新・介護百人一首

介護受くる
妻の記憶の
片隅に
せめて残れよ
オーロラのひだ

東京都木ノ本 博通 88歳)

大阪府 武村昌子

詞書

夫婦して国の内外へ多くの旅を楽しんだ。その一片、二十年前のクリスマスは北極圏で過ごす機会を得、アイスホテルに泊まり、見上げたオーロラに大感動。難病に併せ忘却という認知症が進む妻への祈るような思いを。

感想コメントをいただきました

恩蔵絢子

人間の脳の中では、感情と記憶のシステムは隣り合っていて、感情が動いた出来事は強烈に記憶に刻み込まれるようになっています。そして自分たちの普段生きている環境とはまったく違う環境のところに旅をするなど、新しいものに出会ったときに、私達の感情は一番動くようになっています。これさえ残っていてくれれば大丈夫、というものが、二人で旅に出る経験を積み重ねてきた中でも特別な、二人で本当に感動した経験だというところが素晴らしいと思いました。実際、どういう形でも、そういうものは残るのだと私は信じています。

恩蔵絢子

脳科学者。2007年東京工業大学総合理工学研究科知能システム科学専攻博士課程修了(学術博士)。専門は自意識と感情。2015年に同居の母親がアルツハイマー型認知症と診断される。母親の「その人らしさ」は認知症によって本当に変わってしまうのだろうか?という疑問を持ち、生活の中で認知症を脳科学者として分析、2018年に『脳科学者の母が、認知症になる』(河出書房新社)を出版。認知症になっても変わらない「その人」があると結論づける。NHK「クローズアップ現代+」、NHKエデュケーショナル「ハートネットTV」に出演。2022年には、母親に限らず、認知症についてのさまざまな「なぜ?」に対して脳科学的に解説する『なぜ、認知症の人は家に帰りたがるのか』(中央法規。ソーシャルワーカー・永島徹との共著)を出版。現在、金城学院大学、早稲田大学、日本女子大学非常勤講師。