連続テレビ小説「あんぱん」のヒロイン・朝田のぶ(今田美桜/幼少期は永瀬ゆずな)の父である朝田結太郎は、仕事で国内外を忙しく飛び回る一方で、家族を大切にしている人物。のぶに大きな影響を与えることになる結太郎を、加瀬亮はどのように演じているのか。結太郎役に対して感じた“2つの役割”など、ドラマと向き合う気持ちについても話を聞いた。
結太郎を演じる前に考えたことは

――「あんぱん」出演が決まった際の気持ちを教えてください。
やなせたかしさんは昔から好きな人でしたから、やなせさんをモデルにしたドラマに参加できるということは、素直にうれしかったですね。
――初めての連続テレビ小説出演についての思いは?
朝ドラには「とにかく明るく元気」という印象を持っていたのですが、僕が台本を読んだときの結太郎の印象は、わりと「穏やかな人」でした。ですので、プロデューサーや監督たちと打ち合わせをして、そのことをまず確認したのと、あとは台本を通して結太郎には2つの役割があるなと感じとれましたので、「そういう役割ですか?」と、そういうことを最初にうかがってからお引き受けすることにしました。
――その2つの役割とは?
1つは、結太郎は当時にしては先進的な価値観を持っている人。昭和2(1927)年から始まる物語で、自分が普段仕事をしている間は、家の切り盛りは妻の羽多子(江口のりこ)さんに任せていますが、それに対してもちゃんと感謝の気持ちを持っている人だなと思いました。
あと、のぶ(永瀬ゆずな)に対して、周りの人は「大人しくしろ」「女らしくしろ」と言っていますが、結太郎は心のどこかで「膝を擦りむいて帰ってくるぐらいが、ちょうどいい」くらいに思っている父親ではないかと考えました。
もう1つは、台本の中で、のぶに「女子も大志を抱け」と語っているセリフが繰り返されていて、その言葉をのぶの中に“置く”役割があるのかな、と思いました。
自分自身と結太郎が重なるところは

――結太郎の人物像については、どのように解釈されていますか?
スタッフが一生懸命調べてくれましたが、やっぱり戦前なので、ほとんど史料も写真も残っていなくて、 商事会社に勤めているくらいしか分からなかったようです。職人の家に生まれたからなのかわかりませんが、彼が貿易に憧れたのは、もう少し外の自由な世界を夢見ていたんじゃないかなと思うんです。
――確かに結太郎は、父・釜次(吉田鋼太郎)の意志に反して、自分のやりたい道を進んでいますよね。
台本を何度も読んでいくと、そういう人物像に突き当たりますね。その当時の、多数派の価値観ではないところにいる人だなと。ただ、「石屋を継げ」という父が望んだ道は選びませんでしたが、たぶん父親が言ったことに対して突っぱねたわけじゃなくて、「自分はこっちの仕事がやりたいから」というふうに何度も何度もお願いした、と。そういう人柄なんだと感じました。
――そういうふうに粘り強く対応して、自分の道を進んできた、と。
結太郎自身がそうやって生きてきたからなのか、あるいは海外でいろんなものを見てきたからなのか、おそらく彼は子どもたちに「ああしろ、こうしろ」「こんなことしちゃだめ」と言わなかった。そういう言葉は子どもたちを導いているように思えますけれど、そうしているとうまく自我が育たないとも思うんですよね。
セリフにもありますが、「女子も遠慮するな」と言ってあげられる父親なんだと思います。ただ、現代の価値観から見れば、昔の父親なので、家のことは妻に任せっぱなしですし、働いて稼いでくる、たまに帰ってきて子どもを可愛がって、また仕事に行くという。子どもに関しては、いいとこ取りをしている父親ですね(笑)。
のぶに対してちゃんと言葉を届けたい

――朝田家のシーンで、江口のりこさん、吉田鋼太郎さん、浅田美代子さんと共演された感想は?
皆さん、家族を感じさせるあたたかい心の方々で、とてもやりやすいですね。 江口さんとは昔会ったことがありました。劇団東京乾電池の芝居を何度か見に行っていたので。共演するのは初めてでしたけれど「初めまして」というよりは「久しぶり」という感覚でしたね。再会はうれしかったですね。
――子役の皆さん、お子さんたちとのやり取りはいかがでしたか?
基本的には監督にお任せしているんですけれども、永瀬さん(のぶ役)は大人びている感じがあって、子役と接するという感じでは全然なく、普通にいち共演者としてシーンのことを相談したりしています。
――加瀬さんもおっしゃったように、結太郎がのぶに「女子も大志を抱け」と語った言葉は、今後の彼女の心の支えになりそうですが、そのシーンはどんなふうに演じようと考えましたか?
言葉だけを見ると、そして朝ドラということを考えると、普通はわりと強く言うことが多いのかなと思うのですが、自分が台本を読んだ感覚ですと、そういう強い言い方だと、逆にあまり残らないかもしれないなと思いました。自分のことを考えてみても何気ない親の言葉の方が残っていたりしますしね。なので目の前にいる娘たちのことだけを考えて言うようにしています。
――そういった言葉を、日頃から娘たちにかけている父親、なのかもしれませんね。
家に帰ってきて、 セリフでは娘たちに「えい子(いい子)にしちょったか?」と問いかけているんですけれど、 別にいい子にしてなくてもいいと思っている人、というつもりでやっていますね。あんまり大きな声では言えませんけど(笑)。

――ちなみに、結太郎のソフト帽も重要なアイテムになりそうですが、扱い方にも気をつけていますか?
いえ、とくに気をつけてはいないですが、帰ってきたときにのぶの頭に載せたり、出かけるときにものぶに被せたりしているので、それが印象に残るといいなとは思っています。
――結太郎のセリフにも素敵な言葉がたくさんありますし、作品冒頭の「正義は逆転する」という嵩(北村匠海)の語りも印象的だったのですが、加瀬さんの心に残ったセリフは?
確かに「正義は逆転する」というのは “強い”言葉ですよね。やなせさんのように戦争を体験した方たちって、やっぱり「逆転する正義」を経験してきたと思うんです。それこそ昨日まで正しいことだと暗唱させられていた教科書が、戦争が終わったら黒く塗りつぶして、それは間違っていたというようなことがあったり。子どもたちからすれば「今までの教えは一体なんだったんだ!?」というような体験をしていますよね。
そういう中で、 変わらない正義、 変わらないことは何だろう、 ということを考えてアンパンマンが生まれてきたと思うんです。 個々のセリフというよりも、それをきちんと描こうとしていることが印象的で、このドラマで一貫してそのことが描かれていればいいな、と願っています。