すっかりおなじみとなった、平日夜の帯ドラマ「夜ドラ」。10月16日からスタートしたのは、『ミワさんなりすます』。ビッグコミックオリジナルで連載中のマンガが原作で、松本穂香さん演じる主人公の久保田ミワ役のビジュアルは、「原作そっくり!」と放送前から話題になっていました。なぜこの作品がドラマ化したのか、本作の制作秘話などを、夜ドラ編集長で、本作の制作統括でもある渡辺悟さんにお話を伺いました。

【あらすじ】
とにかく映画が大好きなフリーター・久保田ミワ(29)(松本穂香)は、映画愛が強すぎてバイト先のDVDレンタルショップをクビになる。ふとしたことから、敬愛する俳優・つみたかし(56)(堤真一)が自宅で家政婦を募集していることを知ると、好奇心を抑えきれず八海邸に偵察に向かう。まさかの偶然で、八海のマネージャー・藤浦華純(山口紗弥加)に八海邸の新人家政婦と間違えられたミワ。人違いと言い出せず、その日から“スーパー家政婦”になりすまして八海邸で働くことに。「すぐにバレるに決まってる」とビクビクしながらも、“神”と崇める八海と言葉を交わせる職場で夢のような“圧倒的ロマンス”に身を焦がすミワ。垣間見える八海の素顔の尊さに、ますます夢中になっていく。度重なる身バレの危機をなんとか乗り切っていたものの、ある日ついに、ミワがなりすました当の本人・美羽(みわ)さくら(恒松祐里)が姿を現し――。

――どうしてこのマンガをドラマにしようと思ったのですか?

昨年春くらいだったと思うのですが、提案会議の場で、寺﨑英貴という一番若い監督がこの原作を「ぜひドラマ化したい!」とプレゼンテーションしたのがきっかけです。寺﨑は主人公の久保田ミワ(29)と同い年で、感覚的にも感性的にも近いものがあったようで、視聴者にも共感を呼べる作品になるのではないか、ということで決定しました。

――渡辺さんが原作を読んだ時、どのような印象でしたか?

『ミワさんなりすます』の面白いところはいくつもあります! 第一に、ミワさんが、スーパー家政婦になりすますことで大変なことが起きるんですけど、自分自身の置かれている状況に対して、客観的に語るのが非常にコミカルなところです。また、「もうダメだ」と追い詰められた時に、映画好きであることが武器になって、全く真逆の展開が起こり、感情が乱高下する場面が多いのですが、それが巧みに仕込まれていて、予想外に感情を上下させられるところがいいですね。

ミワさん本人は映画が好きすぎるためにアルバイトをクビになったりして、人生うまくいかない状況にあって苦労しているんだけど、大好きすぎるものがあること自体が、実はいい価値を持っていて、「あなたはあなたのままでいい」と肯定している感じも今の時代に合っていると思いました。今はいくら自分が頑張ったってどうにもならないことが多い、閉塞感のある時代ですから、背中を押したり、励ましたりするほど押し付けがましくなく、そのままの自分を肯定する感じは、観ている側にとっても救いになるんじゃないかと思うんです。

――本作の主人公・久保田ミワは、映画が好きすぎることを周囲からバカにされ、極力目立たないように行動しています。そのため、決して口に出すことはないけど、頭の中でものすごくいろんなことを考えているキャラクターです。これをドラマで表現すると、一歩間違えると説明調になってしまいそうですが、工夫をしたことはありますか?

確かに、すごくモノローグ(登場人物の独白)が多い物語です。脚本の初稿が上がってきた時にも、「やっぱり多い」と感じて減らそうという話になったのですが、逆に腹をくくってモノローグが大量にあるドラマにしようと決めました。久保田ミワを演じるのが松本穂香さんに決まって、彼女なら実際のお芝居とモノローグのバランスを巧みに設計してもらえるのではないかと期待が高まりました。そこでまず、撮影に入る前に、久保田ミワのモノローグ部分を全部先に録音することにしたんです。

撮影ではリハーサルを行いますが、その時に録音したモノローグを流しながら演技をしてもらい、モノローグの音声なしで本番に入ってもらったんです。こうすることで、松本さんに、「ミワさんはこういうことを心の中で考えながら行動するんだな」ということを思い浮かべてもらえることになるので、よりリアルな演技になったのではないかと思います。

――八海崇は原作でも人気のあるキャラクターですが、堤真一さんがどう演じるかもドラマの楽しみの一つですね。

原作がドラマ化されると発表されたあと、「八海崇は誰が演じるのか?」とSNSで話題になっていました。その時盛り上がった皆さんにとっても、堤さんのキャスティングは意外だったのではないでしょうか。堤さんは顔もお姿もすごくかっこいいんですけど、キャラクターはめちゃくちゃコミカルな方なんです。打ち合わせの時、「これ、俺と全然違うんですけど」とご本人に言われたほどでした(笑)。でも、真逆だからこそ振り切って演じてくださっている感じがします。

第1話で、八海崇が過去に出演した映画のワンシーンが流れるのですが、堤さんのクランクインはこの場面からでした。八海崇という俳優が過去にどんな映画に出演し、どういうものを演じてきたかを少しでも体験することで、八海崇というキャラクターをつかむきっかけになったのではないかと思っています。

松本さん、堤さんをはじめ、このドラマに出演されている俳優さんはみなさん、かなりの演技力の持ち主。大河ドラマに出演していてもおかしくないような人たちが、シュールなコメディを全力で演じている。観てくださるみなさんにきっと楽しんでもらえると思うし、夜に最高の気分転換になることは間違いない! と手応えを感じています。

――原作は連載中ですが、ドラマではどのような展開になるのでしょうか?

ドラマの放送直前に単行本8巻が発売されましたが、もちろん物語は続いています。マンガ原作をドラマにすると、生身の人間が演じることになるためドラマならではのテンポや流れが生まれます。原作にない登場人物や独自のエピソードも盛り込んでドラマならではの世界が展開していきます。本作も例外ではありません。詳しい展開についてはまだ現時点ではお話できないのですが、原作ファン、ドラマファンともに、“二度おいしい”感じに作っていけたらいいですねと、原作の青木U平先生とも話をしています。ぜひご期待ください!

――毎週月〜木曜日の夜に15分ずつ放送される「夜ドラ」ですが、夜ドラ編集長として、どういう思いでドラマを製作しているのですか?

世の中、自分の思うように行かないことが多いですし、窮屈さが増していると感じることもあります。1日の仕事や家事などを終えた夜、「あー、また明日もこんな状況が続くのか……」と思ってしまう人もいると思うんです。そんな時に、「前向きに!」というとちょっと押し付けがましいのですが、軽く言うと「いい気分転換」、ちょっと説教臭く言うと「解放感を味わえる」ようなひとときを提供できればと思っています。

この夜の時間帯に大河ドラマみたいな武将の人生は重すぎるし、朝ドラみたいに、前向きに頑張る姿を見るのもちょっと違う。「夜ドラ」を15分観て気分転換して、「いろいろあるけど、今日もこれはこれでよかったよね」と思ってもらえたらうれしいですよね。

久保田ミワというキャラクターには、視聴者のみなさんにも共感してもらいやすい要素がたくさんありますし、きっと楽しい気分転換になるはず。10月から12月までは、バレたら終わりの、サスペンスフル・コメディ『ミワさんなりすます』で、夜のひとときをお楽しみください!

「ミワさんなりすます」制作統括・渡辺悟(わたなべ・さとる)
NHKチーフ・プロデューサー。「夜ドラ」編集長。
主な作品は「卒業タイムリミット」(22年)「超人間要塞ヒロシ戦記」(23年)など。

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体にanan、BRUTUS、エクラ、婦人公論、週刊朝日(休刊)、アサヒカメラ(休刊、「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、mi-mollet、朝日新聞デジタル「好書好日」「じんぶん堂」など。

「ミワさんなりすます」第1週(1~4回)一挙再放送!
10月20日(金)午後11:45~