4月5日(土)から始まった土曜ドラマ「地震のあとで」は、村上春樹の連作短編を原作にした“地震のあと”の4つの物語。阪神・淡路大震災から30年経った今、震災の影響を、現地ではなく遠い場所で受けた人間たちを描いた作品だ。

第1話「UFOが釧路に降りる」のシマオ役・唐田えりかさんにインタビュー。突然妻が姿を消し茫然ぼうぜん自失の主人公・小村(岡田将生)の心情を、かき乱すような行動をとるシマオ。つかみどころのない難役を、どんな思いで演じたのかを聞いた。


“分からない”まま演じることの怖さ

――今作は、村上春樹さんの『神の子どもたちはみな踊る』を原作に描かれたドラマです。オファーを受けたときはどんなお気持ちでしたか?

唐田 率直に、うれしかったですね。実は私、数ある小説の中で、村上春樹さんの『ノルウェイの森』がいちばん好きなんです。そもそも映画でもドラマでも、余韻が残るものや余白があっていろいろ考えさせられる作品にひかれますが、『ノルウェイの森』はまさにそんな作品。

しかも、どことなく不気味な空気が流れているところがすごく魅力的で。ですから今作のオファーをいただいたときは、「あの村上さんの世界の中に入れるんだ!」という気分でした。

――脚本をお読みになってのご感想はいかがでしたか。

唐田 正直、「これは難しいぞ」と思いましたね。脚本を読んでも読んでも「理解できた」と言い切れなくて、“分からない”まま演じることに怖さを感じました。ですが、山本晃久制作統括から、「唐田さんにしかできないと思って、お願いしました」という言葉をいただいたことが大きかった。

山本さんは、映画『寝ても覚めても』以来、ずっとご縁が続いている方。信頼している方にそう言われたことがありがたかったし、「私の感覚のままでやっていいんだ」と思えたんです。しかも、共演者の方々と話してみると、みなさんも私と同じように感じていると知り、ある意味割り切って、「すぐに答えが出るような作品ではない、自分なりの正解があればいいや」という感覚で臨みました。

――今回演じられたシマオという役に、どんなイメージをもって撮影に臨まれたのですか?

唐田 あえて言葉にすると、正体がよく分からない上に、人の心をかき乱す不気味さを持つ人物でしょうか……。いわば村上ワールドを象徴するような役どころだというイメージを持ちました。主人公の小村さんが、不安定で中身のない人物だとするならば、シマオはその対極にいるような、内面にしっかりと芯を持っている人物。実際、「シマオは、小村さんの考えが全部お見通しなんだ」と感じられる場面がいくつもありました。


村上春樹原作作品だからこそ得られたこと

――特に印象に残っているシーンはどこですか。

唐田 ラストで、小村さんとシマオがたいする場面が特に印象に残っています。それまで、小村さんの考えはすべて分かり切っているかのように振る舞っていたシマオでしたが、「自分の中身はもう戻ってこないかもしれない」と聞かされた小村さんの狼狽ろうばいする表情を見て、ふいに焦りを感じるんです。

それは、脚本を読んでいるときには想像もしなかった感情。自分の方が先に進んでいると思っていたのに、小村さんによって一気に同じ位置に引き戻されたような感覚に陥り、思わず悔しさが込み上げてきたんです。

実は、あの場面では、俳優としても「悔しい」と感じる自分がいました。岡田さんと共演させていただくのは今回が初めてですが、撮影が進むにつれて、どことなく似ている感覚をお持ちだと感じていたんです。私は映画『寝ても覚めても』で、岡田さんは映画『ドライブ・マイ・カー』で、それぞれが濱口竜介監督作品を経験したからかもしれません。

互いに「相手を超えたい」という思いでお芝居をぶつけ合う。そんなやり取りの末、このとき岡田さんがなんとも言えない表情をされたんです。それを見た瞬間、自分の不甲斐ふがいなさに「悔しい」という感情が湧き上がってきました。感覚が似ている者同士だからこその「悔しい」だったと思います。俳優の大先輩である岡田さんを相手に、生意気なことを言っていると思うんですけど……。

――そのときの小村は、どんな表情だったのですか。

唐田 まさに「生きている人間」の顔でした。それまで心ここにあらずだった小村さんが、あの瞬間、感情を持ち、自分の意志で動き、言葉を吐く「生きている人間」として感じられたんです。そのあと、シマオは「まだ始まったばかりだから」と小村さんに告げます。

脚本を読んだ段階では、理解し切れていなかったセリフでしたが、演じることで、小村さんの中で何かが始まったと身をもって感じることができたので、何の違和感もなく発することができました。ほかにも、今回は、自分で身をもって演じたからこそ湧いてきた感情がいくつもありました。すべてを言語化しない村上春樹さん原作作品のドラマだからこそ、得られた経験だと思います。

――最後に、視聴者の皆さんにメッセージをお願いします!

唐田 この作品は、阪神・淡路大震災がテーマでもあります。私自身は、阪神・淡路大震災が起こった後に生まれたので、直接体験したわけではありません。でも、この作品を通じて、地震のみならず、日常そのものが、もはや何が起こるか分からないんだということを改めて実感しました。

誰もが揺さぶられ続けているんじゃないかと。「地震のあとで」は、見る方によって捉え方が異なる、つかみどころのない作品だと思います。ぜひご覧いただいて、その後の余韻を楽しんでいただきたいですね。

【プロフィール】
からた・えりか

1997年、千葉県出身。2014年、スカウトがきっかけで芸能界入り。2015年、ドラマ「恋仲」にゲスト出演し女優デビュー。オーディションでヒロインに抜擢された映画『寝ても覚めても』(18年)では、「第42回山路ふみ子映画賞」新人女優賞、「第40回ヨコハマ映画祭」新人賞受賞。Netflixシリーズ「極悪女王」(2024年)で長与千種を演じ、大きな話題を呼んだ。

土曜ドラマ「地震のあとで」(全4話)

毎週土曜 総合 午後10:00~10:45
毎週水曜 総合 午前0:35〜1:20 ※火曜深夜(再放送)

【あらすじ】
#1「UFOが釧路に降りる」4月5日(土)午後10:00 放送
1995年、東京。阪神・淡路大震災のニュース映像を見続けていた未名(橋本愛)は、突然家を出ていく。夫の小村(岡田将生)は、妻の行方も分からないまま、後輩に依頼された「届け物」をするため釧路へ赴く。妻はなぜ出ていき、どこに行ってしまったのか? 小村は、釧路で出会った女性たちに奇妙な旅へと導かれていく。

#2「アイロンのある風景」4月12日(土)午後10:00 放送予定
2011年、茨城。家出して海辺の町に暮らす順子(鳴海唯)は、流木を集めき火をするのが趣味の画家、三宅(堤真 一)と出会う。順子は、自分と同じくこの町に流れ着いた三宅にかれ、いつしか焚き火を共にするようになる。3月11日の明け方、焚き火の大きな炎を前に、神戸にいた三宅の過去が明かされていく。

#3「神の子どもたちはみな踊る」4月19日(土)午後10:00 放送予定
善也(渡辺大知)は、熱心な宗教団体の中で、母親(井川遥)から「神の子ども」と言われ育ったが、2011年、東日本大震災を機に信仰をすてた。9年後の2020年、善也は、地下鉄の中で、耳の欠けた男を見つける。それは父親かもしれない男の特徴だった。自分の父親とは誰なのか? はたして神とは? 善也は男を追いかけていく。

#4「続・かえるくん、東京を救う」4月26日(土)午後10:00 放送予定
2025年、東京。銀行を定年退職し漫画喫茶で暮らす片桐(佐藤浩市)のもとへ、突然巨大な“かえる”の姿をした「かえるくん」(のん・声)が現れ、間もなく地震が起こるという。「かえるくん」は30年前にも片桐と共に戦い、東京を地震から救ったと言うが、片桐にはまったく身に覚えがない。再び、2人の戦いが始まる。

原作:村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』より
脚本:大江崇允
音楽:大友良英
出演:岡田将生、橋本愛、唐田えりか、北香那、泉澤祐希、吹越満/鳴海唯、黒崎煌代、堤真一/渡辺大知、渋川清彦、黒川想矢、木竜麻生、井川遥/佐藤浩市 、錦戸亮、津田寛治、のん(声)ほか
制作統括:山本晃久、樋口俊一、京田光広
プロデューサー:訓覇圭、中川聡子
演出:井上剛

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