新・介護百人一首

お食べよと
半分折りし
バナナをば
我に差し出す
眼差まなざしは母

大分県長野 久美子 68歳)

埼玉県 木野田博彦

詞書

アルツハイマー病であろうが、叱る怖い娘であろうが、自分の好物のバナナを、娘に先に食べさせようと、幼い頃に、私にしてくれたように、私を優しくみつめて。

感想コメントをいただきました

恩蔵絢子

認知症があると自分の記憶を言葉で伝えることが難しくなることがあり、もしかしたら、娘さんの名前を呼ぶことが難しい日もあるかもしれない。しかし、だからといって娘さん自体を忘れたわけではなく、顔を見ればいままでとおなじようにいつだって、たとえ娘さんが慣れない認知症の症状に戸惑ってお母様にひどい言葉を使ってしまうことがあったって、良いと思った食べ物を分けようとしてくれる。人間は言葉にいるのではなくて、行動にいるんだということを感じさせてくれる歌でした。

恩蔵絢子

脳科学者。2007年東京工業大学総合理工学研究科知能システム科学専攻博士課程修了(学術博士)。専門は自意識と感情。2015年に同居の母親がアルツハイマー型認知症と診断される。母親の「その人らしさ」は認知症によって本当に変わってしまうのだろうか?という疑問を持ち、生活の中で認知症を脳科学者として分析、2018年に『脳科学者の母が、認知症になる』(河出書房新社)を出版。認知症になっても変わらない「その人」があると結論づける。NHK「クローズアップ現代+」、NHKエデュケーショナル「ハートネットTV」に出演。2022年には、母親に限らず、認知症についてのさまざまな「なぜ?」に対して脳科学的に解説する『なぜ、認知症の人は家に帰りたがるのか』(中央法規。ソーシャルワーカー・永島徹との共著)を出版。現在、金城学院大学、早稲田大学、日本女子大学非常勤講師。