「弱虫ペダル LIMIT BREAK」
毎週土曜 総合 深夜0:00(日曜 午前 0:00)~0:25
原作:渡辺航 監督:鍋島修 脚本:砂山蔵澄 音楽:沢田完
声の出演:山下大輝、鳥海浩輔、福島潤、岸尾だいすけ、松岡禎丞、下野紘ほか
★2月9日(木曜)深夜に、第2クール4話分が一挙再放送されます!
深夜2:00(10日・金曜・午前2:00)~ 第14話「鳴子VS真波 ギリギリバトル」
深夜2:25~ 第15話「攻防!ダウンヒル!!」 深夜2:50~ 第16話「鳴子特急!!」
深夜3:15~ 第17話「変わる風向き」
【番組ホームページ】
https://www.nhk.jp/p/ts/M9ZMMQNXR1/
休刊した「NHKウイークリーステラ」誌の連載企画「アニメが世界を救う(仮)」が、ステラnetで復活!! アニメLOVEライターの銅本一谷が、NHKアニメ作品をレコメンド。その魅力をググっと掘り下げてご紹介していきます。今回取り上げるのは「弱虫ペダル LIMIT BREAK」!
「弱虫ペダル」累計発行部数は、日本の総世帯数の半分以上!
冬晴れの関東地方。周囲を遮る高い建物がない平地を自転車で走ると、白い雪を被った富士山を横目に見ながらのライドになるんですよね。冷たい風を心地よく頬に感じながらペダルを回すときに頭に浮かぶのは、「小野田坂道くんは高校1年生の夏、インターハイの自転車ロードレースで、あの富士山の5合目まで駆け上がったんだよなぁ」ということ。小野田坂道。それが超人気作品「弱虫ペダル」の主人公です。
現在、総合テレビで放送中のアニメ「弱虫ペダル LIMIT BREAK」は、その坂道くんが高校2年生となって、2度目のインターハイ最終日に挑む物語。アニメシリーズとしては第5期にあたり、1月28日深夜に同時放送された第14話「鳴子 VS 真波 ギリギリバトル」、第15話「攻防!ダウンヒル!!」で、第2クールがスタートしました。
新たなオープニングテーマとなるNovelbrightの「ラストシーン」、そして新エンディングテーマの山下大輝 with 佐伯ユウスケ「アクション」にのせて、坂道くんが所属する総北高校自転車競技部の、全力を振り絞っての激闘が描かれていきます。
お正月明けには、「弱虫ペダル」第1期を再編集した劇場版『弱虫ペダル Re:RIDE』、第2期劇場版『弱虫ペダル Re:ROAD』、第3期劇場版『弱虫ペダル Re:GENERATION』、そして今回新たに制作された第4期『弱虫ペダル GLORY LINE -特別総集編-』が総合テレビで一挙放送されていたから、「ペダル」ファンのみならず、多くの視聴者の期待値はマックスまで高まっているはず。
基本情報を‟おさらい”しておくと、渡辺航先生が描いた「弱虫ペダル」は、2008 年に『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)で連載が始まって以来、大ヒットを続けている人気マンガです。現在81巻まで刊行されているコミックス(2月8日に最新82巻が発売予定)の累計発行部数は、実に2800万部を超えていて。2800万ですよ! 日本の総世帯数の半分以上ですよ!!
テレビアニメのシリーズに加え、渡辺先生がオリジナルの物語を書き下ろした長編アニメ『劇場版 弱虫ペダル』や、「King & Prince」の永瀬廉くんが主演した実写映画、舞台、さらにはテレビドラマも制作されているから、もう‟自転車漫画の金字塔”と言い切っても過言じゃない。
NHKだけでも、BS1放送の「スポーツ×ヒューマン」や「ぼくらはマンガで強くなった」、「チャリダー★快汗!サイクルクリニック」、「‟弱虫ペダル”でツール・ド・フランスを楽しもう!」、BSプレミアムの「浦沢直樹の漫勉 neo」など、さまざまな番組で取り上げられていて、その人気がうかがえますね!
今作「弱虫ペダル LIMIT BREAK」は、第4期にあたる「弱虫ペダル GLORY LINE」終了から約4年ぶりとなるテレビ放送。ちなみに第4期までは、テレビ東京系でオンエアされて、坂道2度めのインターハイ最終日直前で終わっていたから、「ペダル」ファンにとっては、本当に「待ちに待った」放送になったんですよねぇ。
1年目のインターハイで総北高校を総合優勝へと導いた小野田坂道(声:山下大輝)は、チームメイトの今泉俊輔(声:鳥海浩輔)や鳴子章吉(声:福島潤)とともに2年生に進級。キャプテン・手嶋純太(声:岸尾だいすけ)率いる新チームで、大会連覇を目指し、2年目のインターハイに臨む。立ちはだかるのは、昨年の雪辱に燃える王者・箱根学園ほか、数々の強豪校。各チームが闘志を燃やす中、坂道は勝利をつかみ取るため、仲間たちと繋いできた絆を信じて、ただひたすらにゴールへ。そして運命の勝負が始まる!!
こうしてストーリーラインを紹介してみると、「自転車ロードレースに情熱を注ぐ高校生たちの成長や葛藤を描いた、王道のスポーツ青春もの」ということがしっかり伝わってくるでしょ? ただ、それは全く間違っていないんだけれども、個人的には、語るべき「弱虫ペダル」の深い魅力は、それだけじゃないと思っているんですよ。
伝わる自転車そのものの楽しさ
まず言えるのが、主人公・小野田坂道くんのキャラクター造形が、非常に特徴的なこと。彼はアニメやゲームが大好きで、興味があることを語り始めたら話が止まらない、典型的なオタク少年なんですよね。総北高校に入学するまで、むしろ運動は苦手にしていて。
入学後はアニメ研究部に入部して友達を作るのが願いだったし、なのに部員減少で休部中であることを知って呆然としていたんだもの。アニ研の再開に向けて奔走する彼は、運動部には近づきたくないと考えていて……。それって、スポーツものの主人公としては、なかなかいないパターンですよね。
ただ彼には、小学生のときから、自宅がある千葉から電脳街として名高い東京・秋葉原まで、往復約 90キロの道のりを毎週自転車で走破していた経験があった。それは、浮いた電車代をアニメグッズやガシャポンにつぎ込みたい、という単純な理由からなんだけど。
そこで知らず知らずのうちに、高回転(ハイケイデンス)のペダリングを身につけていたんだね。そんな坂道くんの類まれなペダリングの実力を認めたのが、同学年の今泉くん。中学時代に多くのロードレース大会に優勝して名を馳せ、自転車競技部に入部するために総北高校を選んでいた今泉くんは、坂道くんに自転車競技部への参加という道を提示してくれた。そこから坂道くんは「最強の初心者」として、クライマー(登り坂を得意とする選手)への一歩を踏みだして……。
当然ながら、坂道くんは自転車競技部に入部した時点で、レース用の自転車(ロードレーサー)に乗った経験はなかったし、愛車は親に買ってもらったシティサイクル(いわゆる、ママチャリ)。そんな「ど素人」な彼は、スポンジが水を吸収するかのように素直に、かつ貪欲に、多くの知識やテクニックを吸収していく。スピード感あふれる描写の中で、自転車乗りとしての成長を読者が一緒に体感していくことができるのは、まさに快感でしかないんだよね。
自転車に最大の力を伝えるための適正なサドルの高さ、シフター(変速機)で変えるギアの重要性、ペダルを回すときに荷重すべき足の位置など、初歩的なことから高度なレース戦略まで、自転車に乗る楽しさをひとつひとつ「発見」していく坂道くん(特に、原作冒頭ではそれが丁寧に描かれていて、彼がロードレーサーに初めて乗車する場面は、3巻の半ばまで登場しない)。
そうした「学び」は、やがて彼の中に眠る新たな可能性の扉を開いていく。その学びが人間としての確かな成長につながり、やがて彼は、周囲から「自転車そのものの楽しさを体現している」と評されるまでになっていくんだよね。何より、彼がチームの勝利を決定づける「エース」選手ではなく、(1年目のインターハイでは、レース展開の流れで優勝という栄冠を手にはしているけれど、本来は)「エース」の走りをサポートする「アシスト役」であることも、「弱虫ペダル」の重要なポイントになっているんですよ。
坂道くんが味わう、風を切り裂いて前に進む快感。仲間と切磋琢磨しながら走る喜び。そして、ペダルを回すたびに変わる景色。そんな自転車への熱い思いが迸る「弱虫ペダル」を生みだした漫画家・渡辺航先生は、ロードレーサーやマウンテンバイクから小径車まで、さまざまな自転車を乗りこなしている、根っからのサイクリストだ。
自ら自転車レースのチームを立ち上げ(メンバーが全日本選手権で優勝するほどの強豪!)、先生自身も「ペダル」執筆と並行して厳しい練習を積み重ね、多くのレースに参加しているほど。そんな渡辺先生が作品に込めた思いを、以前取材させていただいた際のメモからピックアップしていきましょう!
僕が「弱虫ペダル」という漫画を通して訴えたかったのは、人間が持っている可能性です。自転車に乗って戦っているキャラクターたちが、自分で自分の可能性を広げていく、その瞬間みたいな部分をすごく描きたくて。
そして自転車に乗ることの楽しさ、ロードレースの楽しさ、その人が全力でやることの大切さみたいなものを伝えたいと、僕はいつも思っています。そういう部分は、もちろん「弱虫ペダル」のアニメーションにも引き継がれていると思っていますので、ぜひとも、みなさんに楽しく、一緒に泣いたり、笑ったり、怒ったり、うれしくなったりしながら見ていただきたいなと思います。
(さらに渡辺先生の言葉を満載した後編に続く→2月11日深夜に掲載予定!)
3月9日生まれ。長崎県出身。2001年に『マガジン SPECIAL』(講談社)掲載の「サプリメン」で連載デビュー。2015年に「弱虫ペダル」で第39回講談社漫画賞(少年部門)を受賞。そのほかの作品に「制服脱いだら♪」、「まじもじるるも」シリーズ(ともに講談社)、「はなたん ~ココは華咲探偵事務所♪~」(新潮社、電子書籍は2月8日から秋田書店で配信)などがある。
カツオ(一本釣り)漁師、長距離航路貨客船の料理人見習い、スキー・インストラクター、脚本家アシスタントとして働いた経験を持つ、元雑誌編集者。番組情報誌『NHKウイークリー ステラ』に長年かかわり、編集・インタビュー・撮影を担当した。趣味は、ライトノベルや漫画を読むこと、アニメ鑑賞。中学・高校時代は吹奏楽部のアルトサックス吹きで、スマホの中にはアニソンがいっぱい。