“カフェでの手話”は、とても実践的で、ふたりがふだん大学で教える学生たちにも人気の内容だそう。いわゆる“講師と生徒”ではなく、“カフェの店員とお客さん”というゆるやかな関係の中で、リアルな手話を見聞きし、身につけていくという構成。
そこには、少しでも手話を身近なものに感じてほしいという、番組制作陣の願いもこめられているのだ。
◆手話監修の仕事って?
下谷 手話監修の仕事はいろいろありますが、私は聴者の視点で、台本にある日本語と手話表現の整合性をチェックしたり、日本手話ならではの細かいニュアンスを、日本語でどのように説明すればよいかを判断したりしています。
前川 私はろう者の立場から、出演者の手話に不自然さがないか確認したり、出演者が手話表現に迷ったときに適切な手話を提案したりしています。聴者と同じように、カメラを向けられると、ろう者も緊張して、いつもと違う不自然な手話をしてしまうことがある。そんな出演者を客観的に確認しているんです。
「みんなの手話」は語学番組なので、手話という言語を全く知らない人でも安心して学習できるよう心がけています。
下谷 そう! 手話は“言語”なんです。実は私は手話に初めて触れたころ、ろう者に対して「聴覚に障がいのある人」というイメージしかありませんでした。
でも、実際にろう者の方々と交流して、それは違うと気づきました。
前川 言語として、手話は日本語と同等のものなのだということを知ってほしいですね。そして、番組を通してみなさんに、手話が自然とわかるようになる“魔法”をかけたいです(笑)。
◆“一緒に楽しめる”ことの喜び
下谷 たとえば、一緒にテレビを見ていても、ろう者にとって日本語はあくまで第2言語。字幕放送だけでは、情報を受け取るタイミングが聴者とずれてしまうんです。
でも、手話通訳があれば、その問題はかなり解決します。最近では、手話通訳が画面に出ることが増えたので、前川さんとも、ふたり同時に笑ったり、「へ〜」と言えたりすることが増えてうれしいです。
前川 ろう者の私から見ても、 今の社会は昔に比べてだいぶ生活しやすくなりました。これからもどんどん改善されるよう、 私たちにできることを頑張りた いなと思います。
下谷 ひとりでも多くの方が手話に対して当事者目線になってくださればうれしいですね。