新・介護百人一首

かなへられし
願ひなれども
つまの世話
手より離せば
広がる空白

神奈川県藤井 ふさ子 78歳)

詞書

念願であった介護施設へ夫を頼み介護から離れてみますと寂しさとむなしさに押しつぶされています。

感想コメントをいただきました

鎌田實

「手より離せば広がる空白」が効いています。この複雑な気持ち。50年間、在宅ケアをやってきたのでよくわかります。介護施設に夫を入所させ、これからは少し楽になると思っていたら、そう簡単ではなかった。
心は不思議なものです。
誰かのために、何かをしている時、オキシトシンという絆ホルモンが出ます。この絆ホルモンは、抗酸化力があると言われています。人に親切にしてあげたり、世話を焼いてあげたりすることで、相手も喜ぶのですが、回り回って自分の心や体を元気にする不思議なホルモンなのです。
ふさ子さん、まずはひと休みして、できるだけ夫の顔を見に行ってあげるといいですね。そして月に一度は、(施設の許可が出れば)町へ連れ出して、夫が食べたいものを食堂で食べさせてあげられたらいいですね。
素晴らしい短歌だと思います。

鎌田實

1948年生まれ。医師・作家。東京医科歯科大学医学部卒業後、諏訪中央病院へ赴任。30代で院長となり赤字病院を再生。地域包括ケアの先駆けを作った。チェルノブイリ、イラク、ウクライナへの国際医療支援、全国被災地支援にも力を注ぐ。現在、諏訪中央病院名誉院長、日本チェルノブイリ連帯基金顧問、JIM-NET顧問、地域包括ケア研究所所長、風に立つライオン基金評議員(他)。武見記念賞受賞。