図々ずうずうしくも陽気な性格の料理研究家・佐渡谷真奈美さどやまなみ 。おおざっぱで強引な面と、他人の心の痛みに寄り添える繊細な面の両方があり、どんどん突き進みながら主人公のしらあおい(蓮佛美沙子)を巻き込んでいく。

とある事情から、たった一人のためのお菓子教室を始めたが、それは心に傷を抱えた人に寄り添う時間でもあった。お菓子教室にやってくる人だけでなく、絶望のふちにいた白井葵も佐渡谷との出会いで変わっていく。

そんな佐渡谷真奈美を演じる永作博美さんに役作りや現場の様子などを聞いた。


節介せっかいだけど愛情深い人

――永作さん演じる佐渡谷さんは、なかなかインパクトのあるキャラクターですが、役作りはどのようにされたのでしょうか。

永作 料理研究家でお菓子教室を開くという役なのでゆっくり優しい時間が過ぎていくようなイメージだったのですが、佐渡谷真奈美はいきなり今あるものを壊し、どんどん前に進んでしまうような人。

台本を読んだ時「思ってたのと違う!」と思いましたが、ストーリーは面白いし「どうなっちゃうの??」と楽しみでした。ただ、佐渡谷さんに関しては正直、正解が難解で(笑)。現場では、シーンごとに都度つど相談しながら、試しながら撮りましたね。

とはいえ、ああ見えて佐渡谷さんは根がまじめで、好きなものは好き、諦めもよくて、持ち前のアイデアで周りを見ながら常に考えている人。すごく愛情深い人なんです。相手のちょっとしたことを見逃さない、聞き逃さない。そんなお節介だけど愛にあふれる佐渡谷さんを見ていただきたいです。

――今回は舞台が大阪で、永作さんの大阪ことばも印象的でした。

永作 「舞いあがれ!」(2022年度連続テレビ小説)の時も大阪弁だったのですが、あの時はヒロインのお母さん役で「お母ちゃん」という役割があったんです。でも今回は「大阪のおばちゃん」ということで、立場がざっくりと広かったんですよね。

大阪ことばと言ってもいろんな言い方があって、どの立ち位置での“大阪弁”なのか迷うところもあって。とはいえ、全然使い分けられるわけではなく、癖の強さを意識してしゃべってたら、「佐渡谷弁ですね」と言われたりして(笑)。

佐渡谷さんの言葉で白井さんに伝わればいい、静くん(木戸大聖)に伝わればいい、お菓子教室にくる人たちに伝わればいいんだと思えてからは気持ちを楽に、思いを届けるように話せるようになりました。お聞き苦しいところはあると思いますが、人と人とが関わっていく過程だと思って見ていただけたらうれしいです。

――そんな佐渡谷さんに共感する部分はありますか?

永作 佐渡谷さんって、勇気ありますよね。まだよく知らない白井さんのお店にも心の中にもどんどん入っていって、お菓子教室を開こうなんて。私はそんな勇気がないので、共感というよりすごいな、という感じ。できると信じてやれる、力強い人なんだと思います。


お菓子作りって、間近で見ると本当に楽しい

――演じられて印象に残っている部分はありますか?

永作 蓮佛さんがお菓子を作るところを間近で見るのは、芝居とは別の緊張感があって面白かったです。あそこまで手技を極めた蓮佛さんはかっこいいし、お菓子が出来上がっていくのは見ていて楽しい。

とはいえ、佐渡谷さんも「ケーキをカットするのがうまい」と白井さんに感心される役で、実際にケーキをカットするシーンが何度もあるのですが、ケーキって断面の美しさがすごく大事ですよね。その大事な部分を任されて、毎回緊張の連続でした。

印象に残っているシーンとしては、1週目で順子さん(土居志央梨)がストレスで倒れ込んでしまうシーンがありました。そこで佐渡谷さんがいきなり「あーーーーーーー」と叫びだすんです。呆気あっけに取られている白井さんを見ながら「白井さんも!」と言って、順子さんと3人で「あーーーーー!」と叫ぶシーン。

心を開放するためにいきなり叫び出すシーンだったのですが、本読みのときから「え、こうやるの?」と3人でびっくりしながらも、楽しみながら演じました。

――撮影現場はバニラの香りが満ちていたのでしょうか。

永作 現場ではみんなが疲れてきたら「はい、バニラの香り嗅いで!」と、本物の香りに癒やされながら撮影をしました。それはもう、本物はすごいんですよ。香料のバニラとはまた違う、ぽわんと抜けていくようななんとも言えない香り。香料のバニラの方がある意味「バニラ感」が強いのですが、本物はやっぱり落ち着くというか、心に作用するというか。

私は太陽を浴びた洗濯物の香りとか雨が降った後の匂いとか、季節の花の香りに幸せな気持ちになったりしますが、バニラも同じ。素敵すてきな香りだな、って改めて思いました。

――蓮佛さん、土居さんとの共演はいかがでしたか?

永作 蓮佛さんは、もう白井さんそのまま。コックコートの似合い方とか、ブレないところとか。ちゅうぼうに立つ白井さんはそのまま蓮佛さんで、そのシンクロ感はすごいと思いました。

土居さんはお芝居をとても丁寧にされる方、という印象です。演じている順子さんの一つ一つの心の揺れをしっかりと丁寧に演じられて。でも終わるとケロッとして楽しくおりするんです。ご一緒できて楽しかったです。
この後も、お菓子教室にいろんな役者さんが登場するので、ぜひ楽しんで見ていただければ。

――では最後に、見どころを教えてください。

永作 お菓子が本当に美味おいしそうで、キラキラしています。ある意味、白井さんとW主演と言っていいほどの存在感として登場します。そのお菓子を中心に、たくさんの人間模様があり、だけどシンプルな言葉で構成されていく。だから聞いていて心にグサグサと響くと思います。

日常のちょっとした隙間にあることが描かれるドラマなので、見ているみなさんも自分のことのように感じることがあるかもしれません。自分のことが少し見えてくるかも。そして、白井さんと佐渡谷さんの関係性も徐々に変化していきますので、ぜひ楽しんでご覧ください。

【プロフィール】
ながさく・ひろみ

1970年、茨城県出身。89年レコードデビュー、94年ドラマデビュー後はブルーリボン賞、日本アカデミー賞ほか数多くの賞を受賞するなど俳優として活躍。主な出演作に、映画『八日目の蝉』『朝が来る』、ドラマ「四つの嘘」「沈黙法廷」、舞台『頭痛肩こり樋口一葉』『人形の家PART2』など。NHKでは、大河ドラマ「功名が辻」、「さよなら私」「みかづき」「半径5メートル」などに出演。Eテレ「カールさんとティーナさんの古民家村だより」ではナレーションを担当。連続テレビ小説「舞いあがれ!」でヒロインの母を好演している。

夜ドラ 「バニラな毎日」(全32話)

毎週月曜~木曜 総合 午後10:45~11:00ほか

【物語のあらすじ】
しらあおい(蓮佛美沙子)は、パティシエとしての修業を積み、大阪で夢だったこだわりの洋菓子店を開いた。しかし、経営はうまくいかず、店を閉じることに……。
そこへ現れたのは、クセの強い料理研究家、佐渡谷さどや真奈美まなみ(永作博美)。閉店した白井の店の厨房で、“たった一人のためのお菓子教室”を開くという。渋々、協力する白井。不思議なお菓子教室にやってくる生徒は、それぞれに心に痛みを抱えた人たちだった。お菓子を作り、味わう時間が、孤独な心を優しく包み込んでいく……。

原作:賀十つばさ『バニラな毎日』『バニラなバカンス』
脚本:倉光泰子
音楽:jizue
主題歌:「涙の正体」SUPER BEAVER
出演:蓮佛美沙子、木戸大聖、土居志央梨、伊藤修子、和合由依、中島ひろ子、谷村美月、筒井真理子、永作博美 ほか
制作統括:熊野律時
プロデューサー:二見大輔
演出:一木正恵、安達もじり、押田友太、影浦安希子

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