旧NHKインターナショナルは、2017年からJICA(国際協力機構)の委託を受けてウクライナ公共放送局の支援に取り組んできました。その第二段階の活動の一環で、放送局幹部の日本での研修が行われており、NHK財団の国際事業本部が担当しています。

2017年からの第一フェーズで、緊急報道をスムーズに行うための全国ネットワークの構築、教育福祉番組の制作、さらに放送機材の維持管理能力向上支援などを手掛けてきました。

そして22年3月に第一フェーズは終了しましたが、「次はネットワークの整備に取り組もう」としていた矢先の2月に突然、ロシアによる軍事侵攻が始まりました。3月にはキーウへの爆撃が激しさを増し、テレビ塔も攻撃を受けました。公共放送局のメンバーも西部の町リビウへの退避を余儀なくされました。

そんななかでも「決して放送を止めてはならない」という使命感を持ち、彼らは放送を続けてきました。戦地からの決死のレポート、被害者に寄り添いながら取材を進める記者、それを支援する人たちの様子は、NHKスペシャル「戦火の放送局 ~ウクライナ記者たちの戦い~」で紹介されましたので、ご覧になった方もおられるかと思います。

戦争はまだまだ終息がみえませんが、ウクライナ公共放送局は、首都キーウが爆撃を受けて放送ができなくなったときに、首都以外の放送局にバックアップ機能を持たせて、さらに全土でこれから6つの拠点局を設置して、周辺の地域局を統括する体制整備を進めたいとプロジェクトの第二段階がスタートしました。
ここで、NHKが培ってきた地域連携の知見を参考にしてもらいたいと思っています。

今回の日本での研修では、まず東京で緊急報道の全体像を学んだ後、NHK大阪放送局へ赴き、首都直下地震バックアップセンターの役割について学びます。バックアップの仕組み、体制、機材設備そして日常の訓練まで、バックアップ体制の全体像を掴んでもらうことにしています。

さらに金沢では、福井、石川、富山の北陸三県で進められているNHKの新たな地域改革を学び、ウクライナの拠点局体制の構築の参考にしてもらいます。

ウクライナ公共放送の経営幹部ら6名は、5月25日夜、日本に到着し、すでに東京での研修も進み、積極的な質問が続き、ついつい時間もオーバーするほどの熱意です。そして29日には、チェルノティツキー会長の記者会見も開かれました。

「ウクライナの民主主義を守るうえで、公共放送局の役割はとても大きく、なくてはならない存在だ」という強いメッセージが印象的でした。
(取材・文/NHK財団 国際事業本部 井口治彦)

左から3番目:ミコラ・チェルノティツキ―PBC会長