ヒロイン・米田ゆい(橋本環奈)の父親・まさは家族思いの優しいお父さんですが、生真面目すぎて妻の愛子(麻生久美子)からあきれられることも。“超”がつくほどの心配性のため、結からは煙たがられています。父親の永吉(松平健)とは折り合いが悪く、何かといえばケンカしてばかりの毎日です。

そんな聖人を演じるのは、北村有起哉さん。俳優を始めた頃からの目標だったという朝ドラヒロインの父親役への思いや撮影の裏話を聞きました。


聖人は優しくて心配性で、ものすごくネチネチしていて……そこはちょっと自分と似ているのかも

――以前から朝ドラヒロインの父親役を演じることが目標だったと伺いました。

役者をやり始めた19歳の頃は、いろんな無謀な目標を掲げていたんです。でも、割と謙虚な部分もあって、朝ドラのヒロインの相手役は無理だろうって。そんなにすぐにチャンスは来るはずがないと。じゃあ、お父さん役かなとか、下積み時代はアルバイトをしながら、そんな妄想をしていました。

それに、うちの父(北村和夫)は「おしん」(1983年放送)でおしんの義父を演じたんです。だから、ヒロインの父親役は、僕にとって“何が何でも”みたいな目標ではありました。父を超えてやるみたいな若気の尖った勢いもありましたから。

でも、そういう浅ましさが薄まってきたところに、今回のお話をいただいたので、やっぱり心をクリーンにしておいた方がいいんだなって(笑)。驚きましたけど、うれしくて。ちょっとホッとしたと同時に、しっかりやらなければってかぶとを締めるような気持ちになりました。

――実際にヒロインの父親役を演じられていかがですか?

やっぱり現場で撮影が始まったら、今までやってきたことをやるしかないというか。ここで浮かれて空回りしないように、しっかり地に足つけて、いつも通り台本を読んで演じなければと思っています。僕はいつも割とクセの強い役柄が多いんですけど、今回は裏のないすごく真面目な男の役で。

――聖人は周囲から“クソ真面目”とも言われていますが、北村さんから見ると、どういう人物ですか?

とにかく優しい人ですよね。優しくて、異常なほどの心配性で、ものすごくネチネチしてます(笑)。そこはちょっと自分と似ているのかもしれない。ただ、ドラマなので、そんな人でもどこかで共感してもらって、憎めないような部分も見せていかないといけませんから、聖人は聖人で一本筋が通ってないといけないのかなと。

僕も脚本を読んで、「さすがに心配しすぎだろう!」って思う時もありますけど、それを成立させるために、いろいろ芝居で試してきて、だいぶ聖人さんの人となりを掴めてきたような気がします。

――心配しすぎて、駅で娘を待ち伏せしたりして……。

親だから許されますけど、他人だったら捕まっちゃいそうですよね(笑)。お父さんは心配しすぎてストーカー的なことをしちゃうんです。でも、そこまで心配してしまうのには原因があって。

そこもこれから描かれていくので、その部分を大切にしさえすれば、視聴者から見たらやりすぎかもしれないけれど、聖人の人となりをわかってもらえるのではないかなと。

――そんな心配症な聖人ですが、結にとってはどんなお父さんなのでしょうか。

優しいけど、面倒くさい。優しいけど、しつこい。優しいけど、うざい。そういう感じなんじゃないですかね。結はとってもいい子に育っているので、ちゃんと親として愛情いっぱいに大切に育ててきたんだと思うんです。

「米田家の呪い」っていうセリフがありますよね。それは「困っている人がいたら何としてでも助ける」ということなのですが、そんなところは、結と聖人はすごく似ている。似ているからこそ、何かとぶつかり合ってケンカしてます。だけど、それだけ思ったことを言い合えるいい家族なんだと思っています。


愛子役の麻生久美子さんは、クスクス笑いながら全部受け止めてくれます

――愛子(麻生久美子)と聖人は、子どもたちへの接し方がすごく対照的ですよね。

そうですね。そういう対照的な2人だから、夫婦としても支え合えるところがあるんじゃないですかね。愛子さんは聖人とは正反対の、本当に懐の深い優しい女性です。あんなすてきな人を、聖人はどうやって口説いたんでしょうね(笑)。

――愛子と聖人との掛け合いも息がぴったりで、麻生さんとの信頼関係を感じます。

久美子ちゃんとは『カンゾー先生』という僕のデビュー映画で共演したんですが、数年前、また別の作品で少しだけ一緒になって。今回、パートナーが久美子ちゃんだと聞いて、本当によかったと思ったんですよね。朝ドラは撮影期間が長いですから、これは絶対に楽しい現場になるわってホッとしました。

――撮影現場はどんな雰囲気ですか?

僕がなんかたくらんだ芝居をちょこちょこ入れても、久美子ちゃんは全部クスクス笑いながら受けてくれるんです。いつか、「いい加減にしなさい!」って怒られるかもしれないですけど(笑)。僕は彼女の笑い声が大好きなんですよ。

グフフフフっていう、あの笑い声を聞くためにふざけているのかもしれない。家族のシーンも休憩中はすごくにぎやかで、いろんな雑談をしています。愛子さんと結、おじいちゃん(永吉/松平健)、おばあちゃん(佳代/宮崎美子)が揃う食卓のシーンは、みんな幸せに満ちあふれていますね。

――登場する食事もとても美味おいしそうですよね。

そうなんです。どれも本当に美味しくて。カメラが回っていないところで、誰かが用意されている食事を食べ始めて。(松平)健さんかな? 健さんがゆっくり着々と取り皿に盛って、堂々と食べてて。そしたら、カメラが回ってなくても、みんなもモグモグモグモグするようになりました。

でも、そのおかげで、家族でご飯を食べるって、こんなに幸せなひとときなんだな、こんな時代があったんだよなって思い出しました。ドラマの中でも、一緒にご飯を食べるシーンがすごくすてきで、見どころの一つなんじゃないかと思います。


登場人物は優しい人ばかりだけど、優しいから心が動かされて成長していくんです

――ドラマは福岡県の糸島が舞台ですが、糸島での撮影はいかがでしたか?

とにかく野菜が美味しくてびっくりしましたね。採れたてのトマト、ブロッコリー、ご飯も美味しかったなー。まさに大地の恵だなって。気候もよくて、移住される方が多いというのも納得でした。

長女の歩(仲里依紗)と永吉さんが走るのを僕が見ているっていうシーンがあったんですけど、その田園風景がめちゃめちゃよかったんですよね。ちょっとくねっている道をダーッと走り降りていって。ああ、遠いところまで来た甲斐かいがあったなって、我を忘れるくらいいいシーンが撮れました。

――そのシーンの放送が楽しみです。聖人は元理容師という設定で、ヘアカットするシーンもありましたが、撮影は苦労されましたか?

理容師の免許を持っている設定ですから、これはちょっとやばいぞと思って。理容指導の先生に事前に教えていただいて、ハサミさばきを結構練習しましたね。それらしく捌けるくらいにはなれたかなと。でも、それより苦労したのが、方言。今回は糸島の言葉と神戸の言葉と、方言が2つ出てくるんですよ。

撮影では、今週は糸島の言葉で、来週は神戸の言葉、みたいな時もあって、ちょっと混乱しちゃうこともありましたね。でも、糸島と神戸という2つの場所が出てくる理由もだんだんと明らかになるので、視聴者の皆さんには、この家族にはこんな過去があったんだとわかっていただけると思います。


大きなうねりとともに物語が展開していきます

――ドラマでは「平成」を描くということで、ギャルたちも登場します。聖人も結がギャルになることに反対していますが、北村さんご自身はギャルにはどんなイメージがありましたか?

割と聖人に近いですね。僕自身もあんまりよい目では見ていなかったかも。彼女たちのエネルギーは認めつつも、ちょっと調子に乗ってんじゃないか、みたいな(笑)。聖人は、歩がギャルになって出ていったから、結もギャルになるっていうことにすごく反発があって。

実は登場するギャルたちにもつらいことがあったり、共感できる部分があったりするんですけど、聖人はそれを知らないので、そんなに簡単に理解する必要もないんじゃないかなと。僕がブレないスタンスでいた方が、ギャルという存在も引き立つのかなと思っています。

――北村さんは「おむすび」という物語の魅力をどういうところに感じていらっしゃいますか?

登場人物が優しい人、温かい人ばっかりで、嫌な人があんまり出てこないんですよ。でも、ヒロインの結なんてまさにそうなんですけど、優しいが故にいろんなことに巻き込まれたり、友人関係で翻弄ほんろうされたりして、心が動かされて成長していくんですよね。日常によくある出来事が描かれているんですけど、それぞれの心の動きが感じられるドラマになっているんじゃないかな。

あと、展開が読めないんです。このドラマは。大きなうねりとともに、急にどシリアスなシーンになったり、急にギャルの明るいシーンになったり。先が読めない展開になっておりますので、ぜひ楽しみにしていただけたらなと思っております。

【プロフィール】
きたむら・ゆきや
1974年4月29日生まれ。東京都出身。'98年、舞台『春のめざめ』と映画『カンゾー先生』でデビュー。以降、舞台、映画、ドラマなど幅広く活躍する。NHKの主な出演作に、「ちかえもん」、大河ドラマ「義経」「江~姫たちの戦国~」「八重の桜」「西郷せごどん」などがある。連続テレビ小説では、「わろてんか」(2017年度放送)で落語家の月の井団真役を、「エール」で劇作家の池田二郎役を演じた。