“朝ドラ”には、食材を無駄なく使う「始末料理」が多く登場します。SDGsが意識されるいま、飽食の時代だからこそ実践したい「始末料理」について、NHK大阪局で長く料理指導をしている広里貴子さんに聞きました。

広里さんは、「ごちそうさん」(2013年)から料理指導を始めて、「マッサン」(2014年)、「あさが来た」(2015年)、「べっぴんさん」(2016年)、「わろてんか」(2017年)、「まんぷく」(2018年)、「スカーレット」(2019年)、「おちょやん」(2020年)、「カムカムエヴリバティ」(2021年)、現在放送中の「舞いあがれ!」(2022年)で10作品目。

広里 大阪は昔から「始末料理」の街ですが、SDGsといわれて真っ先に思いつくのは「スカーレット」に登場した荒木荘の女中・大久保さん(三林京子)です。大久保さんはSDGsのかたまりみたいな人ですから。大久保さんは、出し殻の昆布や野菜の皮まで、食材を一切無駄にしない始末料理の達人です。毎日3食、荒木荘の住人たちにたくさんの料理を作られる方なので、まな板ひとつとっても、置き方や干し場所など、台所の細かいところまで美術スタッフと一緒に、とことんこだわって作りました。

大久保さんは人によってお料理を変える細やかさもある方だと思ったので、医学生の圭介さん(溝端淳平)には頭の回転がよくなるようにネギをたっぷり使い、社長のさださん(羽野晶紀)には品数を多めに、といった工夫もしました。

そして大久保さんに並ぶ達人が、「舞いあがれ!」の祥子ばんば(高畑淳子)です。祥子さんも大久保さんと同じく保存食を多く作っているので、台所にはフタ付きの瓶を多く並べるようにしました。

特に祥子さんのビワのジャム(第7回。10月11日放送)。舞ちゃん(浅田芭路)が瓶にジャムを詰めるとき、こぼしたジャムも無駄にしないように瓶の下にお皿を敷きました。舞ちゃんがお皿にこぼしたジャムは祥子さんがそっと別容器に戻すんです。ちなみにその日の夜、舞ちゃんと祥子さんが食べたハンバーグのソースに舞ちゃんがこぼしたジャムを入れました。すごく細かいところなのですが、スタッフ一同で「こういうの、好きー」と盛り上がりました(笑)。

舞ちゃんがこぼしてしまったジャムをハンバーグソースの隠し味に。

祥子さんならビワの葉も無駄にしないだろうということで、ドラマのストーリーには直接関係ないのですが、葉っぱと種を焼酎に漬けました。ビワの葉の焼酎漬けは飲むだけではなく、ちょっとした怪我の湿布にも使えますから。

台所のカゴの中にはビワの実と葉が分けて入れてあります。(オフショット)
左の瓶に1994年5月14日の日付。この日は祥子ばんばと舞ちゃんがビワ仕事をした日です。

ほかにも子ども達が遊びに来た時は、しそジュースや梅ジュースなど、祥子さんが作ったジュースを出すようにしました。
こういった祥子さんらしい人物造形につながる考察は、演じる高畑さんご自身からもたくさんいただきました。
祥子さんが暮らす長崎県の五島列島は魚介が豊富なところ。もちろん、魚は干物にして保存しています。
朝ご飯にアジの干物をひとり1匹出そうとしたところ、「すごく贅沢よ」とおっしゃって。

ビワ仕事をした翌日の朝ご飯。舞ちゃんのお皿には、小アジの干物(1/2尾)と、前日の夜に残した煮しめと干し野菜と春菊の白和えが盛られています。

魚の干物と言えば、「スカーレット」大久保さん役の三林京子さんから、「干物は本来保存食だから、今のように冷蔵庫に入れたりはしなかった」ということを教わったことを思い出します。昔と今とでは、夏の暑さが違いますもんね。

“朝ドラ”の料理指導をする上で、大切にしていることは時代性と地域性。やはり資料を読んだだけでは分からないこともたくさんあります。「舞いあがれ!」祥子ばんば役の高畑さん、「スカーレット」大久保さん役の三林さん、そして「ごちそうさん」に出てきた、残り物食材で料理を作る“ほうるもんじいさん”こと捨蔵役の近藤正臣さんからは、私が知らない時代の台所事情やお料理のことなどをたくさん教えていただきました。おかげさまでよりその時代のリアルを、料理を通して表現することができたと思っています。

※「ごちそうさん」ほか、過去の“朝ドラ”に登場した始末料理レシピと、お料理にまつわるエピソードは後編でお届けします!


【広里さん厳選レシピ①】
「舞いあがれ!」祥子ばんばのさつまいも(安納芋)ジャム

登場シーン: 祥子ばんばが作ったジャム。「みじょカフェ」で販売しています。

〈材料〉瓶約4本分
さつまいも…2本(430g) 水…300ml 砂糖…60g シナモンパウダー…小さじ1/4 ブランデー…小さじ1/4 粉寒天…小さじ1/4 塩…1つまみ

〈作り方〉
① さつまいもは皮ごと130度のオーブンに約20分入れる(竹串がすっと入る位)
② 皮をむいてつぶし、鍋に入れる。
③ みず、砂糖、塩、粉寒天を加えてよく練る。
④ しっかり沸いてとろみがついたらシナモンパウダー、ブランデーを加えて出来上がり。※ブランデーはお好みで、増やすと大人の風味になります。

【広里さん厳選レシピ②】
「スカーレット」大久保さんのお茶請け

登場シーン:第102回。ちや子さん(水野美紀)の事務所に荒木荘メンバーが集った時に、大久保さんが持参したお茶請け

○塩昆布
〈材料〉作りやすい分量
だし殻昆布…250g 山椒の水煮…10g 水…1リットル 酢…大さじ2 砂糖…60g みりん…大さじ1 濃口醤油…50㏄ たまり醤油…大さじ1

〈作り方〉
① 昆布は2㎝角の角切りに切る。
② ①、水、酢を鍋に入れて火にかける。沸いたらコトコト状態の火加減にし、昆布がやわらかくなったら砂糖、みりんを加える。しばらくしたら濃口醤油と実山椒を加える。
① 煮汁がなくなりかけたらたまり醤油を加えて汁気がなくなるまで煮る。


○かぶのぬか漬け
〈材料〉かぶ…1個 ぬか床 塩…適量

〈作り方〉
① かぶはよく洗っておく。実はそのまま塩をこすりつける。葉はさっと熱湯にくぐらし、冷水に漬ける。冷めたらしっかり絞る。
② ぬか床に1晩~2晩漬ける。
③ しっかりぬか床を洗い流して、適当な大きさに切って出来上がり。


○4名分がまかなえるぬか床の材料
〈材料〉米煎りぬか…1.5kg 水…1.5L 荒塩…150~200g 昆布…10×10cm1枚 唐辛子(鷹の爪)…2本 実山椒…20粒位 捨て漬け野菜…適宜

〈作り方〉
① ぬか作り 生糠の場合はゆっくり煎る。(すこし香ばしさがある方が美味しいですし、発酵しすぎないので扱いやすいです)
② 分量の水を沸かし、塩を加えてしっかり冷ましておく。
③ ①②合わせてしっかり混ぜる。
④ 捨て野菜、鷹の爪、昆布、実山椒を漬ける。(捨て野菜は、大根やかぶ(葉っぱも含む)、キャベツ、人参などなんでも大丈夫です)
⑤ 2~3日で捨て野菜を取替える。(野菜についたぬかは取り除き、野菜の汁もしぼってぬか床に戻す)
⑥ 1週間後くらいから使い始める。

※その他ポイント
毎日できるだけぬか床に野菜を漬け込みましょう。ぬか床も次第に発酵が進み、ぬか漬けの風味もよくなり、美味しくなってきます。とはいえ使わないときは冷蔵庫に入れておけば、多少怠けても大丈夫です。楽しんでぬか漬け作ってみてください。

【ぬかが柔らかくなりすぎた時】ぬかと塩(10:1の割合)をたす。もしくは、床にくぼみをつけて水がたまるのを待つ。水が溜まったらきれいな布巾で吸い取る。
【ぬかが酸っぱくなった時】野菜を取り出して、粉からし(大さじ1程度)入れる。
【ぬかが物足りない(旨みがない)時】・・・唐辛子、実山椒、昆布、鰹節、にぼし、リンゴやミカンの皮などが効果的です。
【ぬかにカビが生えたら時】カビから3cm厚さ位取り除く。野菜も取り出しぬかは別容器に移して容器をきれいにする。ぬか、塩をたして3日ほど休ませてから使い始める。


○金時豆の甘煮
〈材料〉

金時豆…250g 砂糖…200g 塩…一つまみ

〈作り方〉
① 金時豆は軽く水洗いし、豆の3倍くらいのぬるま湯に4時間漬ける
② つけ汁ごと鍋に移し、火にかける。沸いたらお玉1杯程度のさし水をし、再沸騰したらザルにあけて煮汁を捨てる。(渋きり)
③ 再び豆の3倍くらいの水を入れて火にかけ、沸騰したら中火~弱火で豆の芯が無くなるまで煮る。
※この時豆が煮汁の表面から出ないように。紙蓋をすると良いです。アクが出たら取り除きます。できれば鍋は鉄鍋がおすすめです。
④ 芯まで柔らかくなれば砂糖と塩を加えて、約30分煮る。
⑤ 煮あがったら火を止めて味を含ませて出来上がり。


○柚子皮の砂糖漬け
〈材料〉作りやすい分量
柚子皮…2個分(約90g) グラニュー糖…30g(皮の30%) グラニュー糖…適量(まぶし用) 

〈作り方〉
① 柚子皮は水につけて白い部分をふやかし、スプーンなどで取り除く。1cm幅に切る。
② 沸騰した湯に①を入れて茹でこぼす。(2回繰り返す)
③ 水気をきったらグラニュー糖を加えて煮る。(皮に含まれた水で煮る)
④ つやが出て水気が無くなるまでしっかり煮詰めたら火を止め、粗熱をとる。
⑤ クッキングシートを敷いたバットの上に広げて自然乾燥させる。または、100℃のオーブンで20分~30分入れて、乾燥させます。

広里貴子
ごちそうプロデューサー®
大阪府生まれ。調理師専門学校本料理技術講師勤務後、関西を中心に食を盛り上げたいという思いから開業。食にまつわる観光まちづくり事業の協力や、料理教室、テ レ ビ 番 組(料理系番組、歴史系番組他)や企業PR動画、雑誌などのフードコーディネート、ケータリング等、食のあらゆる事をごちそうプロデューサーとして行う。NHK連続テレビ小説では現在放送中の「舞いあがれ!」含む10作品の料理指導を担当。未利用魚(アイゴ)の養殖を通じて未来の食を守る活動をする。

(取材/佐藤多恵子、青柳直子 文/青柳直子)