3月4日(月)より放送中のオムニバスドラマ「ユーミンストーリーズ」。

第1週「青春のリグレット」は、青春時代のある記憶が後悔となって呼び起こされる、ほろ苦い恋の物語だ。世渡り上手で、人と真摯に向き合ってこなかった菓子かこは夫の浩介(中島歩)に離婚を切り出され、激しく動揺する。「私を許さないで 憎んでも覚えてて」という『青春のリグレット』の歌詞の世界を生きるような菓子。

そんな難しい役柄を演じた夏帆さんにお話を伺った。


第1週の主役・菓子役の夏帆さん

――綿矢りささん原作ということもあり、心理描写が繊細で難しい役だったと思いますが、夏帆さんは菓子という女性をどう捉えて演じられましたか?

最初に脚本を読んだとき、菓子と同じ経験をしたわけではないけれど、心をどこかぎゅうっとつねられているような、チクチクと痛みを感じるような感覚がありました。「難しそうだな」と思いつつ、やりがいも感じて「これは絶対にやりたい!」とすぐにお返事させていただきました。菓子には共感できるところもあれば、共感できないところもあって、その説明できないキャラクターが魅力でもあるのですが、離婚に直面して過去の自分を後悔し、成長していく姿は自分とも重ねられました。

菓子は世渡り上手で、一見人付き合いが上手なんですが、だからこそ人とちゃんと向き合ってこなかったと思うんです。私自身は人と向き合うことで失敗に気づいたり、それによって落ち込んだときに自分の良くなかった部分を認めて反省したり、ということを繰り返しているのですが、菓子は多分、それをやってこなかったんでしょうね。ずっと「この言葉を言うことで相手がどういう風に感じるのか、傷ついてしまうのか」ということがわからずに振る舞ってきたのだと思います。陸と別れて10年後、浩介(夫)との関係が壊れそうになったとき、ようやく過去の自分を見つめ直すことができる。最終話では、そんな菓子を見ていただけると思います。

――ドラマは過去と現在が行き来して物語が進んでいきます。綿矢さんも「夏帆さんの演じ分けが楽しみ」とコメントされていましたが、どのように演じられたのでしょうか。

ちゃんと演じ分けられたのかどうかは自分ではわかりませんが、監督とは、意識的にお芝居を変えるというよりも、浩介役の中島歩さん、陸役の金子大地さんとの関係性の中で菓子の違いが出せれば、という相談はしました。

実際、お二人それぞれにたいしていると、人柄もお芝居のアプローチの仕方も全然違うので自然と自分のたたずまいが変わってきて、陸に向き合う菓子、浩介に向き合う菓子を演じられたと思います。

――印象に残っているシーンはありますか?

今回、長野県で撮影をしたのですが、すごくきれいな景色をたくさん撮っていただきました。コテージのテラスの朝焼けのシーンや湖畔のシーンでは霧が漂ってきて、とても幻想的になったと思います。まるで映画のようにとても丁寧に、その場の空気を切り取るように作られた作品の空気感を感じていただけたら嬉しいです。

――美しい情景が浮かんだあとで恐縮ですが、1話目でゴキブリが出てくるシーンがありました。あれは本物ですか?

本物です。ですが、撮影時はもちろんいませんよ! おもちゃを動かして、目線を作ってもらいました。本物が壁を歩いている部分は別撮りです。菊地監督はとにかく苦手らしく、かなり遠いところから「OK」を出したそうです(笑)。

あれは監督の実体験だそうで、ほかにも監督ご夫婦の実際のエピソードが、本編にいろいろ出てきています。

――夏帆さんに、青春のリグレット(=後悔)はありますか?

もちろん山ほどありますよ(笑)。後悔だらけです。菓子のようにきっと人を傷つけてしまったこともあるだろうし。若い頃って自分も未熟だし、無意識に人を傷つけてしまうようなこともあると思うのですが、そういうことを経験したから今がある、と思いたいです。

――松任谷由実さんには撮影前にライブで会われたそうですが、どんな印象ですか?

「まさかお会いできる日が来るなんて!」とかなり舞い上がってしまったんですが、気さくに話しかけてくださって、ますますファンになりました。先日、母とドライブしたときにユーミンさんの好きな曲をかけ合って、歌詞の世界観について語り合ったのですが(笑)、世代を越えてこんなに盛り上がれるなんて、あらためていろせない音楽なんだと感じました。

――ありがとうございます。では最後に、視聴者にメッセージをお願いします。

このドラマは、本気で人と向き合うことをせず、大きな挫折も知らなかった菓子の成長物語でもあります。きっと誰もが青春時代にたくさんの後悔があって、ほろ苦く懐かしい思いがよみがえるかもしれません。そんな気持ちを共有できたらうれしいです。