新・介護百人一首

読みかけた
ままの背表紙
並んでる
夕陽ゆうひが照らす
デイルーム隅

北海道橘 晃弘 63歳)

岐阜県 髙瀬ひな
岐阜県 高木心優華

詞書

脊損の車いすユーザーです。リハビリで入院していた病院のデイルーム本棚には多種多様な本が並んでいて、回復したり、亡くなったり、いろいろな理由で最後まで読み切れなかった本に、その方の人生を感じていました。

感想コメントをいただきました

茂木健一郎

最近ではずいぶんと一般化してきた電子書籍ですが、文字の大きさを変えられるなどのメリットがあります。一方、紙の本や雑誌には、どこか人間の肌に通じる温かみがあります。そして、ここまで読んだ、その先はまた後で、というような生活の中のリズムも、そこから読み取ることができるのです。デイルームの隅に、「読みかけたままの背表紙並んでる」ありさま、そしてそこに「夕陽が照らす」その時の流れをとらえたこの歌は、まるで人と人との交響曲のようです。

茂木健一郎

1962年、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究。文芸評論、美術評論などにも取り組む。NHKでは、〈プロフェッショナル 仕事の流儀〉キャスターほか、多くの番組に出演。