「100カメ」男子校“筑駒”文化祭 青春を燃やせ!スーパー高校生たちの本気
再放送5月6日(土) 総合 午後6:05 NHKオンデマンドで4月22日まで視聴可能(https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2023127213SA000/)

「100カメ」
毎週火曜 総合 午後11時
【番組ホームページ】https://nhk.jp/100cam
【番組Twitter】@nhk_100CAM

【再放送予定】
「男子校“筑駒”文化祭 青春を燃やせ!スーパー高校生たちの本気」
7/8(土) 総合 午後6:05〜6:34


特定の場所に100台の固定カメラを設置して人々の生態を観察する、のぞき見ドキュメント「100カメ」。4月25日の放送は、東大現役進学率日本一を誇る筑波大学附属駒場中・高等学校、通称“筑駒”が舞台。日本銀行の新・旧総裁(植田和男・黒田東彦)の出身校として、メディアを賑わせたことも記憶に新しい。

そんな全国有数の進学校の文化祭に小型カメラ100台が設置された。そこに映し出されたのは、普段見ることができないリアルな筑駒生の姿だった――。
今回、この筑駒に通う息子をもつ母親が該当回をレビュー。文化祭の裏方を務めていた息子への取材とともに、100カメ映像を検証していく。いわば、番組の「サイドB」(裏面)を紹介しよう。

 


筑駒は情熱のぶつかり合いと協調の連続

番組冒頭、「開成vs筑駒」のクイズバトルで、数学の定積分を求める問題に「8分の1」と緑髪の生徒が答えたシーンが印象的だ。多くの人が「???」だったかと思うが、あれは多様なジャンルに渡る発問のひとつにすぎない。彼らにとっては、できて当然。都内の超進学校同士のプライドをかけた熾烈な闘いは、実にシビアなのだ。観客のどよめきが、まさに、それを物語っている。

一方、文化祭の注目企画のひとつ「ライオンキング・ラップバトル」では、18歳らしいあどけなさと鋭さの二面性が感じられる。企画会議からリハーサル、そして本番の舞台裏まで、青春まっただ中のリアルな筑駒生の姿がそこにあった。

「楽しいことをやりたい」という発案者の意見に付き合う仲間たちの優しさ、逆に「やる気のないやつは帰れ」と言える厳しさもカメラは捉えていた。ラップを覚えない生徒が、ひとり部屋の外で練習をする姿には、親心として胸が苦しくなった。

生徒たちが青春かけて文化祭と向きう姿をカメラはしっかり捉えていた

スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の片鱗を見せたのが「ロボットバトル」だ。番組ではレースやバトルの経緯のみで、ロボットの制作に及ぶ思いや工夫が描かれなかったことはやや残念に感じた。情熱に人が集まる、人の人たる姿を描くには、ロボットそのものの説明は不要だったのかも知れない。インタビューを行わない「100カメ」だからこそ、脚色のないひたむきな姿が見ている側に届けられているのだろう。

最後は、「ライオンキング・ラップバトル」に参加したメンバーが互いに讃え合うシーンで幕を閉じる。このコーナーを番組の軸として取り上げたのは、筑駒生が文化祭を通して大きく成長する彼らの姿を『ライオンキング』と重ね合わせたからだろうか。私には、そんな風に見えた。

以前、取材した「100カメ」の制作担当者のインタビューでは、観察と発見が大切な番組要素だと語っていた。(https://steranet.jp/articles/-/1718
発見とは今まで知られていない物事を初めて見いだすことだが、見る人によっては、気づきや過去を振り返るきっかけも発見といえるだろう。

ところで、皆さんには文化祭の思い出はあるだろうか。
司会のオードリー(若林正恭&春日俊彰)は文化祭の思い出がないのだそうだ。放送後の未公開トーク(Twitter)では、高校時代の担任の先生からコントをやるように言われたが、挑戦しなかったことを悔いていた。

「(そんなベタなことをしても)何の思い出にも残んねえぞ」と言われたことを、卒業から四半世紀たった今だからわかると話していた。放送を見ていた大人たちは、あっという間に過ぎ去った時間を懐かしみ、今だから言えるような気持ちを、今回の放送を通して感じたことだろう。


これが筑駒生が文化祭と向き合うリアルな姿

頭脳派の生徒が創り出す文化祭は、例年1万人を超える来場者となる。運営から実施に至るまで生徒主導で実施され、近年ではコロナ対応、入場管理のシステム構築まで担当。生徒の幅広い知見を生かし、伝統ある文化祭の火を焚き続けてきた。

photo by YAMIKOMA

筑駒には、気鋭の学者や政治家、官僚、企業家、芸術家が卒業生として名を連ねる。演出家・野田秀樹さんが在校時に書いた戯曲が話題となり、文化祭では整理券が配られるほど人が集まったことも。この学校の文化祭は生徒自ら伝説をつくり、それに続かんと後輩たちも挑戦と創造を重ね、進化を続けているのだ。

文化祭は生徒たちに自主性と自律性を促すとともに、社会的活動を学ぶ場にもなっている。例えば、人手が不足がちな食品班を他の班がサポートし、食品班の売上からサービスフィーを得て、それぞれの制作費に充てている。


さて、1年前から準備が始まった今回の文化祭は、「100カメ」の撮影が入った初秋には佳境を迎えていた。睡眠を削るほどタイトなスケジュールが続き、学校以外での勉強が全くできない日々。勉強をしている姿を見ない日が続くこと、それは筑駒に通う息子が物心ついてから初めての状況であった。

「勉強しなくていいの?」
初めて息子に発したこの言葉は、私にとっても苦い思い出となった。
「僕のやってることを理解してないんだ」
そう言い切られた。

文化祭が開催された三日間、始発に乗る息子におにぎりとゼリー飲料を持たせて、玄関から見送った。母親がしてあげれることは、あまりにも少ない。「頑張って」の声も届かず、切なかった。

レコードに例えれば、彼の学校での友人達との日々は表面の「サイドA」。家での時間は裏面の「サイドB」。この時の彼には、レコード面をひっくり返してカップリング曲を聴く余裕もないのだと感じた。

「100カメ」の放送を息子は自室で、ひとり噛み締めるように見ていた。番組が終わってからも、特に感想を言うこともないまま、勉強を再開していた。

「100カメ」の放送の間、「共通テストまで〇〇日」というフラグを追いながら、彼が最後の文化祭に向かう日々を想った。私たち親は何も言わず見守ることができるのだろうか。理解していても、全てを手放しに応援することは難しい。

子育ては、期待と諦めを心の中で共存させながら力強く応援することと、静かに見守ることを要求される難業だと、改めて実感した。

今回の「100カメ」の舞台となった筑駒。
同校の説明会で、彼らの”個性を生かす“のあるエピソードが語られたことがある。文化祭時のブレーカー落ちに毎年悩まされていたところ、一人の生徒が学内の配電を調査し、催し物ごとに必要な電力量を計算して、コンセントの割り当て図を作成した。それ以降、文化祭でブレーカーが落ちることはなくなったという。

その生徒が残した功績は大きく、また彼にとっても他では得ることの出来ない成功体験となったことだろう。こういった生徒が、時代の先駆者として世界を牽引してくれることを、ひとりの親としても心より願っている。

NHKオンデマンドで2024年4月22日まで視聴可能。
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2023127213SA000/