「100カメ」
毎週火曜 総合 午後11時
【番組ホームページ】https://nhk.jp/100cam
【番組Twitter】@nhk_100CAM
人々の生態を“のぞき見“するNHKの異色のドキュメンタリー番組「100カメ」。4月からシーズン3がスタートした。(https://nhk.jp/100cam)
テレビ放送開始から70年間、NHKではこれまでに数多くのドキュメンタリー番組を放送。それらを振り返った時、”時代を映す鏡“だと実感する。2018年から開発が重ねられ、去年レギュラー化された「100カメ」。新型コロナが世界を震撼させた間も、コロナの影響を受ける人々のリアルを100台の定点カメラで追い続けるなど、社会のいまを届けてきた。
『家族会議2020冬』(2021年8月放送)、『京大カレー部』(2022年4月放送)、『青森ねぶた祭』(2022年11月放送)など
https://www.nhk-ondemand.jp/program/P201900201800000/
今そこにある社会のリアルを多視点でとらえ、あらたな真実を浮き彫りにしていくのがこの番組の真骨頂といえる。番組チーフ・プロデューサーの渡辺隆文とディレクターの大木莉衣に、「100カメ」の魅力と可能性について聞いた。
観察と発見の連続!「100カメ」が内包する“社会性”とは?
―「100カメ」のドキュメンタリー番組としてのねらいを教えてください。
まず、テーマや取材場所=“場”を決める際には、「なぜこれを100台のカメラで撮って世に届けるか」ということを、いつも意識をしています。「多くの人が純粋にみたい場所か」さらに「いまの社会を感じられるか」などを大切にしています。テレビは“社会の窓”とも言われますが、小型カメラでのぞき見することで、今の時代を映す鏡になればと考えています。取材する制作チームが「観察して発見する」という感動や驚きを共有することで、今の時代や社会のリアルを視聴者に伝えたいと考えています。
番組の制作者は、さまざまな形で画面の向こう側にいる視聴者とコミュニケーションをとろうとします。例えば、「クローズアップ現代+」の場合、取材して明らかになった事実を届けることで「これについてどう思われますか?」という課題提案型の番組です。一方、「100カメ」の場合は、多くのカメラで“のぞき見”することで、社会が抱える課題などを間接的に感じ取っていただきたいと考えています。
反響の大きかった『マンモスこども園』(2022年10月放送)では、「子どもを預けた後にあれだけの壮絶な毎日があるのか」という声とともに、「そこで働く人の待遇を上げてほしい」「子育て世代の実状を分かって今の政策は取られているのだろうか」、などといった意見や感想が多く寄せられました。
番組を見てくださった方が、今の社会の仕組みや課題を感じるということが実際に起きています。直接的に何かを押し付けるのではなく、受け取っていただくという形で、ドキュメンタリー番組としての“社会性”を意識しています。
“場”を届けることで、そこにいる人たちとその背景にあるものを感じていただき、考えていただければと思っています。
1800時間の映像が紡ぐ29分の至極のストーリー!
他の番組と大きく異なるのは、事前に「構成表」を作らないことです。NHKの番組、特に制作系の番組の中では唯一ではないでしょうか。どんなストーリーになるのか、全く分からないまま番組の制作はスタートします。これは、「観察と発見」が大切な番組要素だと考えているからです。ドキュメンタリーとは何か、見つめ直す番組ともいえます。
―撮影の目安は「1800時間」。長く撮ることのメリットは?
ロケでは、ひとつの場所を複数のカメラで撮影しています。対象者との距離をあえて取ることで、カメラで撮影されているというプレッシャーを感じさせず、自然な姿で収録することができます。
意外にも、人はあっという間にカメラの存在を忘れてしまうんです。また、「長く撮っているのでどうせ使われないだろう」「こんなことに人の興味なんてないだろう」と思ってしまう。カメラがそばにあっても、すぐに慣れてしまうので、思わぬ映像が撮れることもありますね。
録画したデータを見始めた時点では、番組がどうなるか全く分かりません。制作する我々もまさに“のぞき見”しているのと同じです。起伏のあるストーリーをイメージしながら取材を重ねていくスタイルとは異なり、撮影した映像を真摯に、つぶさに見て、そこで発見したことからストーリーを紡いでいくかたちで制作していきます。
先の展開が読めないことは、この番組の面白さにつながっていると思います。
―4月の放送ラインナップと見どころを教えてください!
4月は、10代の若者たちが多く登場します。通常のテレビ取材では、若い世代にカメラを向けると、恥ずかしがって素の顔を見ることができず、形式ばったような感じになってしまいがちです。ですが、100台の小型カメラで撮影したことで、本来の生き生きとした姿が映し出されています。
▶▶4月4日放送『気球レース』
「100カメ」の制作チームにとって、「大空」に進出することは、新たな挑戦でした。気球は、空中を風まかせに飛んでいます。そのため、事前には、どこへ行くか想定できません。その気球たちが空中で繰り広げるレースを、100台のカメラで丸ごと撮ることは、無数の想定外を乗り越えることの連続でした。
新しい場所、見たことのない世界を“のぞき見”させてもらえる、複数の気球に乗る人たちの想いが見られる番組になりました。
NHKオンデマンドで2024年4月まで視聴可能です。
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2023127210SA000/?spg=P201900201800000
▶▶4月11日放送『関西ジャニーズJr.』
普段は入れない大規模コンサートの舞台裏。そして、まず見ることのかなわない“アイドルの素顔”をのぞき見しようと、100台のカメラを設置しました。撮影後、回収したカメラに映っていたのは、普段私たちがよく目にするキラキラした姿とはひと味も、ふた味も違う姿です。プロとして成功をめざすひたむきな努力、厳しい練習を共にするメンバーたちの絆が、多くの観客を笑顔にする魅力につながっている。編集室で画面に映る相手に話しかけることはできませんが、現場の映像が何より雄弁に語ってくれていました。大きな夢を追いかける若者たちの群像劇としても楽しんでいただけると思います。
▶▶4月18日放送『筋肉日本一』
MCのオードリー春日さん自身がボディビルをやっていて、ご自身の興味に近い内容なので信じられないくらい喋る喋る(笑)。テロップも入れていないのにその選手の名前や経歴を次々と言ってくださる。「これは神回確定」と、春日さん自身がおっしゃるくらいテンション爆上がりの回となっています。また、選手本人だけではなく、その家族も撮影していますので、一人の“筋肉に魅せられた人”を家族の視点からも感じられる回になっています。
▶▶4月25日放送『男子校“筑駒”文化祭』
いまの時代を生きる男子高校生たちの青春が丸ごと!リアルに撮れています。シャイに見られがちな思春期の男子高校生ですが、のぞいてみると、まっすぐで情熱的、そして仲間同士でよく意見をぶつけ合う真剣な話し合いをしていました。音響機器やロボット、ダンス、ラップ、高校生離れした特技を互いに尊重しつつ、多様性が高度に実現されている様子は、大人がみても勉強になるほど。3日間の文化祭ステージを作り上げる生徒たちがみせる、本気の姿。今の時代の高校生たちが、何を考え、日々をどう過ごしているのか、等身大の姿や思いがギュッと詰まった回になりました。
誰かのさりげない日常を“のぞき見”する番組「100カメ」はその人なりの価値感と選択の瞬間を通して、その時代と社会を伝えている。
新しい場所、ドキュメンタリーの地平を開くことをミッションに、「100カメ」はこれからも挑戦していく、とインタビューは力強い言葉で締めくくられた。
(取材・文/社会貢献事業部 木村与志子)