新・介護百人一首

帰りたき
心はあれど
「でも」と言ふ
おうなの涙
知るや家族は

鹿児島県田中 安平 73歳)

詞書

家族の面会があるまでは「帰りたい」と職員に涙ながらに訴えてこられる人が、実際の面会では「忙しい時には来なくていいからね」と心とは裏腹に、家族のことを思い強がりを言う。

感想コメントをいただきました

市毛良枝

誰もが家で老後を迎えられるのが理想なのでしょう。でも、簡単に理想と言いきれない現実がたくさんあります。歌に詠まれている女性の、「でも」の一言に、現実の難しさや、家族への思いやりが見え、複雑な気持ちが伝わります。家族が帰った後涙している女性への作者の視線を感じ、一言で表せない気持ちがあふれています。
家族に伝わっているかとかすかに混じる憤りも優しさがゆえ。やるせない思いが伝わる歌でした。

市毛良枝

静岡県生まれ、俳優。文学座附属演劇研究所、俳優小劇場養成所を経て、1971年ドラマ「冬の華」でデビュー以後、映画・テレビ・舞台と幅広く活躍。現在は、母の介護の経験を通じ、執筆活動や講演も行っている。趣味の登山をいかし、特定非営利活動法人 日本トレッキング協会理事、環境カウンセラーの資格を持つ。「73歳、ひとり楽しむ山歩き」(2024年2月発行 KADOKAWA)が好評発売中。