あなたは、あなたがやりたいと思うことをやりなさい!

俺にも秋音にも、オケ部の奴らだっていい。もっと周りを頼れ!

心配してんのはお母さんのことだけじゃないんですけど?

「青のオーケストラ」各回の予告編のように、第18話「真実」で印象的だったセリフを並べてみました。佐伯直からの衝撃の告白を受けて、混乱したままの青野くん。彼の態度に異変を察したものの、それを深く問いつめることなく寄り添おうとする人たち。もうね、その気遣いを見ていてるだけで泣けてきますよ。実際、青野くんは、武田先生と一緒にいて、あふれる涙を止められなかったし。そんな周囲の人たちの優しさが心に沁みる第18話ですが、まずは流れを振り返っておきます。


青野(声:千葉翔也)が、また部活に顔を見せない。律子(声:加隈亜衣)はハル(声:佐藤未奈子)から、皆で青野を訪ねた夜に、佐伯(声:土屋神葉)がひとり青野の家に戻ったと聞かされる。最後に会った佐伯が、何かを知っているかもしれない。そう考えた律子は、佐伯に問いかけるが、返ってきたのは「青野くんはもう来ないかもしれない」という言葉だけだった。

一方の青野は、体調を崩して入院中の母(声:斎藤千和)に部活での様子を聞かれて、退部を考えていることを漏らす。ヴァイオリンも辞めたいという青野の言葉を即座に却下した母は「自分のやりたいことをやってほしい」と語りかけた。

思い悩む青野は、病院からの帰り道、目的もなく街を歩き続け、中学時代の恩師である武田先生(声:金子隼人)と出会う。青野が部活を無断欠席したと知った武田先生は、以前の青野ならサボらずに即やめていただろうと指摘。複雑な家庭の事情を口にして、もう何も考えたくないと感情を迸らせた青野を、黙って受け止めた。

別れ際、武田先生から「もっと周りを頼れ!」と言われた青野は、たくさん届いていた秋音のメッセージにおそるおそる返信。すると、すぐに電話がかかってきて……。


「青のオーケストラ」という作品の魅力のひとつと言えるのが、とても丁寧な心理描写。今回は特にそれが顕著でしたね。「動と静」のうちの「静」がきちんと描かれているというか。前回、衝撃の事実が明かされてから、ドラマ自体が大きく動いているわけではないけれど(放送休止期間は3週間もあったけれど、劇中では佐伯の告白の2日しか経っておらず、今回も1日の中での物語だ)、青野くんの心の中では確かな変化が起きていて。そこに作用したのが、この文章の冒頭に挙げた言葉を発していた、3人とのやり取りです。

まずは青野ママ。味気ない病院食に「プリンが食べた~い」と少女のようにすねるかわいらしさを見せながらも、ヴァイオリンを辞めたいという息子の言葉が本心ではないことをしっかり見抜いて、即座に却下。毅然とした態度で「あなたは、あなたがやりたいと思うことをやりなさい!」と語りかけてくれる。「これ、簡単なことのようだけど、すっごく難しいことよね」と付け加えながら……。そこには、息子のことをとてもよく理解している、母親としての深い愛情が感じられますね。

©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

声を担当している斎藤千和さんの、可愛らしさと凛とした部分を同居させる変幻自在な演技が重なって、青野ママの魅力が倍増しています。
それでも青野くんは、父・龍仁のスキャンダル報道で青野ママが苦しんできた姿を目にしているから、佐伯のことで「もう二度と、母さんに辛い思いはさせたくない」という気持ちが強くて。ヴァイオリンは弾かないほうが……、という思いを捨てられない。

その苦しみを和らげてくれたのが、久々の登場となる武田先生でした。相変わらず自分の会話のペースに強引に巻き込んでいく武田先生だけど、今の青野くんにとってはそれが心地よくて。部活をサボったことについて、うれしそうに「そういうときもあるよな、いいんじゃねえの?」と語っている姿は教師として異論もあるだろうけど、青野くんをちゃんと理解しているからこその言葉だと思います。教師としてではなく、人生の先輩として接しているのかもしれないな。その役割は父親が担ったりすることもあるけれど、ほら、青野くんの父親はアレだから……。

©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

自分は無力な子どもなのに、なぜ父親に振り回されなきゃいけないのか、と感情を爆発させてしまった青野くんを無言で抱き止めてくれた武田先生がいてくれて、青野くんはどれだけ救われたことか。そして「子どもだって思うなら、子どもらしくしとけ」「もっと周りを頼れ!」という武田先生の言葉が、青野くんの心に刺さります。

さらに、青野くんを心配して何度も連絡を取ろうとしてくれた、りっちゃん。青野くんが送ったメッセージにすぐに「既読」がついた理由は、青野くんの家を訪ねて帰宅したりっちゃんが、スマホの画面を見ながら「またメッセージを送ってみようか、でも、あまり多いと迷惑だよね……」と悩み続けていたときに青野くんからメッセージが届いたから(原作の「おまけ漫画」より)だけど、連絡が「遅いッッ!」と言いつつも、青野ママと青野くんのことを気にかけてくれて。

©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

青野くんが部活を辞めようと思ったこと、その原因が佐伯にあるかもしれないことも察していました。これまで青野くんと過ごしてきた日々があるからこその関係性が、そこから見えてきますね。そんなりっちゃんが何気なく言った「どうせ(佐伯と)ケンカでもしたんでしょ?」という言葉を聞いて、改めて青野くんは「ケンカ」しようと決意します。

家を飛び出し、佐伯のもとに駆けていく青野くん。はたして2人の和解はあるのか!? そのためには血みどろの殴り合いが……(←違います

©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

第17話からを「青野くんと佐伯のドラマ」とするならば、「序・急・破」の「破」の部分が、次回、9月3日放送の第19話「君として」にあたると考えられます(もっとも「序」の部分は、第17話以前にも伏線として、そこかしこに散りばめられていたのだけれども)。その第19話のあらすじは、こんな感じ。


 「あいつとケンカしてくる」と秋音に宣言した青野。青野と佐伯は、人気のない夜の公園で向き合っていた。あの夜、佐伯が打ち明けた事実を、青野は許すことができない。謝罪の言葉を繰り返すばかりの佐伯に、青野は感情をぶつける。佐伯との演奏が楽しかったこと、自分に無いものを持つ佐伯を妬んでいたこと……。そのすべてを裏切られたように、青野は感じていた。「佐伯直として、俺の前に立って話せ!」。青野は佐伯を問い詰める。


あえて、予告編のセリフを全掲載しましょう。

青野龍仁の息子としてしゃべるな。佐伯直として、俺の前に立って話せ!

俺は…、君とヴァイオリンが弾きたい!

私が言葉を重ねるよりも、この2つのセリフがすべてを物語っている気がします。いやもう、涙なしでは見られないないことが確定ですね。というか、見逃したら絶対に後悔するはず。ぜひ、予約の再確認を!

第18話「真実」の再放送は、Eテレ 8/31(木曜)午後7:20~7:45。
見逃し配信は、NHKプラスで、9/3(日曜)午後5:25 まで。
https://plus.nhk.jp/watch/st/e1_2023082715632


追記
第18話「真実」については、生配信された「青オケざんまいナイト 特別配信」(YouTube NABE/NHK公式チャンネル)で、千葉翔也さん、土屋神葉さん、佐藤未奈子さん、小学館・小林翔さんが司会の宮﨑あずさアナウンサーとともに、感想を語り合っています。番組を同時視聴している際には、みんな物語に集中しているから言葉が少なかったけれど、終了後にかなり時間をかけて語り合っていました。現在も配信中なので、チェックしてみてください。そこで千葉さんが「第18話は、青野くんが『俺はただ、ヴァイオリンを弾いていたいだけなのに!』という一言に帰結するための話」と分析していたけれど、まさにその通りなんだよね……。

そして粗品さん、片山杜秀さん、千葉翔也さん、東亮汰さんが出演した「粗品のクラシックためにならない話~青のオーケストラ コラボSP」(ナレーターは、佐藤未奈子さん!)も、9月3日(日曜)の午後9時までNHKラジオ らじる★らじるで聴き逃し配信中ですよ! そこにも作品をさらに楽しむための手がかりが満載なので、お聴き逃しなく。佐藤さんによる「ラーメン△郎のためのカンタータ」の合唱「マシマシ・コーラス」歌詞朗読も必聴だ!

文/銅本一谷

カツオ(一本釣り)漁師、長距離航路貨客船の料理人見習い、スキー・インストラクター、脚本家アシスタントとして働いた経験を持つ、元雑誌編集者。番組情報誌『NHKウイークリー ステラ』に長年かかわり、編集・インタビュー・撮影を担当した。趣味は、ライトノベルや漫画を読むこと、アニメ鑑賞。中学・高校時代は吹奏楽部のアルトサックス吹きで、スマホの中にはアニソンがいっぱい。

☆これまでの感想記事は、ここに(https://steranet.jp/list/category/stera_aniken )。