《注染水玉文布》(部分) 柚木沙弥郎 1950年代 日本民藝館蔵

人生を染める色は生活のなかにある

「色彩」と聞くと、あなたは何を想像するだろうか。スマホのなかにある色鮮やかな写真か、PC画面に映し出された多彩なカラーパレットか。日ごろからPCやスマホを扱うライフスタイルが中心となっていると、同調するかのように人が想像するものもデジタル化されていく。AIやDX(デジタル・トランスフォーメーション)が加速していくなか、色彩感覚同様、人生もデジタルに取り込まれそうな雰囲気だ。

そんな今、私たちの感性を原点回帰させてくれる100歳の現役「染色家」がいる。
日本の伝統的な模様染めの技法「型染」による作品が、世界中から注目を集める柚木沙弥郎だ。

1922年、東京都生まれ。染色家。東京帝国大学(現・東京大学)文学部美学・美術史科を卒業。岡山県の大原美術館に勤め、柳宗悦の「民藝」に出会い、芹沢銈介に師事。1972年に女子美術大学の教授、1987年からは学長を務めた。染色のほか、版画、人形、絵本などさまざまな作品を制作・発表。国内の公立美術館のほか、フランス国立ギメ東洋美術館でも展覧会を開催。

柚木が行う「型染」とは、和紙に柿渋を塗って乾かした渋紙などに模様を掘り抜いて型紙をつくり、染めない部分に防染糊を施してから染色する技法。古くは奈良時代にその一端があるという。鮮やかな色と活き活きとした模様が特徴的な柚木の作品は、約70年にわたる創作活動のなかから生まれてきたものだ。その作品は、いわば柚木の人生観を染料に、長年培われてきた感性によって表現されているようだ。

《型染爪文帯地》(部分) 柚木沙弥郎 1991年 日本民藝館蔵
《喜びの鳥》 柚木沙弥郎 1983年 日本民藝館蔵

「人生に面白みを感じるかが、ミソだよ」と語る柚木の作風は、日常生活のなかで生きる美しさが特徴。100年前、思想家の柳宗悦(1889~1961)らが、人々が日々の暮らしで使う工芸品を「民藝(民衆的工芸)」と名付けたのがその始まり。それまで美の対象とされてこなかった、日常に用いるために作られた工芸品に美を見出し、美術品にも負けない美しさがあるとうったえた「新しい美の思想」だ。

のちに日本民藝館を創設する柳は、美術と工芸(民藝)の美しさの違いについて、次のように述べている。

「美術は理想に迫れば迫るほど美しく、工芸は現実に交われば交わるほど美しい。美術は偉大であればあるほど、高く遠く仰ぐべきものであろう。近づき難い尊厳さがそこにあるではないか。人々はそれらのものを壁に掲げて、高き位に置く。だが工芸の世界はそうではない。吾々に近づければ近づくほどその美は温かい。日々共に暮らす身であるから、離れ難いのが性情である。高く位するのではなく、近く親しむのである。かくて親しさが工芸の心情である」(「工藝の美」『大調和』創刊号 春秋社 1927年4月より)

柚木が民藝と出会ったのは1946年、24歳のとき。東京帝国大学(現・東京大学)で美術史を学んだのち、就職した岡山県の大原美術館で柳の民藝思想を知る。そして、美術館の売店で目にした染色家・芹沢銈介(1895~1984)の型染カレンダーに惹かれ、染色に関心を持つようになる。

芹沢に師事した柚木は、江戸時代から続く染物屋に住み込み、修業を開始する。
そして、26歳のとき、初作《紅型風型染布》(1948年)を制作。沖縄の伝統的な染め物「紅型」の模様を自分流にアレンジしたこの作品は柳の目に留まり、日本民藝館の所蔵作品となる。以後、柚木は民藝運動を担う染色家として、多くの作品を世に送り出していく。

《型染カレンダー 1946年3月》芹沢銈介 日本民藝館蔵
《紅型風型染布》(部分) 柚木沙弥郎 1948年 日本民藝館蔵

柚木沙弥郎と共に歩んだ仲間たち

民藝運動は柚木に創作活動の道をひらくとともに、志を同じくする仲間たちを結びつけていく。そこには、「いつでも気持ちの中に、今日の我々の生活をもっと健全で快適なものにしたい」という思いがあふれていた。

柚木の生涯の友である武内晴二郎(1921~1979)は、大原美術館初代館長である武内潔真の次男。型物を中心にスリップ(化粧土)や型押・象嵌・練上などの技法を用いて、重厚かつモダンな作品を生み出した陶芸家。幾度となく作品について語り合い、互いの糧にしていった関係だ。

《黄釉流描角鉢》 武内晴二郎 1953年 日本民藝館蔵

柚木より5歳年下の陶芸家・舩木研兒(1927~2015)もまた、親交を深めたひとり。島根県松江市の宍道湖のほとりにある布志名焼舩木窯の5代目。英国スリップウェアの技法にならいスポイトを使用して描いた動物文様が特徴。

《黄釉鳥文鉢》 舩木研兒 1952年頃 日本民藝館蔵

また、柳宗悦の唯一の内弟子であった工芸家の鈴木繁男(1914~2003)は、柚木を弟分のように目をかけ、柳の思想や民藝の美について熱く語り聞かせた。

《色絵草花文皿》鈴木繁男 1939年 日本民藝館蔵

やがて、柚木は染色家たちによる協同組合の萌木会にも参加する。この会では、作家個人ではやりにくい仕事を協働して取り組むことを目的に活動した。
月に一度の例会では、持ち回りでお互いの家に集まって民藝や染色のことを語りあうなど、「燃えに燃えた」日々を過ごし、精力的に染色の仕事に取り組んだという。

萌木会旅行メンバー集合写真 1958年頃(前列左端が柚木)

そんな柚木と仲間たちによる染色作品は、日々の生活のなかにある美しさに目を向ける大切さを教えてくれる。それは、私たちがデジタル社会のなかで無意識のうちに見失いつつある、自分らしく生きることではないだろうか。

柚木の染色作品を中心に、民藝の思想への共感をともに深め合い、同時代を歩んできた仲間たちの作品を紹介する展覧会「柚木沙弥郎と仲間たち」が、大阪高島屋(8/23~9/3)と日本橋高島屋(9/6~25)で開催される。柚木とその仲間たちの作品と向き会うことで、明日からの日々の暮らしが色鮮やかに染まっていくかもしれない。


《型染爪文帯地》(部分) 柚木沙弥郎 1991年 日本民藝館蔵 展覧会題字:柚木沙弥郎


柚木沙弥郎と仲間たち
[会期/会場]
■ 2023年8月23日(水)~9月3日(日)
大阪髙島屋7階グランドホール
■ 2023年9月6日(水)~9月25日(月)
日本橋髙島屋S.C.本館8階ホール

NHK財団【イベント情報】 柚木沙弥郎と仲間たち (nhk-fdn.or.jp)