賀十つばさの同名小説をドラマ化した「バニラな毎日」が1月20日(月)からスタートした。
舞台は主人公のパティシエ・白井葵(蓮佛美沙子)が大切に守ってきた大阪の小さな洋菓子店「パティスリー・ベル・ブランシュ」。経営難により閉店となったその厨房で、料理研究家の佐渡谷真奈美(永作博美)とともに、生徒がたった一人の不思議なお菓子教室が始まる。やってくるのは、心に傷を抱えた人々。五感を刺激するお菓子の魔法が、ささやかな幸せを生み出していくスイーツ・ヒューマンドラマだ。
勇気を出して人と関わっていくことで、人生はこんなに豊かになる、とやさしいメッセージを届けてくれる。白井葵を演じる蓮佛美沙子さんに役柄への思いや見どころを聞いた。
演じる役柄に初めて強烈なシンパシーを感じました
――会見では「こんなに胸がいっぱいになった作品は初めて」とおっしゃっていましたが、最初に台本を読んだ時、どんな印象でしたか?
蓮佛 安らぎとか優しさとか、生きていく上で忘れたくない、大事なことを思い起こさせてくれる作品になると思いました。お菓子を作って、その過程で癒やされていくお話で、すごく優しい物語なんです。そんな作品に呼んでいただき、うれしかったし光栄でした。
作品に登場する人たちも、背中を押してくれたり、鼓舞してくれたりするというよりも、そっと寄り添って、優しく背中をなでてくれるような人たちばかりで。控えめだけど愛がパンパンに詰まっている感じに「わぁ、この作品好き!」と思いました。
――主人公のパティシエ・白井葵は自分の店を畳むことになってしまい、苦難が続きます。素直になれないところもあるキャラクターですが、役作りなどこだわったことは?
蓮佛 1話目から自分のお店がつぶれてしまい、絶望しています。でも私はどの作品でも主人公は魅力的で愛されてほしいと思っているので、あまり暗く見え過ぎず、作品を引っ張っていくにはどうしたらいいか、そのバランスを監督と相談しながら進めました。
白井さんは本来とてもピュアで健気な人間なんだけど、生い立ちや家庭環境が理由で素直な気持ちを出すことが怖いんです。自分の大切なものを他人に伝えることに恐怖心がある。心の奥底にある大事な宝箱のようなものに鍵をかけてしまったという印象があって、3週目くらいまでは臆病で頑固なイメージを大事に演じました。

――白井は自分のすべてだった大切なお店がなくなってしまってもめげず、すぐにバイトを掛け持ちするような強さをもっています。そんな生き方は、蓮佛さんにはどう映りましたか?
蓮佛 うーん、もう私は彼女を演じて大好きになってしまっているので、もう客観的には見られないんですけど(笑)。不器用で頑固で人に頼ることが苦手だけど、お菓子に対する愛情は貫いている。一生懸命に生きている彼女が本当に大好きです。泥臭い生き方かもしれないけど、だからこそ愛おしい。
もしかしたら視聴者の方は「もっとこうしたら楽に生きられるのに」と歯がゆく感じるかもしれませんが、私は「そのままの白井さんでいいよ」と思いますね。
また、永作さん演じる佐渡谷さんみたいな、押しが強すぎて最初は拒否反応を起こしてしまうような人に出会っても、人生には“差し伸べられた手を掴まなきゃいけない瞬間”があると思っていて。白井さんはそれを掴める強さがあるし、本当に魅力的な人だと思います。
これまでいろんな役を演じさせていただきましたが、実は役に共感することってあまりなかったんです。むしろ自分と切り離して「役」として捉えることが多かったのですが、今回初めて、演じる役柄に強烈なシンパシーを感じました。
何が似ているというわけではなく、育った環境も性格も全然違うのですが、演じていて無意識に心が震えたり感動したり、涙が出てきてしまうことが本当に多かった。何か本質的なところがそっくりなのかもしれません。心の中が共鳴している感じでした。
人と関わり合うって、こんなに人生が豊かなんだ
――たった一人のお菓子教室を通して、頑なだった白井葵はどう変化していくのでしょうか。
蓮佛 人と深く関わることを避けてきた人生で、それはピュアであるがゆえに傷つきたくないということでもあると思うのですが、佐渡谷さんと出会い、静くん(木戸大聖)と出会い、お菓子教室を訪れる人々に出会う中で、自分が触れてこなかったやさしさや愛情に触れ、「人と関わり合うことで、こんなに人生が豊かになるんだ」ということを知っていきます。
お菓子一筋で誰にも頼ることなく一人で頑張ってきたけれど、赤子のように初めて目の当たりにする愛情にゼロから触れていく。その過程が本当にあたたかく、愛のあるやりとりをする術を教えてもらってどんどん人生が変化していきます。

永作さんとの共演はうれしかった!
――クセの強い佐渡谷さんに押され気味の白井さんですが、徐々に心を許していきます。どんなところが佐渡谷さんの魅力なのでしょうか。
蓮佛 お節介で図々しくて、でも本当に愛情深い。これは永作さんの魅力とも重なるんですが、目に愛がある。無茶苦茶なことを言っているのですが、心の中の鍵を開けるきっかけをつくってくれるのも佐渡谷さんだし、無条件にこちらの心の扉を叩いてくれる人。その愛情が本当に魅力的なんです。
――永作さんと共演されて、いかがでしたか?
蓮佛 いや、もう本当に幸せでした。私、初めて映画を見て号泣したのが、映画『八日目の蝉』の永作さんのお芝居だったんです。大好きで尊敬する役者さんだったので、共演できることが本当にうれしかったです。現場でもサバサバして気持ちのいい方で、ずっと横にくっついていたかったくらい(笑)。演じている佐渡谷さんと同じで、愛をたくさん感じる方でした。
――1週目のお菓子教室の生徒、土居志央梨さんとの共演はいかがでしたか?
蓮佛 撮影日数はそんなに多くなかったのですが、すごく居心地がよくてもっとお話ししたかったです。壁がなくてフラットで、本当にお芝居が好きなんだな、と感じさせてくれる役者さん。「絶対もっと仲良くなれる!! 同じ匂いを感じる!」と勝手に思っていました。

――ドラマのタイトルにもあるように、作中でも「バニラ」が印象的に登場します。実際、どのような香りなのでしょうか。
蓮佛 本当に心がほっとする、安らぐ不思議な香りです。現場はずっとバニラの香りが充満していました。ずっといい匂いに包まれていて、気が張ってしまったり、頑張らなければいけないときに、ちょっと力が抜ける感覚がありましたね。「バニラの香りには、心をリラックスさせ、不安を和らげる効果があるんですって」というセリフがあるのですが、本当にその通りだなと思いました。
――お菓子の制作シーンはすべて蓮佛さんで撮影されたそうですが、普段からつくることはあるのですか?
蓮佛 自炊はするんですが、お菓子は「材料を全部まぜて焼く」系のものしかつくったことがありませんでした(笑)。でも、撮影ではどうしても自分でつくりたくて、本当に練習しましたね。難しさを痛感したし、本番では緊張もしました。「材料あと1個分しかありません!」と言われることもありましたが、ギリギリでなんとか撮影して。大変でしたけど楽しかったです。
今回改めて感じたのですが、甘いお菓子って一口食べるだけで心がほぐれるし、ケーキひとつ買うだけでその日がちょっと特別な日になる。そういう魔法みたいな力がお菓子にはあるんだなと思いました。
――最後に、見どころを教えてください。
蓮佛 人が人を思いやったり、関わり合う中で芽生えていく愛情ややさしさは、生きていく上でこれ以上のものはないと感じるほど、大きな力を持っていると思います。胸がいっぱいになる思いがどんどん増していく作品です。
私自身も台本を読んで、白井さんを演じて、自分自身の人生を肯定してもらえたような気がしました。私は一人じゃないと思える、心の贈り物のようなドラマです。1日の終わりに心がほどけていくような時間を、ぜひ楽しんでください。

れんぶつ・みさこ
1991年、鳥取県生まれ。2006年映画『犬神家の一族』でデビュー。翌年、『転校生 さよならあなた』で初主演を飾るとともに、『バッテリー』ではヒロイン役に抜てきされ、キネマ旬報ベスト・テンと高崎映画祭で新人女優賞を受賞。NHKではドラマ8「七瀬ふたたび」、ドラマ10「聖女」、プレミアムよるドラマ「ランチのアッコちゃん」、特集ドラマ「2030かなたの家族」、連続テレビ小説「べっぴんさん」、ドラマ10「ブランケット・キャッツ」ほか。
夜ドラ 「バニラな毎日」(全32話)
毎週月曜~木曜 総合 午後10:45~11:00ほか
白井葵(蓮佛美沙子)は、パティシエとしての修業を積み、大阪で夢だったこだわりの洋菓子店を開いた。しかし、経営はうまくいかず、店を閉じることに……。
そこへ現れたのは、クセの強い料理研究家、佐渡谷真奈美(永作博美)。閉店した白井の店の厨房で、“たった一人のためのお菓子教室”を開くという。渋々、協力する白井。不思議なお菓子教室にやってくる生徒は、それぞれに心に痛みを抱えた人たちだった。お菓子を作り、味わう時間が、孤独な心を優しく包み込んでいく……。
原作:賀十つばさ『バニラな毎日』『バニラなバカンス』
脚本:倉光泰子
音楽:jizue
主題歌:「涙の正体」SUPER BEAVER
出演:蓮佛美沙子、木戸大聖、土居志央梨、伊藤修子、和合由依、中島ひろ子、谷村美月、筒井真理子、永作博美 ほか
制作統括:熊野律時
プロデューサー:二見大輔
演出:一木正恵、安達もじり、押田友太、影浦安希子
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