「日本最古の道」とも言われる「山の辺の道」。4〜5世紀に、飛鳥と奈良を結ぶ道として造られたといわれます。のどかな景色の中に神社や古墳も点在する桜井ルートを、奈良県立万葉文化館 企画・研究係長の井上さやかさんにご紹介いただきました。
聞き手は中村宏アンカーです。
この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2024年5月号(4/18発売)より抜粋して紹介しています。


――山の辺の道はハイカーに人気で、『万葉集』に詠まれた場所も多いようですね。

井上 現存する最古の歌集『万葉集』に収められた歌は、天皇や貴族だけでなく、防人さきもりや作者未詳も含めて4千5百首以上。都のあった奈良には、その舞台となった場所も多く、歌をほうふつとさせる景色に出会えます。

大神おおみわ神社は『古事記』にも

井上 大神神社は、『古事記』にも記される日本最古の神社の一つ。展望台があり、奈良盆地全体が望めます。

――この神社には、奈良時代にタイムスリップしたような雰囲気がありますね。

井上 はい。境内には、しめ縄が張られた神聖な杉の木があります。この神杉が登場する歌をご紹介しましょう。

味酒うまさけを 三輪のはふりが いはふ杉 手触れし罪か 君に逢ひがたき
丹波大女娘子たんばのおおめのおとめ

訳:三輪の神官がまつる杉に手を触れるようなことをしたのか、その罪によって君に逢いがたいことよ。

井上 「三輪」は大神神社の神様を指す言葉で、味酒はその枕詞まくらことばです。神官が祝う杉、いわゆる御神木に手を触れるタブーを犯してしまった。その罪であなたに会えないのでしょうかという、会いたい人になかなか会えない嘆きを歌っています。


神の山、三輪山

雲が立ち上る三輪山 ふもとには大神神社の大きな鳥居が  撮影/AONI PHOTO 藤山好典

井上 大神神社の御神体は三輪山で、山そのものをご神体として祭る古い信仰の形を残しています。そのため、拝殿のみで本殿はありません。

――拝殿奥の鳥居はユニークで、3つの鳥居を横に並べたような形をしています。

井上 三ツ鳥居と呼ばれる独特なものですね。ここに祭られているのは、『古事記』にも登場する大物主大神おおものぬしのおおかみで、この神様と女性との恋の物語「三輪山伝説」が語り継がれています。現在では縁結びの神としても知られています。

――伝説に満ちているんですね。ここは眺めがよく、大和三山も望めます。

井上 神社の境内の展望台からは奈良盆地全体を見渡せます。雨の日に行ったのですが、山々から雲が立ち上り、それもまた幻想的でした。

※この記事は2023年11月11日放送「歩いて感じて万葉集~山の辺の道~桜井ルート」を再構成したものです。

月刊誌『ラジオ深夜便』5月号では、「山の辺の道」を万葉の歌とともに歩くルートをご紹介しています。

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