新・介護百人一首

つまの尿
バルーンの中で
泡立ちて
せみの鳴声
ひときわ高し

大阪府横田 治子 86歳)

詞書

導尿の管とペースメーカーが入り、導尿のバルーンの尿に一喜一憂する日々です。出が悪いと蝉の声にいらいらし、より暑い日々に感じます。

感想コメントをいただきました

鎌田實

病院の院長をしながら、隣に併設している老人保健施設の施設長もしていた時期があります。
この横田さんの歌の情景は、まざまざと目に浮かんできます。ご主人が、腎臓の病気か前立腺の病気があり、あるいは脳卒中を起こして、自分でトイレができない。いくつかの状況が目に浮かんできます。そんな中で、家族が尿バルーンを見ながら、尿の出に一喜一憂をしている。妻の優しい心が見事に表されています。「蝉の鳴声ひときわ高し」が効いていますね。介護する家族の思いが見事に表された秀作です。
86歳の横田治子さんの心は、干からびても老化もしていない。みずみずしい短歌です。拍手。

鎌田實

1948年生まれ。医師・作家。東京医科歯科大学医学部卒業後、諏訪中央病院へ赴任。30代で院長となり赤字病院を再生。地域包括ケアの先駆けを作った。チェルノブイリ、イラク、ウクライナへの国際医療支援、全国被災地支援にも力を注ぐ。現在、諏訪中央病院名誉院長、日本チェルノブイリ連帯基金顧問、JIM-NET顧問、地域包括ケア研究所所長、風に立つライオン基金評議員(他)。武見記念賞受賞。