新・介護百人一首

盆の日に
碁石のつぼ
ふたをあけ
つまの打つ音
きこえるように

三重県北原 広江 88歳)

詞書

碁の好きな夫は入院の前日に背を丸めて今まで使った石を磨きましたが、退院のあとは石に触る事は出来ませんでした。

感想コメントをいただきました

茂木健一郎

亡くなった方々が帰ってくると信じられているお盆。ゆかりのお墓、そして壺に夫が戻ってくるのではないか、その時、打つ音が聞こえるのではないかという感覚になるのは自然なことです。科学はさまざまなことを解き明かしてきていますが、人の心の動きはまだ説明しきれません。古からの文化や習慣、そしてそれぞれの方の体験や個性が、特別な時にかけがえのない思いをよびおこします。そのありさまを記して、一陣の風が吹くような歌です。

茂木健一郎

1962年、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究。文芸評論、美術評論などにも取り組む。NHKでは、〈プロフェッショナル 仕事の流儀〉キャスターほか、多くの番組に出演。