大阪新淀川記念病院のNST(ニュートリション・サポート・チーム)で、主人公の米田結(橋本環奈)とともに働く言語聴覚士・杉沢聡。

言語聴覚士とは、言語、聴覚、発声、発音、認知、えんの機能を回復させるためのリハビリテーションなどを行う専門職のこと。結をNSTに快く迎え入れた杉沢は、小児科医の松崎瑛人(永野宗典)、看護師の桑原美和(妃海風)、薬剤師の篠宮朱里(辻凪子)とともに、まだ経験の浅い結をサポートしながら、言語聴覚士として患者の指導やリハビリにあたっています。

そんな杉沢を演じるのは、犬飼貴丈さん。言語聴覚士という職業や、杉沢を演じる上で心がけていることなどを聞きました。


患者さんの不安を少しでも取り除けるような話し方や表情を意識しています

――犬飼さん演じる杉沢聡は言語聴覚士ですが、これまで言語聴覚士という職業についてはご存じでしたか?

実は初めて知った職業だったんです。このオファーをいただいてから調べたのですが、話すことや聞くこと、食べること(嚥下)にフォーカスを当てた職業だということを知りました。仕事の上で聴診器などを日常的に使用するようだったので、医師として働いている友人に聴診器の取り扱い方を教えてもらったりしました。

言語聴覚士を演じると話したら、言語聴覚士についての資料も集めてくれました。おかげで、ドラマの撮影に入る前にいろいろと知識を得ることができたし、言語聴覚士の所作なども教えてもらえたので、すごく助かりました。

――医療現場の方から直接レッスンを受けることができたんですね。ほかには、杉沢を演じるにあたって準備されたことはありましたか?

これは言語聴覚士に限らないのですが、病院で働いている方は基本的にいつも笑顔で明るくて、すごく優しい方ばかりというイメージがあるので、杉沢を演じる時にも、そういう部分を重視したいなと思いました。たぶん患者さんは不安な気持ちでいる方が多いと思うので、その不安を少しでも取り除いてあげられるような話し方だったり、表情を意識するようにしています。

――実際に撮影が始まってみて、演じるのに難しさを感じるシーンはありますか?

やっぱり、患者さんとたいする時にどの程度の距離感でいればいいのか、そういう塩梅あんばいが難しいなと感じています。それから、病院内でNSTメンバーと相談するシーンとか、廊下で歩きながら話すシーンでも、どのくらいのトーンで話せばいいのかということを迷うことがあります。

普段、患者としてしか病院で働く人と接したことがないので、働く側の人が患者さんに接している以外の時間はどんな雰囲気なのか、意外に知らないんですよね。そういった部分は、実際に医療監修で来てくださっている先生に現場で伺ったり、所作を教えていただいたりすることができるので、助かっています。


型にはまったイメージではなく、新しさを感じられるように演じたい

――杉沢はテキパキと仕事をこなすタイプのように見えますが、犬飼さんは杉沢をどんなキャラクターだと捉えていますか?

杉沢のキャラクターについては、事前に人物像をまとめた資料をいただいたんです。ドラマの本編では描かれませんが、彼が言語聴覚士になった理由など、バックボーンも設定されていて、それは役作りという面ですごく助けられました。

プライベートではロックとコーヒーが好きみたいなところまで細かく書かれていたのですが、僕自身も学生時代にバンドをやっていたので、そういう部分でも共感できましたね。演じる役柄と趣味が同じということは今まであまり経験がなかったので、役柄とのリンクのしやすさを感じています。

――犬飼さんとして、杉沢のここに注目してほしいというポイントはありますか?

言語聴覚士という仕事について皆さんに知ってほしいのはもちろんなのですが、細かいことで言うと、杉沢の手首のゴムにも注目してほしいなと思います(笑)。

――手首のゴムですか……?

杉沢を演じることになって、病院で働く人は短髪のイメージがあったので、僕は髪を短く切ることになるだろうなと思っていたんです。でも、監督が医療現場へ見学に行った時に、髪の長い言語聴覚士さんがいらっしゃったそうで。

今の時代、そういう方も実際にいるから、型にはまったイメージではなく、「この言語聴覚士ってどんな人なんだろう? 」という興味や新しさを感じられるキャラクターにしたいということになったんです。

なので、このままの髪の長さになりました。杉沢はいつも髪を結ぶため、ゴムを左手首に絶対につけているんです。そのゴムがあることで、日頃くくったりもしているんだろうなと、視聴者の方がドラマで描かれない時間を想像しながら見てもらえたらうれしいなと思っています。


配役がピッタリすぎて、休憩中も劇中のNSTそのままの雰囲気なんです

――杉沢が所属するNSTは個性豊かなキャラクター揃いですよね。現場の雰囲気はいかがですか?

もう、あのままっていう感じになってきていますね(笑)。配役がピッタリすぎて、カメラが回っていないところでも、ドラマの中のNSTがそのままいるような雰囲気なんです。皆さんが優しいので、すごく溶け込みやすくてホッとしています。初共演の方が多いんですけど、初めましてという感じではなく、居心地がよくて安心感がある現場なんですよね。

――でも、すでに撮影が進んでいる作品の現場に入ることに戸惑いはなかったですか?

確かに、視聴者として楽しく見ていたドラマだったので、自分が参加することが決まった時はうれしい気持ちと同時にすごくビックリしました。でも、主人公を演じる橋本環奈さんは、誰に対してもフランクに接してくれる方で、本当に結そのものなんです。

だから、途中参加でも違和感なく入れたのかなって思います。橋本さんが、そういう新しい出演者がスッと入ることができる環境作りをしてくれているんですよね。

――「おむすび」の登場人物の中で、犬飼さん自身がお気に入りのキャラクターはいらっしゃいますか?

本当にみんなすごく愛きょうがあって、かわいらしいキャラクターばかりなんですけど、僕個人としては、松崎先生ですね。松崎先生は優しくて人間味があるから、こんなお医者さんに担当してもらいたいなって思います。なにかというと僕らNSTメンバーにイジられているところとか、松崎先生の人柄が好きなんですよね。


入院患者さん一人一人に人生があると改めて気付かされました

――ドラマの中には、62歳の堀内さんやサッカー少年の晴斗くんなど、さまざまな患者さんが登場します。そういう患者さんに向き合っていく中で感じたことはありますか?

やっぱり、登場する一人一人が入院患者ということだけじゃなくて、当たり前なんですけど、どんな性格で、どんなふうに生きてきたのかっていう背景を持っていて、それぞれの人生があるんですよね。

入院という人生のターニングポイントに、僕たち病院で働く人間が関わって、その人の人生を背負うっていうと言い過ぎですけど、少しでもいい方向に行くように頑張っていかなくてはならない。結局、医者と患者ということではなくて、人と人との関わりなんだなっていうのは改めて感じました。

――最後に、病院編の見どころと視聴者の皆さんへメッセージをお願いします。

「おむすび」の物語はだいぶ後半に入ってきていると思いますが、結がこれまで培ってきたことがいろんな人に影響を与えて、最終的に人と人がつながっていくっていう、すごく膨らみのある物語になっていると思います。それと同時に、僕らが演じる病院の愉快な仲間たちの関係性だったり、行動だったりも楽しんで見ていただけたらうれしいです。

【プロフィール】
いぬかい・あつひろ

1994年6月13日生まれ。徳島県出身。2014年にデビュー、2017年、ドラマ「仮面ライダービルド」で初主演を務める。以降、ドラマ、映画、舞台など幅広く活躍。NHKの出演作には、「おしい刑事」「やっぱりおしい刑事」、大河ドラマ「青天を衝け」、夜ドラ「ワタシってサバサバしてるから」など。連続テレビ小説は、「なつぞら」に続いて2作目の出演となる。