地球温暖化が進み、集中豪雨などの極端な自然現象が増えています。そのため、テレビやラジオが防災・減災面で果たす役割の重要性が高まっています。

NHK財団では、安定した放送受信環境の維持のため、年間を通して全国各地でテレビ・ラジオの受信状況の調査を行っています。山あり谷あり、離島あり、夜間あり……体力勝負のなかなか過酷な調査です。現地調査に同行して、その様子を取材しました。

今回調査を担当した黒澤さん(左)とNHK財団の沼澤副部長。

同行したのは、茨城県内で実施されたテレビの現地調査です。電波強度などの測定や視聴形態の調査を行いました。担当したのは、技術事業本部・R&T技術部の沼澤俊義副部長と、測定を行う委託調査会社の黒澤等さんです。


受信状況調査とは?

受信状況調査は、より良い放送受信環境の維持に役立てるために行っているもので、

① 地域的な電波環境(電波強度の変化や、混信の状況、ラジオの聞こえ方など)の把握
② 送信設備を更新した時(経年劣化などで新しく設備を入れ替えた時)の電波状況の確認
③ 地域の視聴形態(どこからの電波を受信しているか)の確認

を主な目的にしています。

具体的には、調査地点の電波の品質(電波の強さやデジタル信号の解析など)に加えて、テレビでは画質を、また、ラジオでは音質を調査しています。


電波測定車による自動測定

こちらが電波の品質を測る電波測定車です。

測定地点に到着すると、黒澤さんが手早くテレビの受信用アンテナ(UHFアンテナ)を用意し、車両の上にあるポールに取り付けて測定用ケーブルをつなぎます。
そのポールを車の上、高さ10mまで伸ばしました。アンテナから車内にケーブルを引き込んで、自動測定用の装置に接続、測定開始です。

アンテナを高さ10mまで伸ばします。

沼澤さん「以前は測定条件をそのたびごとに変更しながらデータを記録していたのですが、PCを使って測定器を自動制御して、データも自動で記録するように工夫しました。これで測定時間が短縮され、1日で多くの地点で測定が可能になりました。作業の効率化と同時に、精度の高いデータがとれるようになっています

車載のPCで測定する黒澤さんと沼澤さん(右)。

視聴形態の調査は体力勝負

電波測定の後、沼澤さんはタブレット端末を手に、徒歩で、測定地点付近の視聴形態の調査に向かいました。

「さあ、このあたりを歩きますよ!」(沼澤さん)

この調査では、それぞれの家庭や事業所が、どのテレビ中継局からの電波を受信しているか、などを調べます。沼澤さんは、周辺の様子をくまなく歩きながら、受信アンテナの方向を確認します。

「そこにアンテナがあるならどこへでも!」(沼澤さん)
「うん? このあたりは、どこからの電波を受けているのかな?」(沼澤さん)

沼澤さん「この地域は、複数のテレビ中継局からの電波が受信できるので、家屋によって受信アンテナの向きが異なります。また、共同アンテナ(受信がしにくい地域の家々のために、共同で受信できるアンテナを立てて、各戸に配信する方法)やケーブルテレビを利用している家もあります。

それぞれの地域で、どういう形でテレビを受信しているか、その形態を調査して、基礎データとして取りまとめるのが私たちの仕事です」

この地点では約50件の視聴形態を調査しました。曇天で、日差しこそありませんでしたが、気温は25度を超えていて、空気はムシムシしていました。

毎日数キロのランニングを欠かさないという沼澤さん。同行した私は20分ほどで、大きく引き離されてしまいました。


夜間も含め年間のべ約1500日 山間部や離島も調査します

私が同行したのは昼間でしたが、実は夜間の調査もあります。放送設備の点検として、放送終了後に行われる電波状況の確認や、外国電波の混信状況を確認するための調査は夜間作業です。

沼澤さん「こうした調査を全国に8箇所ある事業所と連携して、年間のべ約1500日の受信状況調査を実施します。対象地域は都市部だけではありません。山間部や離島も含まれています。できるだけ多くの調査ができるように、調査スケジュールを工夫したり、調査システムの機能を改善したりして取り組んでいます」

NHK財団では、こうした電波測定・調査を通して、放送を安定してお届けする仕事を支える事業も行っています。

(文:NHK財団 社会貢献事業本部 石井啓二)