新・介護百人一首

光差す
春のロビーの
真ん中に
介護士さんの
みどり子抱く母

北海道石田 ちづる 66歳)

東京都 沢田栄子
北海道 ペンネーム 田尾朗泉
北海道 石田ちづる

詞書

母を本当の祖母の様にお世話してくれる若い介護士さんが初めて生まれた赤ちゃんを見せに連れて来てくれたのでした。その後、コロナ禍で面会もままならぬ中、母は昨年の春、百一歳で息を引き取りました。

感想コメントをいただきました

茂木健一郎

まるで映画の一シーンを見ているかのような光景が浮かんでくる歌です。さまざまな人生のステージが交錯して、お互いに響き合っている。そのことによって、命がより輝いてくる。抱かれているみどり子は、もちろん、この時のことを記憶してはいないけれども、人生の「順送り」の中で、みながみなにとっての証人となり、この歌のように記録者にもなります。その中心にあるのは人の心の温かさでしょう。「光差す春のロビー」の中にすべてがあって。

茂木健一郎

1962年、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究。文芸評論、美術評論などにも取り組む。NHKでは、〈プロフェッショナル 仕事の流儀〉キャスターほか、多くの番組に出演。