主人公・よねゆい(橋本環奈)の祖父である永吉は、プロ野球のホークスファンで、自由奔放な“大ホラ吹き”。農家を継ぐまでは、妻の佳代(宮崎美子)をほったらかして、長距離トラックのドライバーとして全国を飛び回り、今も家業である農業を息子の聖人(北村有起哉)に任せて、あちこち出歩いてばかり。

そんな超・自由人である永吉を演じるのは、芸能生活50年という節目を迎えた松平健さん。これまでの松平さんのイメージを覆すような永吉というキャラクターの魅力や、ケンカばかりしている息子・聖人との関係性について、松平さんに聞きました。


自由奔放で家族を振り回しているおじいちゃんですが、かわいいところもあるんです

――芸能生活50周年にして、今作で松平さんが朝ドラ初出演ということに驚きました。

朝ドラにはずっと出てみたいと思っていたので、それがこうして実現したのはとてもうれしいですね。いつも時代劇に出ることが多いので、朝ドラで描かれるホームドラマにはちょっと憧れがあったんです。ただ、視聴者の皆さんは、時代劇での私に若々しいイメージをお持ちかもしれないのですが、今回は年相応な役柄なので、「本当はこんなもんか」って歳がバレてしまうなって(笑)。

――松平さんから見て、永吉はどんな人物なのでしょうか?

かなり自由奔放なおじいちゃんなので、家族が振り回されていますよね。永吉さんは外に出かけるのが大好きで、何か話題になった場所にはすぐ行っちゃうし、農家なのに自分はなかなか農業をやらないで、息子にやらせているっていう。役柄の紹介にも「大ホラ吹き」とありますが、世間を騒がせた事件の裏にはいつも自分が絡んでいるんだ、みたいな話ばっかりするんです。

その中には、たぶん真実もあるとは思うんですけど(笑)。そういう面白いキャラクターのおじいさんなのですが、結と歩っていう2人の孫への愛情はかなりのもので、かわいいところもあるのかなと思います。

――そういう自由なキャラクターを演じられてみていかがですか?

なかなか、こういう気ままな役はやったことがなかったので、とても楽しいですね。私も、思いついたらすぐに行動に移してしまう方なので、そこは永吉さんと似ているのかもしれないです。

――永吉をいつも笑顔で支えるのが、宮崎美子さん演じる佳代です。宮崎さんとの撮影はいかがですか?

私なんかは、宮崎さんというと、昔出ていらしたCMのかわいらしいイメージがやっぱり強いんですけど、久しぶりにお会いしても、その若々しい印象があんまり変わってないんですよね。わざと「私も70歳!」って言ったりするのがすごくチャーミングで、現場を和やかにしてくれています。

夫婦としてもすごく居心地がいいですね。撮影の合間には、宮崎さんの出身地である熊本の言葉と糸島の言葉が少し似ているんですよ、なんていう話をしたり。宮崎さんはご自宅の庭で野菜を育てているそうなんですが、糸島の農家さんから苗木をもらって、そこから育てた野菜を現場に持ってきてくれたりもするんです。宮崎さんが作ったキャベツが、ドラマの中の料理にも出てきますよ。


糸島で野菜を売るシーンは、人も野菜も見かけより中身が大事だと教えてくれました

――いままで撮影した中で印象に残っているシーンはありますか?

糸島でのロケは全体的に印象に残っていますが、特に印象深いのは、第4話(10/3放送)にあった規格外の野菜を売るシーンでしょうか。あれが、橋本環奈さんとの最初の撮影でした。永吉が結に不格好な野菜を食べさせて、「おいしい」って言わせるシーンで、いつもはあんまり農業をしたがらない永吉も、糸島の農家として野菜を大切にしたいという思いがあるんだなって。

それに、見かけが悪くてもおいしい野菜がある、世の中にはクズなんてものはないっていう、野菜だけじゃなくて、人にも通じる話を結に教えてやるんです。このドラマにはギャルも出てきますけど、人も見かけじゃなくて、中身が大事なんだよってことを伝えるいいシーンだなと思います。

――今作は「食」がテーマということもあり、食事のシーンもすごく多いですよね。

やっぱり家族の話が物語の中心にあるので、家族で食卓を囲む場面が多くて。ずっと、朝から晩まで食事シーンばかりを撮影している日もあったんですけど、出てくる料理が全部すごく美味おいしくて、やっぱり朝ドラはすごいなと思いましたね(笑)。

特に、糸島からわざわざ送っていただいている野菜が本当に美味しくて。あまりにも美味しいので、食事休憩の時にも食堂には行かずに、撮影用の料理でお弁当を作ってもらって、それをいただいています(笑)。

――糸島の郷土料理も出てくるそうですが、お味はいかがでしたか?

糸島の郷土料理はちょっと甘い味付けなんです。そうめんのつけ汁なんかも甘めで、それが美味しかったですね。地元の方に聞くと、本当はもっと甘いそうで、皆さんの口に合うようにちょっと抑えていますとおっしゃっていたんですけど。このドラマでは、糸島の料理もたくさん紹介できるのがいいなと思います。


アドリブが大変ですが、聖人とのケンカのシーンは演じがいがあります

――永吉はまさ(北村有起哉)と折り合いが悪いようですが、何が原因なのでしょうか。

永吉のほうは、原因はないっていうんですけど、どうも息子の方は何かいろいろ根に持っているみたいで(笑)。ドラマが進むにつれて、その理由もわかってくると思います。永吉は考える前に行動してしまうタイプなんですが、聖人は真面目すぎるくらい真面目で、何でも考えすぎるので、お前は面白くないって言ってケンカになったりしていますね。

聖人は周りの人のことを考えすぎるところがあるので、永吉からしたら、もっと家族を大事にしろっていう思いがあるのかもしれないです。さんざん自分が勝手をしておいて、誰が言ってるんだって言われそうですけど(笑)。

――北村有起哉さんとは親子ゲンカのシーンもありますが、演じられてみていかがでしたか?

彼はすごくいろいろ計算していて、芝居がみつなんですよね。特にケンカのシーンを一緒に演じていると、一つのシーンの中でも彼の気持ちが大きく変化しているのがわかる。本番になると、より感情が入るので、そんな彼の芝居に合わせて演じるのは、とてもやりがいがあります。

ただ、突然の動きに対してアドリブで応えたいんですけど、糸島の言葉がなかなか出てこなくて。標準語で言うなら大丈夫なんですが、そこが難しいですね。だから、いつも、あらかじめ方言指導の先生に聞いておいて、こういう風に言おうっていうのを2、3個用意しているんです。

――松平さんが思う「おむすび」の見どころを教えてください。

このドラマは、阪神淡路大震災が物語の背景としてあって、そのために結たちは糸島にやってきました。そこで、昔ながらの田舎での生活が始まって、家族の団らんがあったり、反対に家族の揉め事があったり。ほのぼのしたところもあるし、わちゃわちゃケンカするところもあるし、そんな家族愛の中で子どもたちが成長していく姿を、見ている皆さんにも一緒に見守っていただけたらなと思いますね。

永吉さんは家族をひっかき回す存在なので、皆さんの目にどう映るのかちょっと心配ですが、一生懸命やっていますので、そんな自由奔放なおじいちゃんも楽しんでいただけたらうれしいです。

【プロフィール】
まつだいら・けん
1953年11月28日生まれ。愛知県出身。'78年に「暴れん坊将軍」で徳川吉宗役に抜擢され、時代劇スターとしての地位を不動のものに。ミュージカル『王様と私』など、舞台でも活躍する。2004年と'21年には、「マツケンサンバⅡ」で「NHK紅白歌合戦」に出場を果たす。NHKでは、大河ドラマ「元禄繚乱」「利家とまつ〜加賀百万石物語」「義経」「おんな城主 直虎」「鎌倉殿の13人」など出演多数。