現在連載中の「亡命ウクラニアン百年の物語」に関連して、ぜひ皆さんに見ていただきたい番組をご紹介します。深刻な苦しみをかかえている「ウクライナ避難民」に焦点をあてた番組です。

かんさい熱視線「ウクライナ支援 長期化の陰で 人知れず苦悩する避難者たち」
(制作NHK大阪)
https://www.nhk.jp/p/osaka-nessisen/ts/X4X48GXNX2/episode/te/4G36639K6Q/
放送:10月28日(金) 総合 午後7時30分 大阪ローカル
※NHKプラス(全国放送)で10月28日から11月11日まで視聴可能

ロシアによるウクライナへの侵略が長引くにつれ、世界に離散する難民が急激に増えています。その数800万。日本はすでに2000人近い避難民を受け入れています。

戦火を逃れて日本へたどり着いたとき、避難民はつかのまの安堵を得たかもしれません。しかし、見知らぬ国で「ふつうの生活」を実現することは、おそろしくむずかしい。

カナダやアメリカ、ヨーロッパには、百年前からウクライナからの亡命者や難民が根づき、避難者をスムーズに受け入れる大きなコミュニティもあります。
そもそも、難民や移民を受け入れるノウハウが社会に蓄積されています。

しかし日本には、戦前の神戸に一時期、例外的に存在したウクライナ移民のコミュニティもすでにありません。ウクライナの避難民にかぎらず、難民をうけいれる経験に乏しく、国の政策そのものが消極的です。それゆえ、さまざまな困難や大きな壁があります。

また、避難民は立場上、なかなか声をあげづらい。
そもそも「避難民」は難民ではなく「在留」という扱いであって、期限付きの特例措置ゆえ、非常に不安定な条件を強いられます。「難民」なら国際条約にもとづく保護の対象となり、人権が保障されるけれども、「避難民」であれば、法的にも不安定になる。いつまで滞在できるかもわからない。

移民のコミュニティがないために、手助けをすべて「身元保証人」にたよらざるをえない。身元保証人には、おもいがけない負担と責任がかかります。避難民と受け入れる側、双方がきびしい現実に直面し、予想外のトラブルもおきます。

そのあたりの実態は、あまり報道されていません。おもてに出てこない難問も非常に多いと思われます。しかし現実を直視しない限り、解決策はのぞめません。

戦争は長引くでしょう。ウクライナの避難民と長期にわたってともに生きていく覚悟をもたなくてはなりません。そのために何が必要になってくるのか。この番組が、そのことを考える契機になることを期待しています。

京都大学文学部卒業、1981年にNHKに入局。特集番組の制作に従事。NHK特集「山口組」、ハイビジョン特集「笑う沖縄・百年の物語」、BS特集「革命のサウンドトラック エジプト・闘う若者たちの歌」、最近作にNHKスペシャル「新・映像の世紀」「戦後ゼロ年東京ブラックホール」「東京ブラックホールII破壊と創造の1964年」などがある。ユネスコ賞、バンフ国際映像祭グランプリ、ワールド・メディア・フェスティバル2019インターメディア・グローブ金賞など受賞多数。現在はフリーランスの映像ディレクター・著作家として活動。著書に『戦後ゼロ年東京ブラックホール』『1964東京ブラックホール』がある。2023年3月放送の「ETV特集・ソフィア 百年の記憶」では、ウクライナ百年の歴史リサーチ、映像演出を担当。