“朝ドラ”には、食材を無駄なく使う「始末料理」が多く登場します。SDGsが意識される昨今、飽食の時代だからこそ実践したい「始末料理」について、NHK大阪局で長く料理指導をしている広里貴子さんに聞きました。(前編はこちら)
私が初めて料理指導をした「ごちそうさん」(2013年)には、残り物食材で料理を作る“ほうるもんじいさん”こと捨蔵さん(近藤正臣)という、まさに「始末料理」の達人が登場しました。ヒロイン・め以子(杏)の料理の師匠で実は義理の父だったという人物。本名は正蔵さんでしたね。
正蔵さんと後妻の静さん(宮崎美子)との思い出の食べ物として、天神祭の日に見た目が鱧に似た、ハモニカというお菓子が出てきました。
鱧と言えば湯引きが有名ですが、大阪の夏の風物詩としてかつては天神祭の屋台などでも売られていました。他に、甘辛い醤油だれで漬け焼きにしてご飯と混ぜたり、すり身にしてキクラゲと一緒に天ぷら(関西はすり身揚げを天ぷらと言います)にして、かいわれ大根と一緒におすましに。すり身をとった後の皮は焼いて、かまぼこ屋さんで売られています。皮は刻んでキュウリと一緒に酢の物にします。大阪では「鱧皮のザクザク」と呼ばれています。天神祭り(大阪の夏祭り)にはこのような鱧尽くしのごちそうも食べます。
ハモ一尾を余すところなく食べる。大阪の始末料理の真髄ですね。
同じような食べ方はお正月の鯛でも。大阪では「にらみ鯛」といって、お正月三が日は鯛を文字通り「にらむ」だけで食べないんです。三が日を過ぎたら身から食べ始め、小正月(1月15日)には骨だけになっているので、大根と一緒に煮て食べる、というのが大阪流です。
「ごちそうさん」第42回のタイトルは「たいした始末」。
義理の姉(キムラ緑子)のイケズでどこも受け取ってくれない大量の鯛を無駄にしたくないめ以子は、師匠の捨蔵に相談します。捨蔵は、今日食べる分と7日経ってから食べる分、もっと後に食べる分に分けて、とにかく保存するように、と助言。め以子に鯛の料理本を貸します。
その回で登場させたのが、今回ご紹介する「鯛尽くし」です。中でも骨に付いた薄い身が障子のように見える「障子焼き」は、始末料理の代表格。しゃぶって食べるとおいしいですよ。
【広里さん厳選レシピ③】
「ごちそうさん」鯛尽くし
〇鯛の味噌漬け
〈材料〉作りやすい分量
鯛の切り身…4切れ 塩…適量
【味噌床】白荒味噌…500g 酒粕…60g 甘酒…20g 煮切り酒…150ml みりん…30ml
〈作り方〉
① 鯛の切り身は塩をして20分ほどおく。水で洗い、しっかり拭きとる。
② 味噌床の材料を合わせる。
③ ②の床に①をつけ1日~2日漬ける。
④ 味噌床から魚を取り出し、しっかり味噌をふき取る。(水で洗ってもOKです)
⑤ グリルで焼いて出来上がり
※味噌床は冷凍しておけば何度か使用できます。少し水っぽくなれば味噌をたしてください。白荒味噌がなければ白味噌でも構いません。
※魚はなんでも合います。切り身の大きさで漬け込み時間は変わります。
〇障子焼き
〈材料〉作りやすい分量
鯛の中骨…1尾分 しょうゆ…15㏄ 酒 … 15cc みりん …15㏄ 卵黄 …1個分 みりん…15㏄ 黒胡麻…少量 塩…適量
〈作り方〉
① 鯛の中骨はひれの部分を取り除き食べやすい大きさに切り、薄く塩を振って20分ほどおく。塩がまわったら、ため水で中骨を洗い、水分を拭く。
② しょうゆ、酒、みりんは合わせておき、①を5分ほど漬ける。
③ 魚焼きグリルなどで②を焼く。焼き色がついてたれが乾いてきたら卵黄とみりんを合わせたものを薄く塗って両面がきれいに焼き上がるように焼きあげる。仕上げに黒胡麻を少しふりかける。
〇鯛エラ唐揚げ
〈材料〉作りやすい分量
鯛のエラ…2尾分 揚げ油…適量 塩…適量
〈作り方〉
① 鯛のエラは包丁でしごいて余分なぬめりなどを取り除き、白っぽくなるまで水にさらす。水分をしっかり拭き取る。
② 170度の油でカリッとなるまで揚げて薄く塩を振る。
〇鯛せんべい
〈材料〉作りやすい分量
鯛切り身…100g 薄力粉…大さじ1/2 片栗粉…大さじ1/2 揚げ油…適量 粉山椒、七味唐辛子など…適量 塩…適量
〈作り方〉
① 鯛の身はそぎ切りし、片栗粉と薄力粉を合わせたものをまぶしてすりこぎ棒などで叩いて薄くのばす。(ラップに挟んで作業すると片付けも楽です)
② 170度の油でカリッとなるまで揚げる。
③ 塩を振って、お好みで粉山椒や七味唐辛子などをふる。
鯛と言えば、「カムカムエヴリバティ」(2021年)第62回では、るい(深津絵里)から買い物を頼まれた錠一郎(オダギリジョー)が、売り切れた鰯の代わりに鯛を買ってきてしまいます。るいは高価な鯛を無駄なく食べるため、あら炊きを作りました。
【広里さん厳選レシピ④】
「カムカムエヴリディ」鯛のあら炊き
〈材料〉2人前
鯛のアラ…1尾分 ごぼう…1本 生姜…10g 酒…150ml 水…150ml 砂糖…大さじ3 みりん…大さじ4 濃口しょうゆ…大さじ4
〈作り方〉
① ごぼうは、たわしで土を洗い流し、4㎝長さ、割りばし位の太さに切る。生姜は薄切りする。
②鯛のアラは80度くらいの湯をかけてヒレが立ってきたら水につけて急冷する。ウロコ、血の塊など汚れをしっかり取って水気をふき取る。
③ 鍋に①②、酒、水を入れて火にかけ、おとし蓋をして中火にかける。
④ 煮汁が煮立ってきたらアクをとり、砂糖とみりんを加えて煮る。
⑤ 煮汁が1/3量にくらいまで煮詰まってきたら、落し蓋を取って濃口しょうゆを加え、鍋を傾けて煮汁をかけながら煮る(煮汁が焦げないように注意)。
⑥ 照りがついてきたら器に盛り、煮汁をかけて出来上がり。
大阪名物といえば、ミックスジュースを挙げられる方も多いと思います。「まんぷく」(2018年)の喫茶店「白薔薇」、「おちょやん」(2020年)の喫茶店「福富」にも登場しました。
現代では果物の缶詰を使ったりしますが、元々は傷みかけた果物を無駄にしないようにジュースにしたのが始まりです。季節の果物を使うのが基本ですが、桃のような高価な果物を使う時は安価なバナナを入れる、イチゴのような酸味の強い果物を使う時は、牛乳を入れすぎるとドロドロになるので気を付ける、などの工夫をしています。
【広里さん厳選レシピ⑤】
「まんぷく」「おちょやん」ミックスジュース
〈材料〉3~4杯分
季節のフルーツ(熟れてきたもので十分です)
リンゴ…1個 バナナ…1本 みかん…1個 牛乳…150ml 氷…80g
〈作り方〉
① フルーツは皮、芯、種を取り除き一口大に切る。
② ミキサーにフルーツ、氷、牛乳を加えて撹拌する。
③ 滑らかになれば、グラスに注いで出来上がり。
今回、ご紹介したお料理はほんの一例。“朝ドラ”には「始末料理」のほか、郷土料理など、たくさんのお料理が出てきますので、ぜひ、食べ物にも注目して見ていただけるとうれしいです。
“朝ドラ”で料理指導をさせていただくようになり、「食材を無駄にしない」という意識がますます高まりました。
2022年に仲間たちと一緒に「いただきますを考える会」というプロジェクトを立ち上げ、持続可能な水産物利用や「アイゴ」という未利用の魚の養殖にも取り組んでいます。アイゴは海藻を食べる魚なので、廃棄する野菜をエサにすれば食品ロス軽減にもつながります。また、内臓や骨はペレット(固形飼料)にも使用できます。このような取り組みについても知っていただけるとありがたいです。
ごちそうプロデューサー®
大阪府生まれ。調理師専門学校本料理技術講師勤務後、関西を中心に食を盛り上げたいという思いから開業。食にまつわる観光まちづくり事業の協力や、料理教室、テ レ ビ 番 組(料理系番組、歴史系番組他)や企業PR動画、雑誌などのフードコーディネート、ケータリング等、食のあらゆる事をごちそうプロデューサーとして行う。NHK連続テレビ小説では現在放送中の「舞いあがれ!」含む10作品の料理指導を担当。未利用魚(アイゴ)の養殖を通じて未来の食を守る活動をする。
(取材/佐藤多恵子、青柳直子 文/青柳直子)