「児童・生徒がさまざまな社会の課題に『自分ごと』として向き合い、行動できるように育むにはどんな授業や活動をしたらいいのか?」

この問いを起点に、NHK財団は2021年度から明治大学の岸磨貴子研究室や学校現場の教員とプロジェクトを組み、研究を行いました。その3年間の研究を通じて、ヒントが見えてきました。


大学、学校現場、NHK財団が連携。

プロジェクトの研究テーマは、「NHK for Schoolの番組などを活用したSDGs教育プログラムの開発」。児童・生徒がSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)のような社会の課題に「自分ごと」として向き合い、行動できるように育むためにはどのような授業や活動をしたらいいのか? またその際、NHKの学校放送番組や動画コンテンツの視聴がどのような役割を果たすのか? この研究を通じて明らかにすることを目指しました。

プロジェクトの座長に明治大学国際日本学部准教授(当時)の岸磨貴子先生、副座長にNPO法人学習創造フォーラム理事長・関西大学名誉教授の久保田賢一先生を迎え、学校現場の教員7名や岸研究室の学生・大学院生からなるチームを作ってプロジェクトを進めていきました。定期的にリモートミーティングを行いながら、7名の教員がそれぞれの所属校で授業実践を行い、その様子を明治大学の岸先生と学生・院生が記録しました。

国籍や言葉の異なる児童が多いクラスで授業を実践。

実践者のひとりである、港区立南山小学校主幹教諭の田端芳恵先生の学級には外国人の児童が多く在籍しています。田端先生は、国籍や言葉の異なる児童が互いの良さを認め合い、楽しく生活できる学級を目指し、日本人児童と外国人児童の間のコミュニケーションを深めるために学校放送番組を活用したいと考えました。

そこで、学校放送番組の視聴と「ことばを紡ぐ」活動を取り入れた授業を行いました。使った番組は、国際共同制作「カラフル!」から「山の分校でみつけた友だち」と「街から女の子が来た」の2本。山村留学に来た子とその子を迎えた地元の子の交流を、前者は山村留学した子の視点、後者は地元の子の視点で描いた番組です(※放送・配信は終了しています)。

同じ話題を異なる視点から描いた2本の番組を視聴して、考えを深める。

田端学級の児童は、番組の感想や印象に残ったことをタブレット端末で書き込み、クラス全体で共有しました。1本目とは異なる視点で描かれた2本目の番組を見た後は、感想の言葉がより豊かになっていきました。

続いて、登場人物の一人になりきって別の登場人物あての手紙を書くという課題に取り組みました。

誰かになりきって手紙を書くためには、その人の気持ちを想像しなくてはなりません。「手紙を書く」という課題設定は、番組に登場した子の気持ちを「自分ごと」として想像できるようにするため、岸先生と田端先生が取り入れた工夫の一つです。

田端学級の児童は、実際に手紙を書いてみることで、「もしかしたら自分のクラスの友だちも、番組に登場した子と同じように感じているのかもしれない」ということに気づいていきました。同じ番組を視聴してことばを紡いだ体験が、言葉やルーツの違いを超えて互いの良さを認め合うきっかけになったのです。

プロジェクトの成果を研究会・学会・ウェブサイトで発表。

南山小学校の田端学級のほかにも、各教員の所属校・担当学年・クラスの課題に合わせてさまざまな授業実践が行われました。特別支援学校の生徒の自己表現力の育成を目的に学校放送番組「u&i」を視聴した授業や、防災について調べるプロジェクト型の学習に「ドスルコスル」の視聴を取り入れた授業などです。

それぞれの授業の様子は、岸研究室のメンバーによって詳しく記録され、学会発表や論文の形にまとめて発表されました。また、2023年11月に開催された第74回放送教育研究会全国大会では、岸先生と田端先生によるワークショップが行われました。

このワークショップでは、田端先生が自校での実践について報告した後、岸研究室メンバーのファシリテーションのもと、参加者全員が「番組の登場人物になりきって手紙を書いてみる」活動を体験。登場人物の気持ちを想像しながら、その人が直面している課題を「自分ごと」として捉える活動のイメージを共有しました。

また、教育工学、教育メディア、多文化共生などの学会や研究会の場でもこのプロジェクトの成果の一部が発表されました。このプロジェクトの概要や成果は、岸先生のウェブサイトで公開されています。

明治大学国際日本学部 岸磨貴子先生のWEBサイト(ステラnetを離れます)
NHK for Schoolの番組などを活用したSDGs教育プログラムの開発

このサイトの「知恵の蔵」のコーナーでは、プロジェクトでの実践例をもとに構想されたワークショップ型の活動モデルが紹介されています。「映像コンテンツ×手紙を書く」「映像コンテンツ×日記を書く」など、視聴した番組や映像コンテンツを「自分ごと」として考える授業・活動の進め方がイラストつきでわかりやすく書かれています。

番組視聴を入口にした活動モデルの例。

このような活動モデルが、誰でも閲覧できるWEBサイト上に公開されることで、プロジェクトを通じて得られた知見や実践のアイデアが、学校現場の先生方に共有されて広まっていくことが期待されます。


NHK財団は、社会奉仕業務の一つとして「放送教育・ICT教育のあり方に関する調査・研究」を実施し、NHK for Schoolの番組の効果的な活用について研究する教育現場の先生方をサポートしています。また、NHK for Schoolのウェブサイトに掲載されている番組や関連コンテンツを紹介する先生向けのセミナーや、番組の視聴を取り入れた授業づくりについて考えるワークショップの運営を、NHKから受託して実施しています。

教育委員会や教育研究会などからのお申し込み、お問い合わせを随時受け付けています。お気軽にご相談ください。

(関連リンク)
「NHK for School」先生向け研修会のお知らせ

学校でも 家庭でも 頼れる映像の図書館 「NHK for School」ポータルサイト

(文/NHK財団 展開・広報事業部 市谷 壮)