皆さん、「家庭の防災」、ちゃんと準備できていますか? 
最近は、気候変動による自然災害が各地で相次ぎ、明日はわが身という危機感を抱く方も多いのでは。「でも、何をどう準備したらいいの?」 。そんな疑問が頭に渦巻きつつも、まだ行動に移せていないあなたと一緒に、「家庭の防災」を考えていくコラムです。


わが家の日曜は、“防災”曜日

午前9時00分
わが家の日曜は、まったりと始まる。
起きた順に朝ごはんを食べ、私とオット(夫)はテレビ(NHK「日曜討論」)を見ながら、家事やWebのニュースをチェック。子どもたちはそれぞれの部屋で好き勝手に過ごす。とここまでは、ありがちな日曜な朝の光景。しかし――

午前10時05分
パラパラと居間に家族が集まり、おもむろにNHK「明日をまもるナビ」を見始める。

家事をしながら、スマホを見ながら、勉強しながら、「明日をまもるナビ」、
通称「明日ナビ」を見る。これがわが家の習慣になっているのだ。

5月15日放送のテーマは「クイズで学ぶ 水害対策の基本」。
出水期の梅雨に入る前に知っておきたい水害対策を、クイズ形式で確認するといった内容。

番組「【クイズ】この地図は どんな水害に備えていますか?」
私「はい! 内水氾濫(ないすいはんらん)!」←ドヤ顔で答える私。
オット「内水?」
子ども「…何それ?」

そんな疑問に答えるように、解説映像(正解VTR)が流れ始める。 

番組「大雨で川の水位が高くなると、下水が川に流れなくなり逆流。町に水があふれます」
私「うちの前の緑道も水があふれる可能性があるらしいね」
オット「昔は川が流れてたからね、ここ」

その言葉に、子どもたちの視線は、スマホからテレビへ。

番組「浸水は、堤防の向こうからだけでなく、人間が暮らす内側からもあふれ出る」
子ども「マンホールが浮いてる映像なら見たことある」
番組「東京の道路の下には下水管がはしっていて、道路の下は川みたいなものです」
私「ところで、目の前の緑道の下が川だって知ってたの?」
オット「引っ越す前からね」
私「…(なんで早く言わないかな)」
オット「いつ起こるか分からない水害とこの町の暮らしやすさを天秤てんびんにかけたら、後者が勝つでしょ」
私「確かにそうだけど…」

マイペースなB型のオットとふんわり主義のO型の私。二人の価値観の違いが時折現れるが、“防災”は放っておくわけにはいかない。家族の命がかかってるんだ!意識を番組に戻す。

番組「敵を知り 己を知る」「地域の“ローカルなリスク”を知る」

番組の最後に、ナビゲーターの京都大学防災研究所教授・矢守克也さんがそう教えてくれた。それは家族内での共有が必要だとも、この日改めて感じたのである。私が「己を知る」きっかけとなったのは、3年前のある出来事がきっかけだった。


男性「皆さんは、この町がかつて水没したことを知っていますか?」
輪番制のマンションの役員を務めることになり、初めて会合に参加した日のこと。耳を疑うような言葉が60代の男性の口から飛び出した。

私「えっ、ここは多摩川からずいぶんと離れているのに?」
生まれも育ちのこの町(世田谷)という男性によれば、このマンションの近くにはかつて目黒川の支流である烏山川(二級河川)が流れていて、1970年代以降あんきょ化され、緑道に姿を変えたという。

私「ちょっと待って、そんなの知りませんでした……」
一見、穏やかに見えるこの世田谷の町、実は「内水氾濫危険地域」という衝撃の事実!

氾濫する烏山川(世田谷区太子堂2・3丁目地区まちづくり協議会https://www.setagayatm.or.jp/trust/fund/library/taishidou/kyogikai.htmlより)

いざ、世田谷区から配られた「水害マップ」を開いてみると、
緑道に沿った町のほとんどが浸水の度合いを示す青で塗られていた……。

わが家から東京湾岸まで直線でおよそ20キロ、海抜は約38メートル。
多摩川を基準に考えれば、明らかに高い位置にあるはず。
自転車だと立ちこぎが必要なくらいの勾配だから水害は関係ない――。
そう高をくくっていた私は、一度もこの地図を開いたことがなかったのだ。

世田谷区 洪水・内水氾濫ハザードマップ(https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kurashi/005/003/003/d00005601_d/fil/2.pdf

「大きな川から離れていれば安全だ」という根拠のない思い込みに気づき、
防災への意識を新たにした記念すべき瞬間だった。

聞くところによればこの男性は地域の防災隊長で、いわゆる防災のプロの方。
今すぐできる「家庭の防災」を教えていただき、その日のうちに以下を購入した。

・家族4人が5日使える量として100個の非常用トイレセット
・長期保存用の飲料水のペットボトル4ケース
・非常食セット
・カセットコンロ用のガスボンベ

現在は、納戸の棚一面に非常用ストック。色違いのかごの中には種類別のレトルト食品や缶詰。子どもだけでも食べられる食品を増やしている(ローリングストックして無駄にしないように心がける)。※左の写真は当初購入したもの(トイレ、長期保存食、ガスボンベ)

備えあれど、憂いあり⁉︎

ところが、ある日のこと、
納戸をのぞくと買ったばかりの長期保存水の箱が空いていて驚き!
なんと、オットがその水でコーヒーを入れているではないか!

私「その横に普通の飲料水ペットボトルがあるにも関わらず、どうして?」
オット「味は同じでしょ?」
私「賞味期限の問題よ」

言わなくても察してくれるだろう、分かってくれるはず、は私の間違い。
まずは家族の防災への意識を高めることが、「家庭の防災」の第一歩では……。

かくしてわが家の防災への備えは、毎週日曜の朝に「明日をまもるナビ」を見て、防災への意識をアップデートするところから始まったのである。

「備えあれば憂いなし」。私の「家庭の防災」対策は続いていく。

(取材・文 NHKサービスセンター 木村与志子)