NHK財団ではさまざまな展示会を企画・制作しています。
今回は、8月30日(金)から東京・日本橋で行われる日本しゅう作家・草乃しずかさんの作品展をご紹介します。


絹糸で繊細に描かれる、日本刺繍

日本刺繍作家の第一人者、草乃しずかさんの展覧会が都内で行われるのは約7年ぶり。

中には『源氏物語』に登場する姫君のイメージで刺繡した作品が19点あります。特に今回、ポスターにも使われている「紫の上」「おんなさんのみや」「夕顔」「ろくじょうのやすどころ」の着物は必見です。

『源氏物語』より「夕顔」の訪問着。「源氏物語の作品は、生地、染色、図案、刺し方を工夫し、私なりにそれぞれの姫君の心模様を表現しました」(草乃さん)

「桜日記」10年ごとの歩みに思いをはせて

草乃しずかさんは「桜日記」と題して10年ごとに作り続けている作品があります。今回はその9作目、「八十歳 年を重ねてこそ熱く」はこの展覧会に合わせて制作していただきました。

「八十歳 年を重ねてこそ熱く」 

0歳から始まり10歳、20歳、30歳......。今回の新作を含めた9つの作品にはそれぞれ、年齢に対する刺繍作家・草乃しずかさんの熱い想いが込められています。作品解説には、その時々に感じていたことが書かれています。

70歳の説明には「最後まで自分らしく生きるために、思いやりと希望、そして勇気を持つことが大切と思う」などと書かれています。「この年齢の時はそう感じていたのですね」とうなずけるものばかり。作品はもちろん、解説にある草乃さんの言葉もじっくりご覧ください。

その他にも「小さき命」と題した40点の作品も展示されます。

「糸でつづる気持ちは、日常の暮らしから自然への思いにまで至ります。四季の花はもちろんのこと、生命あるものすべてがいとしくなります。私には幼い頃に猫がいて、妹の役をしてくれました。そして、いつも私を心配げに見ていました。そのやさしい動物たちがいつまでも元気で生きていられるよう、私たちが地球をダメにしませんように……」(草乃さん)

現在の我々を取り巻く環境や世界情勢のことまで考えながら作品作りを続けてきた、刺繍作家としての姿勢も感じさせてくれます。


作品に込められた「平和への願い」

エンディングを飾るのはタペストリー「平和への願い」です。

会場に展示する前にアトリエで「平和への願い」最終チェック。

「情報化時代の今、いろいろなことが性急に伝わり、いそがしく追いかけられている気がします。そういう時、ひと針ひと針刺繍することで、私は不思議に心が安らいでくるのです。喜びや悲しみが糸の流れとなり、いつしか祈りとも思えることがあります。生きることの素晴すばらしさを針と糸を通して伝えることが出来たらという想いでおります」(草乃さん)

最後に「刺繍針」と「8種類の刺繍の技法」を紹介するコーナーもあります。どうぞじっくりご覧ください。


ポスター撮影・企画会議……日本刺繍と草乃しずかさんの魅力が詰まっています

今回の展覧会のためのポスターなどを制作するために、作品を撮影する機会に恵まれました。

絹糸は照明によって見え方が変わります。その繊細さに、カメラマンはじめスタッフ一同、大変苦労はしたのですが、改めて日本刺繍の奥深さを体感することになりました。

「ウエディングベール」撮影風景。
「花紋尽くし」撮影風景。

NHK財団は、これまでも草乃さんの展覧会を定期的に開催し、全国巡回でもずっと伴走させていただきました(広島県三次市や群馬県高崎市、青森県七戸町、長野県長野市にある美術館でも開催)。

日本刺繍の素晴らしさを伝えてきた草乃さんご自身が「集大成」とおっしゃる今回の展示会では、私たちスタッフもことあるごとにアトリエにお邪魔して打ち合わせを重ねてきました。

展示映像「日本刺繍の実演」を撮影。

草乃さんご自身からも、次々とアイデアが生まれてきます。前の打ち合わせで決まったことが変更となることもしばしば。関係者全員で、より良い展覧会にするために活発な意見交換を行って作り上げてきました。

【草乃しずかさんのコメント】
この瞬間に「生」を受けていることの感動を針と糸に託して、私なりに表現しました。
時の流れに時代は大きく変容してきましたが、桜の花びらに深い情感を寄せるのは、変わらないように思います。
私たちが歩んできた歴史をふり返り、やさしさや、哀しさ、美しさをもう一度しっかり抱いて、次の世代へと伝えたいと……帯や着物をキャンバスにして、その時代の心を包み込むようにひと針ひと針刺繍しました。
いろいろな想いで作品をお楽しみいただければと願うばかりです。
日本刺繍作家・草乃しずかさん。

日本刺繍作家 草乃しずか(略歴)
1944年 石川県くい市生まれ。
1967年 フランス刺繍「森山多喜子教室」に参加
1969年 丹羽正明氏に師事し日本刺繍をはじめる
1978年 NHK文化センター講師
1987年 NHK「婦人百科」に出演
1996年 銀座ミキモトホールで個展開催

以降、日本各地のほか、イギリスやアメリカ、台湾・香港などでも展覧会や講習会を実施。NHK手芸展、NHK国際キルトフェスティバル等にも多数出展し、一貫して日本刺繍の普及活動にまいしんしている。


「草乃しずか日本刺繍展 源氏物語を花で装う」

8月30日(金)~9月16日(月)
会場:日本橋髙島屋S.C. 本館8階ホール
開場時間:午前10:30~午後7:30
9月16日(月)の最終日は午後6:00まで(いずれも入場は閉場30分前まで)。
入場料金:一般 1,200円、大学・高校生 1,000円、中学生以下無料
主催:NHK財団
企画協力:アトリエ草乃しずか

「草乃しずか日本刺繍展 源氏物語を花で装う」公式サイトはこちら (※ステラnetを離れます)

(取材/文 展開・広報事業部 橋本弥生)

展覧会の開催についてのお問い合わせはNHK財団 展開・広報事業部へどうぞ。