映像機器の世界には、「標準動画像」というものが存在します。これは、映像機器やディスプレイ、映像音響システムの性能を評価する際に使用される基準画像のことです。特に、放送方式を策定したり、運用条件の検討や検証には不可欠なもので、映像の品質評価に重要な役割を果たします。
NHK財団では、標準動画像の制作元である一般社団法人映像情報メディア学会(ITE)からの依頼を受け、解像度の異なる2種類の標準動画像を放送事業者や映像機器メーカーなどに頒布しています(標準動画像の仕様など詳細はこちら)。
本記事ではこれらの頒布事業についてご紹介します。
地上デジタル放送開始に向けた動き~ハイビジョン・システム評価用標準動画像第2版
2011年の地上アナログ放送停波(東日本大震災の一部被災地では翌年に延期)に向けて、地上デジタルテレビ放送への関心が一般にも広まりました。
そうした中で、国際電気通信連合無線通信部門(ITU-R)による高精細度テレビジョン(HDTV)のスタジオ規格「ITU-R勧告BT.709」に準拠した標準動画像を、電波産業会(ARIB)とITEが共同して制作しました(「ハイビジョン・システム評価用標準動画像第2版」)。
上の動画は「標準動画像」を組み合わせて作成
映像素材の撮影、編集を主にARIBの作業班が担当し、ITEの小委員会が監修と解説書の作成、頒布を担当しました。NHK財団はITEから委託を受け頒布事業を実施してきました。
収録されている映像シーケンスは、フォーマットの違いにより、AシリーズとB シリーズに大別されます(表1)。また、Aシリーズをフォーマット変換したCシリーズもあります。
各シリーズの動画像は、通常の番組制作に用いられるものに近い素材を集めた「一般画像」と、特定の評価項目に特化して撮影された「特殊画像」に分類されます。
各シーケンスはDVDディスク1枚に収録されています。付属する解説書(テストチャート解説書 )でシーケンスの画像の特徴や撮影地、使用したカメラレンズデータ、フィルタ、絞り、ゲインなどのパラメータが提供され、活用する上での利便性を高めています。
4K/8Kの時代~超高精細・広色域標準動画像Aシリーズ
2012年に超高精度テレビジョン方式(UHDTV)のスタジオ規格である「ITU-R勧告BT.2020」が制定されます。2015年7月に総務省の「4K・8Kロードマップに関するフォローアップ会合」第二次中間報告で2016年からの4K・8K試験放送開始が示されたことで、超高精細映像に関する研究開発が活発になりました。
この状況を後押しするため、BT.2020に対応した初の標準動画像として「超高精細・広色域標準動画像Aシリーズ」が発行されました。
早期の実用化に対応するために、NHK所有の映像の中から、各種評価やテストへの利用を想定して候補画像を選定し、さらに画像の隅々まで不具合がないことを専門家により詳細にチェックされた映像で構成しています。NHK財団では、この新しい標準動画像の頒布も担っています。
超高精細・広色域標準動画像は、映像のデータ容量が1シーケンスで186.7GBと大きいため、DVDディスクに代わり、シーケンス数に合わせた容量のハードディスク(あるいはSSD)で提供します。
表2に示すように、本標準動画像では映像機器の評価に必要な項目を各シーケンスで備えています。さらにハイビジョン版同様に、専門家による解説書(manual_uhdtvA.pdf)が付属しています。
標準動画像の活用は海外でも~企業での活用事例
今回、頒布先の一つであるLG Japan Lab株式会社様を訪問し、出葉義治首席研究員と須藤智史首席研究員に標準画像の活用事例をお聞きしました。
同社では、次世代テレビ開発の現場で、標準動画像が頒布開始当初から画質や放送機能のチェックに活用され、商品開発の一助となっている様子が伺えました。
出葉さん 新しい映像規格BT.2020が勧告された時に、対応したテストストリームはITE制作のこの標準動画像以外なかったので大変重宝しました。それ以来、ずっと活用しています。
須藤さん 従来の映像規格BT.709を超えた色域などがきちんと入っているので、画質の判断用に日本だけでなく本国(韓国)でも使っています。
この他にも標準動画像は、国内外の多くの映像関連機器企業や研究機関に頒布され、デジタル放送ならびに4K・8K放送の普及に貢献してきました。また、放送のみならず、インターネットを用いた動画配信サービスの発達にも貢献しています。
今後も社会に貢献することを使命とする財団として、ARIBおよびITEとともに映像技術の進歩発達に寄与していきます。なお、ITEのホームページ(※ステラnetを離れます)では、その他の標準動画像も紹介されており、内容確認用のプレビュー映像も掲載されていますので、興味を持たれた方はこちらもご参照ください。
(NHK財団 技術事業本部 林 直人)