Eテレで放送中の「舞妓さんちのまかないさん」は、京都・がいを舞台にした物語。舞妓たちが暮らす「かた」で食事を作る16歳の「まかないさん」キヨと、彼女の幼なじみで、舞妓・ももはなとして将来を嘱望されているすみれの成長を、屋形で共同生活を送る舞妓たちの日常風景とともに描く。

去年2月に、NHKワールドJAPANで放送がスタート。月に1回、3つのエピソードにより、キヨが思いを込めて作る料理を通して、豊かな日本文化を世界に届けてきた。10月からはEテレで、つじあやのが歌うオープニングテーマ曲「明日きっと」を新たに加え、毎週1エピソードずつ紹介されている。

キヨとすみれの声を務めるのは、人気声優の花澤香菜とM・A・O。2人は、どんな思いを持ちながら、この作品に取り組んでいるのだろうか?

ステラ本誌(2/18号)では、ページ数が足りずに泣く泣くカットした部分を加え、改めて「完全版」(なんと、本誌掲載分の約1.5倍!)として掲載します。


キヨの声 花澤香菜×すみれ/百はなの声 M・A・O 対談

キヨとすみれはこんな女の子です

主人公のキヨ ©小山愛子・小学館/NHK・NEP
キヨの親友・すみれ ©小山愛子・小学館/NHK・NEP

花澤 こうやって2人で取材を受けるのって、初めてかも。
M・A・O 初めてですね。何だか新鮮な感じです。
花澤 いろんな現場でよく一緒になるけれど、作品の中で、こんなに「相棒!」という感じで組むのも初めてだよね。月1回の収録だったけれど、最初のころから「また楽しいアフレコの時間がやってくる♪」と思ってました。それは、私たちが原作を読んで感じた印象や、作ったキャラクターの方向性を(制作スタッフに)受け入れてもらって、大きく変えることなく、自然体で取り組めたこともあるかもしれないですね。
M・A・O 花澤さんは、原作を読んで、どんな印象を持たれましたか?
花澤 ただただ心が温かくなるマンガで、すてきな物語だなって思いました。心に訴えかけてくるような懐かしさを覚えて、涙が出てきちゃう、みたいな感じで……。私の実家は東京の八王子で、青森が実家のキヨさん、すー(すみれ)ちゃんとは生まれ育った場所も違うから、懐かしくなる要素ゼロのはずなのに(笑)。
M・A・O 絵のタッチや描かれた風景が作る雰囲気から、温かさと優しさがすごく伝わってきますよね。登場する舞妓さんたちが、自分より年下なのに、やりたいことのために親元を離れてがんばっているところも、本当にすてきだなと思いました。

©小山愛子・小学館/NHK・NEP

花澤 すごく、ひたむきにがんばっているよね。もちろん、キヨさんも。すーちゃんと一緒に舞妓になろうと思って京都にやってきたのに、自分は「おとめ」(舞妓修業中に向いていないと判断され、「修業は終わり」と言われること)になってしまった。そういう状況って多少なりとも心がざらつくというか、嫉妬したり、自分を責めたりすると思うんですよ。でも、そうじゃなくて、「まかないさん」という、自分は自分でがんばれる場所を見つけて。しかも、すーちゃんのことを心の底から応援できて、その活躍を自分の活力にしている。ああ、なんて清らかな心の持ち主だろうって思いましたね。
M・A・O キヨちゃんとすみれちゃんはお互いに別の場所でがんばっているから、相手の姿を見て自分もがんばるという、とてもいい刺激のし合い方をしていると思います。すみれちゃんはとてもストイックなので、その張り詰めたところをキヨちゃんがうまい具合にほっと息をつかせてくれる場面も多くて。そんなこと、自分はこの年代でできていたかな?と考えると、最高の相棒だと思いますね。
花澤 すーちゃんがキヨさんに甘えているところを見ると、ほっとするよね。
M・A・O 「よかったー」という気持ちになりますよね。キヨちゃんの包容力が、いつでも変わらずにそこにあって。


演じるときに気をつけたことは

花澤 キヨさんは、人によって態度を変えないというか、誰と話しをするときも彼女は彼女であり続けるのが、すごくいいところだと思うんですよ。すーちゃんが舞妓さんになれると聞かされたとき、手放しで大喜び!というシーンがあったじゃない? あそこが、キヨさんをいちばん象徴しているんじゃないかと思っていて。だから、周りにいる人や起きた出来事をポジティブにとらえて自分の糧にしていくところをちゃんと意識しながら、キヨさんを演じました。M・A・Oちゃんはどう?
M・A・O すみれちゃんは自分に厳しいところはありつつも、要所要所で年相応の顔が見えて、例えばどうしても食べたいものや、これが好き!というものがあったりするようなかわいらしさを意識して演じさせていただきました。キヨちゃんと一緒にいると、実家にいるような安心感というか、流れている空気が優しかったりするので、その雰囲気も表現できればと思いつつ。

©小山愛子・小学館/NHK・NEP

花澤 実は私、キヨさんを考えるときに、のんちゃん(連続テレビ小説「あまちゃん」出演時の名前は、能年玲奈)をイメージしていたんですよ。一度、アフレコ現場でお会いしたことがあるんだけど、あの透明感と、ただただ純粋な感じが印象的で……。そして「あまちゃん」で東北ことばを話していたイメージもあったので、「あまちゃん」を見てから行ったんだよね、最初のアフレコに。
M・A・O 私は誰かをイメージして、ということはなかったのですが、りんとして、背筋を伸ばすことを心がけていました。心情とかも、姿勢に出るだろうなと思って。
花澤 そうだよね。ずっとお着物を着ているんだもんね。M・A・Oちゃんは、いつも姿勢がいいけれど(笑)。
M・A・O いやいやいや。アフレコ中、立っているときは注意しているのですが、休憩でいすに座ったら「ふぅ」と緩んでしまいます(笑)。


大阪出身だけれど京ことばは難しい

M・A・O 私は大阪出身なのですが、同じ関西といっても大阪ことばと京ことばはやはり違うので、京ことばの雰囲気を出すのがとても難しかったです。
花澤 あれね、(「はい」を意味する)「へぇ」の言い方でしょう?
M・A・O はい! うまく「へぇ」が言えなくて。
花澤 「これ、家でもめちゃくちゃ練習しているんだろうなぁ」って隣で感じながら、私だけ共通語で、すごく楽してました(笑)。
M・A・O そう、キヨちゃんは共通語ですよね。
花澤 回想シーンでは青森ことばも出てくるけれど、それほど多くないから。今の青森の子どもたちはテレビの影響なのか共通語を多く使うらしいので、キヨさんも共通語になっていますね。すーちゃんは、作品の最後に放送する“今日のまかない”でも解説役だから、その京ことばも練習するんだと思うと「もう果てしないな!」と思ってます。
M・A・O 本編よりも“今日のまかない”のほうがセリフが多かったです(笑)。いろいろ説明もありましたし。あと、各地のパンの名前をご当地の言葉でたくさん言うシーンがあって、「あああ……」と思いながらもがんばりました!

©小山愛子・小学館/NHK・NEP

花澤 いろんな作品で、その土地の言葉を覚えたり、現場で表現したりすることは、やっぱり技術がいるけれど、個人的には楽しいですね。東京出身だから、いろんな方言を疑似体験できるのが、すごく面白くて。ただ、ある時期に1クールで3つのキャラクターが全部違う方言という役をやったことがあって……。
M・A・O 「ズヴィズダー」(テレビアニメ「世界征服〜謀略のズヴィズダー〜」)のころですか?
花澤 そうそう。一緒に出ていたよね! あのときは「ズヴィズダー」の広島ことばと、「のうりん」の岐阜ことばと、「てーきゅう」の大阪ことばが、3日連続の“お当番”みたいな感じで。さすがに混乱して、人間には限界があるんだ、考えなきゃなって思いました(笑)。
M・A・O 私も、地元の大阪ことばでやらせていただく作品で、ふだんの会話で使ったことがないような単語が出てくると「あれ、どういうイントネーションだっけ?」と迷うことがあります。出身ということで全部任せていただくことも多いので、慌てて実家に電話して「これ、どう言えばいいの!?」と確認したり(笑)。


それぞれが感じているお互いの素顔は?

©小山愛子・小学館/NHK・NEP

花澤 M・A・Oちゃんのことを「すごいな」って思うのは、どの現場で会っても雰囲気が変わらないところですね。それこそ、キヨさんがキヨさんであり続けるように。絶対に忙しいはずなのに、つらそうにしているのを見たことがないし、気合いが入り過ぎて力んでいる感じもしないし。自分を保つのが上手なんだろうと思って。すごくうらやましいところでもあるし、カッコいいなと思いますね。
M・A・O うれしいです! いつでも内心はドキドキですが。
花澤 顔に出ないだけ? でも、現場でテンパっているのを見たことないんだけどなぁ……。「舞妓さんちのまかないさん」でもすっごく練習しているのがわかるのに、表には出さないから、めちゃくちゃストイックなんだろうな。それがもう、すーちゃんっぽいなって。
M・A・O ありがとうございます。花澤さんの声はキヨちゃんみたいに包容力があって、優しく包み込んでくれるから、「すみれちゃんはこんな気持ちでキヨちゃんの隣にいるのかな」という気持ちになれて、どんなに緊張しても「できる気がする!」と思っていました。
花澤 だったら、よかった♡
M・A・O それこそ花澤さんは魅力の塊で、そこにいらっしゃるだけで場の空気が優しく、和やかになります。私の肩の力が抜けて見えたのは、花澤さんが持っている空気感がそうさせてくれたのだと思います。


これまでの収録で印象に残るシーンは

花澤 私ね、キヨさんが雪かきしているのをすーちゃんが見て、青森の実家を思い出す場面が、とても印象に残っているんですよ。セリフはないけれど、情感豊かで、すごく泣けました。
M・A・O とても趣のあるシーンでしたね。私は、先輩舞妓のつる駒さん姉さんとのやり取りが大好きでした。お休みの日に、ふだんは入れないファストフードのお店にみんなで行き、買ったハンバーガーを鴨川の河川敷で食べようと言ったり。
花澤 かわいかったよね。その河川敷には、カップルが均等に並んでいて(笑)。
M・A・O 舞妓さんの休日の様子や、みんなの仲がいい雰囲気も伝わってきて、とても楽しい収録でしたね。
花澤 屋形ならではのルールも描かれていたよね。ギョウザににんにくを入れられるのは、オフの日だけとか。
M・A・O そうですね。
花澤 舞妓さんのための食事は、紅が落ちないように一口サイズとか。あと、あんな高い枕で寝るとかも知らなかったし。
M・A・O 箱枕ですね!
花澤 すーちゃん、全然眠れてなかったよね(笑)。これまで京都の町で舞妓さんを見かけたことはあったけれど、花街に入ったことはなかったから、驚くようなことばかりで。知らなかった知識がいっぱい身についたから、次に舞妓さんを見かけたら、「おつかれさまです」って言いたくなっちゃうかも(笑)。

©小山愛子・小学館/NHK・NEP

アフレコ現場では食べ物の話に花が咲いて

花澤 この作品には、おいしそうな食べ物がたくさん登場するから、アフレコ現場ではずっと食べ物の話をしてたよね。
M・A・O そうですね! それでお腹が空いて、音が鳴るという(笑)。
花澤 唐揚げが登場した回には、「やっぱり唐揚げだよね~」みたいなね。私、その日の帰りにスーパーに寄って、夕飯は唐揚げにしたもの。あと、カレーの回には「あのお店のカレーがおいしい」とか……。
M・A・O たくさん教えていただいて、メモしていました。

©小山愛子・小学館/NHK・NEP

花澤 私は、家でごはんを作るモチベーションがめちゃくちゃ上がりました。以前は、仕事が終わって10時過ぎに家に帰って「これから作るのか……」って思うと、ちょっと「うむむ」となっていたんですよ。でも、この作品で、誰かにふるまってもらうごはんの尊さや、ごはんが元気を生みだすギフトだと教えてもらって、すごくやる気がわいて。だから「舞妓さんち」は、私の生活に直結してましたね。
M・A・O すみれちゃんはギフトを受け取る側で、私もあまり家で料理をするほうでは……。
花澤 食べ専(笑)?
M・A・O はい。収録直後に「やってみよう!」と思っても、家に帰るころには……(苦笑)。ただ、覚えてはいます! いろいろな知識をため込んでいるので、やる気がぱっと出てきたときには、きっと(笑)。“今日のまかない”を見てくださった、海外の方はどうでしょうね?
花澤 材料と調味料が手に入ったら、作れるんじゃないかな? 英語字幕がついて、世界の人たちが見られるわけだし。
M・A・O そうですね。舞妓さんが日々お稽古に励み、あいさつ回りをして、というような日常も、すみれちゃんの姿を通して世界のみなさんに知っていただけることを、とてもうれしく思っています!
花澤 この作品で描かれている花街の舞台裏は、日本に住んでいる私たちもなかなか触れる機会が少ないよね。いろんなしきたりが受け継がれているとか。それは日本の文化を再確認できることにもなるので、キヨさんやすーちゃんをただキャラクターとして見るのではなくて、ちゃんと生活がある、そこに日本の文化があると感じながら見ていただくと、めちゃくちゃ面白いんじゃないかと思いますね。


 花澤香菜(はなざわかな)

2月25日生まれ、東京出身。声優として「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズの常守朱役をはじめ、数多く
の代表作を持ち、歌手としても活躍。NHKでは「3月のラ
イオン」川本ひなた役ほか。Eテレで放送された海外ドラマ
「ゲームシェイカーズ」シリーズでは、主人公・ベイブの声を担当した。

 M・A・O(まお)

2月1日生まれ、大阪府出身。2012年に教育テレビ「クッキ
ンアイドル アイ!マイ!まいん!」キラキラ役で声優デ
ビュー。「まじっく快斗1412」中森青子役、「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」ジュリエッタ・ジュリス役など多くの作品に出演している。NHKでは「クラシカロイド」のバダジェフスカ役ほか。