4月5日(土)から始まった土曜ドラマ「地震のあとで」は、村上春樹が阪神・淡路大震災をモチーフに著した連作短編小説『神の子どもたちはみな踊る』を原作にした“地震のあと”の4つの物語。阪神・淡路大震災から30年経った今、震災の影響を、現地ではなく遠い場所で受けた人間たちを描いた作品だ。
制作統括を務めるのは、本作と同じく村上春樹原作の映画『ドライブ・マイ・カー』を手がけたことでも知られる山本晃久さん。30年前、兵庫県西宮市で阪神・淡路大震災で被災した山本制作統括に、本作に込めた思いを聞いた。
「原作を初めて読んだとき、心のかせが軽くなったように感じた」
――村上春樹さんの短編小説『神の子どもたちはみな踊る』をドラマ化するに至った経緯を教えてください。
阪神・淡路大震災が発生した30年前、私は中学2年生で兵庫県西宮市に暮らしていました。村上春樹さんの『神の子どもたちはみな踊る』は、震災から5年後の2000年2月に刊行された短編集で、当事者ではない人物を描いた作品です。
この本を初めて読んだとき、第三者の目線から震災を見つめることで、自分の中にあったモヤモヤした恐怖心や悲しみを冷静に捉えることができ、心のかせのようなものが軽くなったように感じました。
聞けば、演出の井上剛さんは、阪神・淡路大震災から15年経った年に撮ったNHKドラマ「その街の子ども」のとき、この原作を指針にされていたとのこと。被災者ではない井上さんには、震災当事者ではない人々を描く同作がとても参考になったそうです。井上さんからそうお聞きしたときは、ご縁を感じましたね。

第3話「神の子どもたちはみな踊る」より
――原作と異なり、ドラマは各話それぞれ年代も登場人物も異なります。意図はどんなところにありますか?
30年近く前に刊行された原作を、そのまま映像化するのはふさわしくないと感じました。そこで、全4話のスタートを1995年にすえ、2025年に向かって時間が経過するという構造にできないかと思いついたんです。思えばこの30年、地震のみならず、私たちはさまざまな“揺らぎ”を経験してきました。
1995年には阪神・淡路大震災に地下鉄サリン事件、1997年には神戸連続児童殺傷事件、2011年には東日本大震災、2020年には新型コロナウイルスの流行……。挙げればきりがありません。そんな30年の“負の連鎖”を一度まとめて振り返ってみることで、自分たちが今どこにいるのか、どんな社会に生きているのかを再確認する足掛かりを得られるんじゃないかと考えました。
――各話それぞれ、どんなテーマで描かれたのでしょうか。
第1話の舞台は、阪神・淡路大震災の起こった1995年。この年を皮切りに負の連鎖が始まったと考えるとするならば、第1話はそのとば口のような意味合いを持つ回です。続く第2話は、それから16年経った2011年1月が舞台。皆さんご存じの通り、阪神・淡路大震災のアフターであると同時に、2011年3月11日に発生する東日本大震災のビフォアでもある“狭間”のタイミングの物語です。
第3話の舞台は、コロナが流行し始めた2020年。コロナ禍という“社会の揺らぎ”の中、宗教2世を主人公に“アイデンティティーの揺らぎ”を描きました。そして最終話の舞台は、2025年。今です。私たちは、文字通りいつ何が起きるかわからない状況の中で生きています。それを完全に防ぐことはできないかもしれないけれど、立ち向かうことはできるはず。最終話は、そんな祈りがテーマです。
第1〜3話は原作をもとに描いていますが、第4話だけは完全オリジナルストーリーです。原作の中の一編『かえるくん、東京を救う』から30年後という設定で、主人公・片桐のその後を描いています。私自身、村上春樹さんの大ファンなので、村上さんの世界観を自分たちの中に宿しながらドラマを作るというのはとても楽しい時間でした。と同時に、恥ずかしいものは作れないというプレッシャーも大きかったですが(笑)。

「分からない」ことの大切さ
――第1話の完成披露記者会見に出席したキャスト陣からは、「つかみどころがないストーリーで苦労した」との声も多かったですね。
そもそも村上春樹さんの作品は読む人それぞれに捉え方が違うので、「答えがわからない」と感じるのももっともでしょう。ただ私は、分かりやすいものと同様、分かりにくいものも重要だと思っています。
負の連鎖が1995年に始まったと解釈するならば、この30年、物事はことごとく短絡的になり、複雑なものや面倒くさいものを回避しようとした結果、人同士の理解が一向に深まらない社会が進行したように思います。
ですが、理解できないものをそのまま受け入れて共存の道を目指すことも必要ですし、他者の理解の第一歩になり得るはず。この作品をご覧になった方同士であれこれ会話しながら、ぜひ「分からなさ」を楽しんでいただきたいですね。
とても不思議な4つの物語です。ドラマを見ながら、阪神・淡路大震災からの30年を走馬灯のように思い出すような体験を味わっていただけると思います。さらに、ここから先の30年をどう生きていくのか、そんな未来を想像するようなきっかけになれればうれしいです。
土曜ドラマ「地震のあとで」(全4話)
毎週土曜 総合 午後10:00~10:45
毎週水曜 総合 午前0:35〜1:20 ※火曜深夜(再放送)
#1「UFOが釧路に降りる」4月5日(土)午後10:00 放送
1995年、東京。阪神淡路大震災のニュース映像を見続けていた未名(橋本愛)は、突然家を出ていく。夫の小村(岡田将生)は、妻の行方も分からないまま、後輩に依頼された「届け物」をするため釧路へ赴く。妻はなぜ出ていき、どこに行ってしまったのか? 小村は、釧路で出会った女性たちに奇妙な旅へと導かれていく。
#2「アイロンのある風景」4月12日(土)午後10:00 放送予定
2011年、茨城。家出して海辺の町に暮らす順子(鳴海唯)は、流木を集め焚き火をするのが趣味の画家、三宅(堤真 一)と出会う。順子は、自分と同じくこの町に流れ着いた三宅に惹かれ、いつしか焚き火を共にするようになる。3月11日の明け方、焚き火の大きな炎を前に、神戸にいた三宅の過去が明かされていく。
#3「神の子どもたちはみな踊る」4月19日(土)午後10:00 放送予定
善也(渡辺大知)は、熱心な宗教団体の中で、母親(井川遥)から「神の子ども」と言われ育ったが、2011年、東日本大震災を機に信仰をすてた。9年後の2020年、善也は、地下鉄の中で、耳の欠けた男を見つける。それは父親かもしれない男の特徴だった。自分の父親とは誰なのか? はたして神とは? 善也は男を追いかけていく。
#4「続・かえるくん、東京を救う」4月26日(土)午後10:00 放送予定
2025年、東京。銀行を定年退職し漫画喫茶で暮らす片桐(佐藤浩市)のもとへ、突然巨大な“かえる”の姿をした「かえるくん」(のん・声)が現れ、間もなく地震が起こるという。「かえるくん」は30年前にも片桐と共に戦い、東京を地震から救ったと言うが、片桐にはまったく身に覚えがない。再び、2人の戦いが始まる。
原作:村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』より
脚本:大江崇允
音楽:大友良英
出演:岡田将生、橋本愛、唐田えりか、北香那、泉澤祐希、吹越満/鳴海唯、黒崎煌代、堤真一/渡辺大知、渋川清彦、黒川想矢、木竜麻生、井川遥/佐藤浩市 、錦戸亮、津田寛治、のん(声)ほか
制作統括:山本晃久、樋口俊一、京田光広
プロデューサー:訓覇圭、中川聡子
演出:井上剛
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