「アニ×パラ~あなたのヒーローは誰ですか~」
episode16 パラカヌー×君と

原作・脚本原案:武田綾乃
テーマ曲:音羽-otoha-「ifのマーメイド」
声の出演:渡邉美穂、佐倉綾音、加隈亜衣、井上麻里奈ほか

初回放送
【アニメ本編】3月12日(日曜)BS1 午後6:45~6:50
【テーマ曲版】3月28日(火曜)BS1 午後9:55~10:00

☆初回放送以降、BS1、総合テレビ、Eテレで随時放送。また、NHK for School 内の番組サイト(https://www.nhk.or.jp/school/anipara/)で配信。

☆「NHK BS1」「NHKアニメ」などの公式SNSで最新情報を発信中。「#NHKアニパラ」で、感想をつぶやこう!

☆アニメ制作の舞台裏を含めて作品、競技の魅力を紹介する「アニ×パラワールド」を、BS1で3月18日(土曜)午前7:45~8:00に放送!
スタジオ出演は、武井壮、渡邉美穂(武田綾乃、瀬立モニカ、佐倉綾音、加隈亜衣、井上麻里奈、音羽-otoha-は、VTR出演)。また、語りを小野賢章が務める。

☆3月20日(月曜)に、「超体験NHKフェス」メタバースステージで「アニ×パラ新作ステージショー」を開催(開場/午後8:30 開演/午後9:00)。出演は、佐倉綾音、渡邉美穂、音羽-otoha-、瀬立モニカ。
イベント参加方法などの詳細は、https://www.nhk.or.jp/event/cho-nhkfes/


ⓒ武田綾乃、おとないちあき・新潮社/NHK

日本が世界に誇るアニメでパラスポーツの魅力を国内外に発信し、パラスポーツの普及や共生社会の実現を目指していくプロジェクト「アニ×パラ~あなたのヒーローは誰ですか~」。その第16弾となる「パラカヌー×君と漕ぐ」(概要はこちら⇒https://steranet.jp/articles/-/1534)のアニメ本編が、現在「NHK for School」 内の番組サイトで配信されている。

この作品にアニメ・キャラクターとなって登場したりゅうモニカ選手は、どのような形で作品制作にかかわったのか? そして作品を視聴した後の、率直な感想は!? 取材に協力してくれたモニカ選手の母、キヌ子さんの声とともに紹介する。


小説『君と漕ぐ』に感じていた、カヌーを漕ぐ臨場感

これまで制作された「アニ×パラ~あなたのヒーローは誰ですか~」の中には、アニメで描かれた世界に、実在のパラアスリートが登場している作品がある。車いすテニス界のレジェンドである国枝慎吾をはじめ、パラサイクリングの川本しょう、ボッチャの廣瀬たかゆき、パラ卓球の岩渕こうようらが劇中に登場し、その磨き上げた技術を披露してきた。
今回の「パラカヌー×君と漕ぐ」に登場しているのは、パラカヌーの日本代表選手で、パラリンピック2大会で連続入賞している瀬立モニカ。彼女はこの作品で、作家・武田綾乃による青春カヌー小説『君と漕ぐ』の登場人物たちと交流することになった。

ⓒ武田綾乃、おとないちあき・新潮社/NHK

物語の舞台は、桜が咲き誇る春、東京・江東区のカヌー練習場。ながとろ高校カヌー部の部員4人が、そこで練習していた瀬立選手と出会い、一緒にカヌーを漕ぐ中で、自分たちと共通する「ある思い」に気づく……、というストーリーだ。

脚本原案も手がけた武田は、去年9月、アニメを演出する細川ヒデキ監督とともに、瀬立選手の活動拠点である江東区の練習場を訪れ、そこで取材を行った。瀬立選手は、「アニ×パラ」でパラカヌーを題材にすることが決定する前から、武田の著作『響け!ユーフォニアム』や『君と漕ぐ』を読んでいたのだという。

瀬立モニカ これまでの「アニ×パラ」を見てきて、いつかパラカヌーも紹介されるのかなぁ、と思いを馳せていたんです。ただ、自分自身がアニメになるなんて、夢にも思っていなくて。ちょっと、そわそわしますね(笑)。武田先生の『君と漕ぐ』も読ませていただいていて、カヌーを漕ぐ臨場感が文面から伝わって、読むだけで自分がカヌーに乗って水面にいるような感覚になりました。だから、このコラボが、本当にうれしくて!

武田綾乃 ありがとうございます。私も実在の方を作品に登場させるのは初めてなので、すてきな物語になるように、がんばりますね。

そして、取材がスタート。事故による脊髄損傷で腹筋・背筋がほぼ使えない瀬立選手が、ちん(転覆)しやすい競技用カヌーに乗るにあたって、どのようにバランスをとっているのか、カヌーの推進力を生みだすためにどんな技術を駆使しているのか、パドルの入水角度、沈した場合の艇からの脱出方法など、こと細かに話を聞きながら、武田は取材ノートにペンを走らせていく。

技術的なことだけでなく、瀬立選手がカヌーで水面を進んでいるときの感覚を「アメンボみたいな感じ」と形容したり、「水上はバリアフリー」という表現を使ったりすると、キーワードになりそうな言葉をしっかりと記録。また、モーターボートに同乗して、カヌーを漕ぐ瀬立選手と並走し、そのスピードも体感した。そんな武田が注目したのは、瀬立選手の上半身の筋肉の付き方だった。

武田 その腕は……。

瀬立 これでも全然ガリガリなんですよ(笑)。大会の前とか、もっとすごいんです。Tシャツを着たら、呼吸が苦しくなるぐらい。腕で船の方向をコントロールしながら前に進まなきゃいけないし、バランスもとらなきゃいけないとなると、必然的にこうなっちゃうんです。ジムでベンチプレスとかやっていると、ボディビルダーに間違われて「きみ、どこの所属?」って聞かれるぐらいです(笑)。

ⓒ武田綾乃、おとないちあき・新潮社/NHK

武田 だから、あれだけ滑らかな……。パドルの水への入り方や動きが明らかに滑らかというか、「美しい」がいちばんしっくりくる表現かなと思うんですけど、本当にきれいで、すてきだなと思いながら練習を拝見していました。瀬立選手は、カヌーの練習中に「気持ちいいな」と感じることはありますか?

瀬立 大会に向けての練習はかなりハードなので、あまり感じられてないですけれど、きょうぐらいゆっくり漕いでいるときは気持ちがいいですね。水面がきれいで、天気がよくて、そんな条件が重なると、「逆さ富士」みたいに自分の漕いでいる姿が水面に映って、2人で漕いでいるみたいなんですよ。それは、めっちゃきれいですね。

武田 先ほどの「アメンボみたい」という表現なども、瀬立選手の説明はすごくわかりやすくて、言葉に力がありますね。

瀬立 よし、じゃあ武田先生のお墨付きということで(笑)。

武田 瀬立選手は笑顔がとてもチャーミングで、笑顔をいつも絶やさないイメージがあります。それはお母さんの言葉があったからだとお聞きしたのですが。

瀬立 そうですね。事故で入院したときに、母から「笑顔は副作用のない薬だから」と言われたんですね。最初は、「何言ってるの? こっちは生きることに必死なんだ」と思って反発していたんです。でも、実際に社会に出てみたら、自分が笑顔でいると相手の反応が全然違って、相手が笑顔で接してくれたら自分も幸せな気分になって。そうして幸せの循環が生まれるので、大切にしています。

武田 いい言葉ですね。すごく心に刺さる。日めくりカレンダーにして毎日見たくなるような(笑)。すばらしい。

瀬立 ありがとうございます。ほめられて、自己肯定感が上がりました(笑)。


カヌーに乗らないとわからない感覚が詰まっています

こうして綿密な取材を行った武田は、瀬立選手から受けたさまざまな「刺激」から物語を構築していき、伝えたい思いを、できる限り織り込んでいった。それは武田だけでなく、演出の細川監督も同様。瀬立選手と出会ったからこそ生まれた描写が、アニメ本編の中には散りばめられている。

ⓒ武田綾乃、おとないちあき・新潮社/NHK

取材からおよそ半年。完成した作品は3月12日に放送され、現在は番組サイトで配信中だ。それを視聴した瀬立モニカ選手と、取材に協力してアニメ本編にもキャラクターとして登場している母・キヌ子さんに、感想を聞いてみた。

瀬立モニカ すごくリアルで、びっくりしました。私が経験したことをきれいにまとめてくださって、だけど、きれいになりすぎずに、言葉のひとつひとつにリアルさがあって。ふねから空を見上げながら橋の下を通っているときの視点とか、水の上を進むスピード感とか、カヌーに乗らないとわからないようなこともたくさん詰まっていて、そのリアルな感じに、作ってくださった皆さんの「本気」を感じました。

特に心に響いたのは、けがをしてから、もう一度カヌーを始めることにしたときの気持ちを回想するシーンです。(瀬立選手役の)佐倉綾音さんが演じていらっしゃる声のトーンや話している感じがとてもリアルで、当時の自分の気持ちを思い出して涙が出そうになりました。障害者になったことで抱えたジレンマや、ぐるぐるするような心境を乗り越えて発した私の言葉「いろんな人が背中を押してくれて、またカヌーに乗ることができた。だから……、好きなんだよね。カヌー」というセリフには、ちょっと鳥肌が立ちましたね。私が経験してきた感情が、あの短いフレーズで、表現されていて。自分ではない、ほかの人が経験したものを、声だけで表現できる佐倉さんの、声優としてのすごさを感じました。

このアニメを見ていただいた方には、そういうリアルな感覚を感じてもらって、「カヌーに乗ってみたいな」と思っていただけたらうれしいですね。やっぱりカヌー人口はまだ少ないし、レジャーとして普及しているカヌーだけではなくて、競技としてカヌーを始めてくれる人が増えたらいいなと思っています。

ⓒ武田綾乃、おとないちあき・新潮社/NHK

瀬立キヌ子 娘がパラカヌーを始める経緯も含めて、たくさん取材していただいたこともあり、こんなにリアルに描いていただいて、本当に感謝しています。私は(今回の企画を聞いたときに)パラカヌーのことが一般的に紹介されるぐらいで、名前も出ないんじゃないの?と思っていたものですから、セリフもたくさんあって、筋骨隆々の姿も再現されていて、こんなに出ていて申し訳ないなという感じでした。武田先生が熱心に話を聞いてくださって、短いアニメに「そこまでやるんだ」と思っていたのですが、こういうものができるとは……。びっくりしましたし、すごく納得しました。

このアニメを見た障害者の方やご家族、それ以外の人たちも「あ、車いすに乗っている人でも、カヌーに乗れるんだ」とわかってもらえたら、それだけで十分なことを達成できるのではないかと思いました。最初から誰もが強いわけじゃなくて、娘も私も最初は弱い人間で、いろんな経験を重ねて、カヌーに生かされて、徐々に強くなっていったんですよね。もし娘がパラカヌーの選手にならなかったら、あんなふうに移動できたり、体幹が鍛えられたりすることはなかったかもしれない。きっと日常生活のいろんなこともできなくて。だから、選手を目指すところまでいかなくても、まず一歩を踏み出すことが大事だと思うんですよね。パラカヌーのこと、障害者のことを、より多くの人に知っていただいて、いろんな意味で次につながっていくといいなと思っています。

ⓒ武田綾乃、おとないちあき・新潮社/NHK

現在は、2024年に開催されるパリ・パラリンピックへの出場を目指し、トレーニングを重ねている瀬立選手。東京大会後は、やや迷いが生じたこともあったという彼女に現在の心境やパリへの意気込みについても語ってもらった。

瀬立モニカ 東京パラリンピックは、地元の開催で、それ自体が私が生きる目標だったというか、前を向いてがむしゃらに進んでこれた部分があったので、それが目の前に迫ったときに少しあたふたしてしまったところがありました。私自身のタイムはリオのときから12秒ほど縮められたのですが、東京の決勝に残った選手全員がリオの優勝タイムを上回っているくらい世界のレベルも上がっていて。終わってからは、燃え尽き症候群というか、これ以上出せないと思って臨んだ東京大会で、まだ世界との差を感じて、その差をどう埋めていけばいいのかわからなくなった時期があったんです。

でも、一日一日着実に、自分の足元を見て、目の前のことに集中して生きる、ということをやっていたら、徐々に目標が見えてきました。またパリ大会に向けてがんばっていこうと思えるようになって、今、練習に励んでいます。パリ大会に出場できたら、自分が納得できるレースをしたい、その先に結果がついてきたら……、と思っています。がんばります!

せりゅう・もにか
1997年11月17日、東京都江東区生まれ。中学時代にカヌー部に所属。高校1年のときに、体育の授業中の事故で車いす生活となる。2014年にパラカヌーを始め、翌年の世界選手権に出場。2016年のリオデジャネイロ・パラリンピックに出場し、女子カヤックシングル(運動機能障害)で8位入賞。また2021年の東京大会では7位に入賞した。

(⇒こちらのページで、原作・脚本協力として作品にかかわった作家・武田綾乃の声を紹介!)

(⇒こちらのページには、アフレコ収録の様子や、メインキャストからのメッセージ、そしてテーマ曲を担当した音羽-otoha-のコメントを掲載しています)

/銅本一谷