「浦沢直樹の漫勉neo」
3/2(水)・9(水)・16(水) Eテレ 午後10:00~10:49

3/2(水)放送のNHKプラス(見逃し配信)はこちらから!(3/9(水) 午後10:49 までの配信)

漫画家たちの仕事場に密着し、知られざる創作の秘密に迫る、異色のドキュメンタリー「浦沢直樹の漫勉neo」。待望の新シーズンでは、少年漫画、少女漫画、青年漫画、それぞれのジャンルで存在感を放つ3人の漫画家が登場!
今回もファン垂涎の充実した内容になっているという。そこで、放送に先駆けて、番組のプレゼンターにして日本を代表する漫画家である浦沢直樹さんと、3月9日(水)の回に登場する少女漫画家・青池保子さんによる対談を独占取材! ともに長いキャリアを持ち、今も現役で連載執筆中の2人が、尽きることない漫画への思いを語った。

少女のようなひたむきさで⁉︎

浦沢 今回は、番組にご出演いただいて、ありがとうございました。(収録を終えて)いかがでしたか、ご自身が漫画を描いている姿をご覧になって?
青池 いえ、あんなふうに(定点カメラの映像で)客観的に見たことなんてないですから、すごく新鮮でした。自分があんな描き方をしていたとは……。
浦沢 そうですよね。皆さん、まずそうおっしゃいます(笑)。この番組、漫画家の中での視聴率、抜群にいいらしいんです。前からご存じでしたか?
青池 ええ、もちろん。拝見して、「あの人、こんな描き方してたの?」って驚いたこともありました。まだ駆け出しで、お互いに原稿の手伝いっこをしていたころならともかく、今は道具の情報交換くらいですからね、漫画の話をするのは。
浦沢 これが放送されたら、先生も、お仲間の漫画家から何か言われそうですか?
青池 うーん、「あんた年取ったわね」って笑われそう(笑)。
浦沢 僕は、今回執筆の様子を拝見していて、「わー、少女みたい」って思いましたよ。
青池 ええ⁉
浦沢 15歳でデビューされて、そこから漫画一筋でやってこられた方が、今もなお、少女のようにひたむきに、漫画に取り組んでいらっしゃる。それこそ中学3年生のころから、ああいうふうに描いてこられたんだろうなというのが伝わってきて、いとおしいやら何やら……。
青池 そんなそんな(笑)。
浦沢 とても楽しんで描いていらっしゃることは、よくわかりました。
青池 そうですね、やっぱり漫画を描くのは好きです。「もし好きじゃなくなったら、すっぱりと潔く漫画家をやめよう」って、ずっと思ってきたんですが、そうはなりませんでしたね。それに、好きでいたいから、好きでい続けるために、いろいろと……。そうだ、今回、その“方策”を浦沢先生に分析されてしまいましたね。
浦沢 スピンオフ誕生のひみつについてですね?
青池 自分では考えつきもしませんでしたけど、さすが、浦沢先生は鋭い! 感動しました。

あおいけ・やすこ
1963年、少女漫画家としてデビュー。シリアスな歴史物からナンセンスギャグ作品まで、少女漫画の枠におさまらない作風で人気を博す。代表作に、『イブの息子たち』『エロイカより愛をこめて』『 アルカサル-王城-』など。

僕たちが漫画を描き続ける理由は……

浦沢 僕は、キャリアで言うと青池先生と20年違うのですが、それでも、「どうしてそんな長い間、漫画を描き続けられるんですか?」と、よく聞かれるんです。それで最近は、「あなたも漫画を描いてごらんなさい。しかも、ある程度、自在に描けるようになってごらんなさい。面白くって、やめられなくなるから」って答えることにしたんです。何しろ、頭の中に思い浮かんだ一大巨編を、紙とペンさえあれば、その場に描き出すことができるんですから、僕たちは。だから、「一度、描いてみたらわかるよ」ってね。
青池 それはいいですね(笑)。
浦沢 青池先生は、どうお答えになりますか? 
青池 ひとつには、やっぱり描くのが好きだからですね。それから、漫画そのものの力のせいでしょうか。めども汲めども尽きせぬ泉。漫画には、そういう力がある。それを一生懸命、汲み上げたり掘ったりしながら続けていたら、50年以上が過ぎていた、そんな感じですね。でも……嫌になることだってありましたよ。今だって、しょっちゅう。
浦沢 わかります。例えば、どうしても描くのが嫌な絵ってあるんですよね。基本、絵を描くのは好きですし、描きたい絵を描いているときは本当に楽しいんですけど、でも、心から描きたくない、めんどくさい!っていう絵はあります。僕の場合、『20世紀少年』の中で、見渡す限りのデモ隊が抗議しているシーンとか。我ながら「これ描くのか〜」って気がめいって。でも、あれを克服しないと漫画家にはなれない。
青池 そうそう(笑)。私は、主要人物でもない、個人的に好きでもないキャラクターが、何かしているところ。描かないとストーリー的につながらないから、どうしたって描かなきゃいけないんだけど、描きたくないなあって思っちゃうんですよね。

うらさわ・なおき
1983年、漫画家デビュー。『YAWARA!』『MONSTER』『20世紀少年』など、多くの ヒット作を生み出す。現在、最新作「あさドラ!」を『ビッグコミックスピリッツ』にて連載中 。「漫勉」シリーズの構想者にしてプレゼンター。

広がっていく漫画の可能性と多様性

浦沢 最近は、デジタルツールを使って、パソコン上で漫画を執筆される方も増えていますが、青池先生はいかがですか?
青池 私は、ずっと紙とペンですね。いろいろな方法があっていいと思ってはいますけど、私自身のことを言えば、昔ながらのやり方で、紙の上に絵を描いて、そこに物語をのせて……。そして、それを読んだ方に、ドキドキハラハラ、楽しい気持ちになってもらう。それが私の漫画かなあと思っているので、これからも、それを基本にやっていきたいですね。
浦沢 すばらしい。僕も紙が好きなので、基本的には紙にペンで描いています。とはいえ、ときどきは、デジタルでの作画も取り入れるようになりました。一方、同じデジタルでも“電子書籍”となると──実はちょっと懐疑的だったんです。描き手としても読み手としても、紙の本への思い入れが、非常に強くありますし。ただ、このごろは電子書籍ならではの良さにも気がついてきて……。というのは、例えばカラーインクや水彩絵の具で描かれた原画の美しさって、“印刷”では完全には再現されないですよね?
青池 そうですね。どんなにインクや塗り方にこだわって描いても、印刷されてきたものを見ると、全く反映されていなくてがっかりすることも……。
浦沢 印刷という技術の限界なんですよね。微妙な色の違いや繊細な筆のタッチはどうしても印刷では再現できない。ところが電子版の場合、工夫をすれば、アナログの原画に貼ったきんぱくの、一瞬の光の反射まで伝えられる。その可能性を秘めているんです。こう考えていくと、電子書籍も捨てたものじゃないのかなと。紙の本の良さがあるのと同じように、電子書籍にも、ならではの良さがある。もしかして、漫画の楽しみ方を、さらに広げてくれるものなのかもしれないと思えるようになったんです。
青池 だから、多様性ですよね。今は、漫画とひと口に言っても、本当にいろいろなものがあって、定義するのが難しいですが、そもそも、いろいろな漫画があっていいし、いろいろな楽しみ方があっていい。そういうことなんだろうと思います。



浦沢直樹的 注目ポイントはココだ!

渡辺さんほどのペンスピードの速さは、いまだかつて見たことがありません! そのうえ、ほとんどの絵をご自身で 描いていらっしゃる。というのも、渡辺さんにとっては、人物はもちろん、自転車も道路もスピード線も、“キャラクター”。そ れらを、高速のペンで具現化していく。震えるしかありません。また、「漫勉」史上、 最も健康的な、自転車乗りと漫画執筆という“両輪”スタイルにもご注目ください!

青池さんは、めくるめくスピンオフのひみつに迫りました(笑)。さらに少女漫画家として自分の居場所を見つけるまでの葛藤についても語っていただきました。今もひとつの絵、一本の線にとことん 向き合う大ベテランの姿には、感動すら覚えます。

新井さんは、渡辺さんとあらゆる面で真逆の漫画家。激しい感情を描くときも、ゆっくりとペンを入れていく様子は、とても印象的でした。さまざまなものと深く向き合って、そのときどきの自分なりの答えを作品に描いてきた新井さん。今、彼の中に芽生えている“希望”が、どう作品に昇華されるのか? ぜひ目撃していただきたいと思います。

(NHKウイークリーステラ 2022年3月4日号より)