新・介護百人一首

知人の影
見ゆるたびに
「戻れ」とか
「曲がれ」とか言ふ
車椅子より

青森県ペンネーム 藤田 久美子 72歳)

詞書

車椅子の自分を知人に見られたくない父。無理矢理散歩に連れ出した私。父亡き今、その葛藤が懐かしい。

感想コメントをいただきました

茂木健一郎

人の心の動きとは、なんと不思議なものなのでしょう。知人と出会うことはうれしいこと、心が弾むことでもあるけれども、同時に、さまざまな思いが交錯します。「知人の影見ゆるたびに」特別な気持ちになるわけですが、そこで「「戻れ」とか「曲がれ」とか言ふ」そのお人柄が、読者の胸に迫ってきます。「車椅子」に乗った自分は、かつての自分とは違っているけれども、それでも間違いなく今の自分。「私」という人間がここにいるという矜持が伝わります。

茂木健一郎

1962年、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究。文芸評論、美術評論などにも取り組む。NHKでは、〈プロフェッショナル 仕事の流儀〉キャスターほか、多くの番組に出演。