビーまでしか入れません。インコはロビー、犬は駐車場の軽ワゴン車に逆戻りです。
母親と交代でエンジンをかけたり止めたり……夜は駐車場の灯りが消え、雪が降り出しました。
「寒さと怖さで休まらなかった」(子浦さん)
犬たちは食欲が無くなり、下痢をしたり、急に噛みついたり、異常が目立つようになります。
あまりの辛さに「犬を中に入れさせてもらえませんか」と何度かスポーツ施設に相談しましたが、「動物にアレルギーのある人がいるから」と断られたそうです。
<4か所目>動物支援NPO施設
そんな中、動物の支援活動に熱心なNPOが運営するカフェをお隣の高岡市内に見つけた子浦さん。1月10日の夜からお世話になることができました。
カフェの一角を借り、車中泊から逃れ、人も犬も「久しぶりにほっとした」そうです。
<5か所目>準半壊の自宅
子浦さんは、避難先を転々としながら、妹と協力して、新しい住まいを探し続けていました。しかし、手頃な物件は申し込みが殺到し、瞬く間に決まってしまいます。
カフェに長居するのも申し訳なく感じ、1月15日に壊れかけた住宅に戻ってみることにしました。
被害を確かめると、6畳ほどの仏間だけは大丈夫そうで、母と2頭の犬、2羽のインコを連れて自宅に戻りました。久しぶりに熟睡する犬たちを見て安堵しますが、地震は続いています。
「揺れる度に、どう逃げようか、とても怖かった」(子浦さん)
<6か所目>旅館
そんな子浦さんの暮らしぶりを勤務先の会社の危機管理部が心配し、ペットが泊まれる旅館を手配してくれました。宿泊費は上司が交渉してくれて安くなり、会社の負担で利用できることになりました。
犬とインコとともに1月20日からこの旅館で過ごしました。
<7か所目>動物病院
旅館に移った頃、氷見市内の動物病院が「被災者のペットを無料で預かります」というサービスを始めました。早速連絡し、午前9時から午後4時までの日中の時間帯は、毎日犬を預かってもらうことになりました。
<8か所目>コテージ
2月1日、お世話になっていた旅館が、ボランティアの医師団を受け入れることになりました。再び勤務先の会社が、海沿いのコテージを探してくれたので、そこに移ることになりました。
度重なる環境の変化のせいか、犬たちは自分の腕を噛んだり、舐めたり……情緒不安定な状態が続きます。
<9か所目>隣町に転居 ようやく落ち着けました
2月15日、子浦さんは隣の高岡市で動物たちと住める住宅を見つけ、母親と犬とインコを連れて入居しました。住み慣れた氷見市内ではありませんでしたが、幸い職場には近く、住まいの心配をしなくてもよい生活が、被災から45日ぶりにようやく訪れました。
「こんなに大変な経験をするとは思いませんでした」
避難の日々を振り返り、子浦さんは語ります。
「無駄吠えないようにしつけておくべきでしたし、寒さ対策や、好んで食べるフードなど、備えておくべきことがたくさんあることを、避難を経験して初めて知りました」
災害で避難を余儀なくされた場合、多くの飼い主が、子浦さんのような経験をすることになります。大地震や津波、大雨など、災害の絶えない日本で、災害からペットの命を守り、飼育環境を維持することは、現代社会の課題のひとつです。
10月27日に行われる防災ワークショップ「災害からペットを守る」では、日頃の備えについてや、災害時の対応について疑似体験。テレビでお馴染みのチコちゃんが出題者となって防災の知識を学ぶクイズコーナーもあります。飼い主や地域社会に求められることを会場の皆さんと一緒に考え、理解を深める催しです。この記事でご紹介した子浦さんの体験も、動画で詳しくお伝えします。
10月27日のワークショップにぜひお越しください。
防災ワークショップ「災害からペットを守る」
主催:公益財団法人・日本動物愛護協会
後援:東京都、世田谷区、東京都獣医師会、NHK
入場無料
10月27日(日)午後1時開演
会場 NHK放送技術研究所 講堂(東京・世田谷区)
観覧ご希望の方は、スマホやパソコンからお申し込みください。
こちらから応募フォームにアクセスできます(※ステラnetを離れます)
申し込みの締め切り 10月14日(月)
開催についてのお問い合わせは、社会貢献事業部へどうぞ。
(取材/文 社会貢献事業部 星野豊)