森川学は、主人公の米田結(橋本環奈)と一緒に神戸栄養専門学校で勉強する同級生。不動産会社の元営業マンで、入院したのをきっかけに栄養士を目指しています。
1人だけかなり年上の森川に、結は戸惑いつつも、矢吹沙智(山本舞香)、湯上佳純(平祐奈)とともに同じ実習班(J班)になったことで、栄養士を目指す仲間として次第に距離が縮まっていきます。独特なキャラクターの森川ですが、過去の経験を通して結たちに新たな気づきを与えることも。
そんな森川を演じるのは、小手伸也さん。若い世代と同級生役を演じることへの思いや、演じる上で心がけたことなどを聞きました。
年上ということを変に意識しないで、リアリティーを持って演じたい
――結、沙智、佳純はまだギクシャクしているものの、J班の雰囲気も少しずつよくなってきているように感じます。ここまで、森川を演じられてみていかがですか?
最初に出演が発表された時、私が橋本環奈さんの同級生というネットニュースでだいぶザワついたそうですが(笑)、私も最初に聞いた時は「マジか」と思いました。でも、よくよく聞いてみると、橋本環奈さんと同じ年の役ではない、と。
一度社会人を経験して、学び直すために専門学校に入学するという方も実際にたくさんいらっしゃいますし、このニュースを見て、自分もそうだった、同じような同級生がいたというお声も多数いただきました。
正直、橋本環奈さん、山本舞香さん、平祐奈さんという3人の中に小手伸也がいるっていう状況は笑うべきなのかなというキャスティングなんですけど(笑)。その中でもできるだけ、学び直している方のリアリティーや若者たちとの関係性みたいなものをしっかり表現したいと思いました。
――では、あまり年の差を意識して現場に入られたわけではなかったんですね。
僕自身、俳優の仕事をする中で年齢層がバラバラの仲間たちと一緒に一つの作品を作り上げる機会が多いんです。その時の現場の空気とか、皆さんとの休憩中の会話に感じる、ふとしたジェネレーションギャップとか(笑)、そうした演技ではない素の肌感覚で、等身大で演じればいいのかなと。
だから、あまり役を作り込まないで撮影に臨みました。J班はわちゃわちゃしていますけど、森川はその中で一歩引いて、あんまりグイグイ行くキャラクターではないんです。実際の私も正直そこまでのグイグイキャラではないので(笑)、現場でみなさんと一緒にいるだけで、3人に対して一歩引いている森川の立ち位置に自然となっているんですよね。
J班メンバーのユニット感を楽しんでもらえたら
――J班は個性豊かなキャラクターが揃っていますが、現場はどんな雰囲気でしたか?
橋本さんと山本さんと平さんはもともと共演経験があって、すごく仲がいいんです。チームワークが出来上がっている3人が楽しそうにしているのを微笑ましく見守る役でしたので、特に役作りをしなくても、自然体で演じられました。若い女性の中におじさんがいる違和感は勝手に生まれますし、逆に3人が僕のことを面白がってくれるんですよね。
ちょっと「かわいい」とかって言ってくれて(笑)。でも、かわいいおじさんと言われることに味をしめて、あざとくならないように、「調子に乗るな、あれはリップサービスだ」と常に自分を戒めてました(笑)。
――4人のチームワークはいかがでしたか?
物語の時系列に沿って撮影できたわけではなかったので、初対面の関係性から人間関係が濃くなっていく心境の変化を、カメラの前で常に逆算するという難しさはありました。
でも、撮影の最初から、森川にとってJ班は非常に居心地がいい場所であり、3人にとってお父さんみたいな存在であり、仲間でもありという関係性でいられたのは本当に3人のおかげだと思っています。
集まるべくして集まった4人、みたいな不思議な連帯感がずっと心地良くて、特に、座長である橋本環奈さんが現場での4人の距離感を上手に作ってくださったので、自然に撮影を楽しむことができました。
いがみ合っている矢吹さんと湯上さんを、米田さんが「まあまあ」ってなだめているのを、さらに外側から森川が「まあまあ」って言っている距離感は守ってきたつもりなので、そういう4人のユニット感を皆さんにも楽しんでもらえていたらうれしいですね。
演じるうえで意識したことは、自然体でいること
――小手さんというと、これまでアクの強いキャラクターを演じられてきた印象がありますが、森川という役柄については自然体でいることを意識されていたんですね。
昔は、1つの作品の中で必ず爪あとを残さないといけないという“我の強い使命感”みたいなものがあったんですけれども(笑)、朝ドラの醍醐味は、主人公の成長や人生を描くことじゃないですか。だから、森川の役作りは二の次と言ったら変ですが、森川が結ちゃんに対してどう関わり、どう変化を与えるのかという点に重きを置いて演じました。
「森川が物語の中に存在する理由」を見ている方にしっかり感じとっていただけるように、俯瞰した目線で演じていたような気がします。もちろんキャラクターとしての魅力はあるべきですが、カメラが回っている時は「俺が森川だ」みたいな意識はせず、物語の中でどういうスパイスになったらいいのかなって、今まで以上に周りばかりを見ていました。
――ただ、森川が大迫力で患者役を演じた模擬カウンセリングのシーン(第43回)は、小手さんのキャラクターを期待した脚本の根本ノンジさんからのラブレターなのかなと感じました。
確かに「こういうの、お好きでしょ?」っていうメッセージは感じましたね(笑)。一度、根本さんが現場に来てくださったときにご挨拶したんです。そうしたら、食い気味に「よろしくお願いします」とおっしゃられて。
おそらく、おとぼけポジションというか、コメディーリリーフ的な部分をよろしくということなんだろうなと理解しましたので、そこはご期待に添えるように頑張らなきゃと思いましたね。
――では模擬カウンセリングの撮影は楽しまれたのでしょうか。
そうは言っても、アクセルワークが難しかったですね。共演者がドン引きするぐらいやらなきゃいけないけど、やりすぎると視聴者の皆さまが朝からドン引きしてしまうので、力加減はすごく悩みました。でも、いったん森川を忘れてもいいポイントでもあったので(笑)、相手役のカスミン(湯上佳純)を困らせるくらいやろうと思って演じました。
――結、沙智、佳純のリアクションを考えて、芝居を組み立てられていたんですね。
組み立てるというより、4人の会話から生まれる化学反応を想定しながら、森川がその場にいることで、みんながシーンをより楽しめるようにしたいなと思っていました。
これは演じていくうちに気がついたのですが、森川の「栄養士になって人の役に立ちたい」という優しさを俳優として表現するためには、自分のためではなく、共演者や視聴者の皆さんのための芝居に徹する必要があったんですよね。だからこそ、僕がこのシーンを面白くしなきゃという気負いはいったん忘れて(笑)、流れに身を任せようと。
ただ、共演者の皆さんが面白がるためには「このぐらいまでやらなきゃいけないよね」ということで、アクセルをベタ踏みしているシーンもありました。けど、僕がどう演じたいかということより、共演者のいいリアクションを引き出したい一心でしたので、その結果としてうまく作品に貢献できていたらいいなと思っています。
――小手さんは、栄養士学校編の見どころはどんなところだと思いますか?
このドラマの起点として阪神・淡路大震災があるのですが、福岡・糸島編での学生時代やギャル文化との出会いを経て、この神戸の専門学校での経験が結ちゃんの人生、「食」というテーマのもとで生きていく方針が固まる第2の起点になると思うんですよね。
だから、専門学校編に説得力がないと、これから結ちゃんがどのように成長するのか、物語全体のリアリティーにも影響してしまうと感じています。管理栄養士は、あまり馴染みのない分野かもしれませんが、米田結の栄養士としての生き方の起点となる重要なシーンばかりなので、ぜひ神戸編を大事に見ていただきたいです。
こて・しんや
1973年12月25日生まれ。神奈川県出身。「劇団innerchild」を主宰し、作家・演出家・俳優を兼ねる。2016年 の大河ドラマ「真田丸」で注目を集め、'18年のドラマ「コンフィデンスマンJP」「SUITS/スーツ」で一躍話題の人となる。近年の主な出演作に、映画『もしも徳川家康が総理大臣になったら』『劇場版TOKYO MER~走る緊急救命室~』、ドラマ「GTOリバイバル」「となりのナースエイド」、舞台『カラカラ天気と五人の紳士』など。NHKでは大河ドラマ「どうする家康」、「いいね!光源氏くん」などに出演。連続テレビ小説への出演は「なつぞら」に続いて2作目。