2月1日(土)からスタートの土曜ドラマ「リラの花咲くけものみち」。北海道を舞台にした、獣医師を目指す学生たちの学生生活を描いた物語で、原作は藤岡陽子さんの同名小説だ。
引きこもり生活が長かった岸本聡里が、大好きな動物を救うために獣医師になることを決意し、北海道の大学に進学するところから物語は始まる。聡里を演じた山田杏奈さんに、役への思いや北海道ロケなどについて話を聞いた。
聡里が成長する過程が見えるように演じたい
――原作を読んでみて、どんなことを感じられましたか?
山田 すごく素敵な小説だと思いました。聡里を演じるためではなく、この小説に出合えてよかったです。聡里のイメージは、本を読んで湧き上がった部分がありました。
――聡里を演じるにあたって大切にしたことは何ですか?
山田 聡里は学生時代に学校に通えずに家で過ごしているなどのさまざまな背景がある中で、チドリさん(風吹ジュン)という祖母に見守られながら、これから自分の生き方を模索している途中です。すごく真面目で、生き物に対しての愛情があふれていて、大学生活や、さまざまな人との出会いや別れによって聡里が成長していくように見えたらいいなということを心がけていました。
私自身、実家で犬を飼っていましたし、祖母と一緒に過ごした時間を思い返したりして感情移入しながら演じていた部分が多かったですね。
――共感した部分はありますか?
山田 聡里には、自分の足でしっかり自立していきたいという意志が感じられます。私も一人暮らしを始める前はすごくそう思っていました。聡里は人と関わってこなかったところからのスタートで、もっと大きなジャンプが必要だったと思うんですけど、前に進まなきゃいけない、今の状況じゃダメだってわかっているとか、そういうところはすごく気持ちが理解できるなと思いましたね。
――今回、北海道にある大学の獣医学部でロケが行われましたが、いかがでしたか?
山田 学生さんとは、実際の大学生活はどうなのか、といったことをいろいろお話させていただきながら演じたのですが、優しい方が多いなというのが第一印象でした。それに、動物への愛情が深いということもすごく感じました。私も実家で犬を飼っていますが、レベルの違う愛情を感じました。自分たちの手で管理している動物がいて、命を預かっているからか、とてもしっかりされているとも感じました。
学生さんや先生の姿を見て、聡里がこの中にいたらということを想像しました。こんなに愛しい目で動物のことを見ているんだなとか、でも、一方で割り切っているところもあるんだろうなとか、そういうのをすごく見て、勉強させていただきました。
――さまざまな動物と向き合う場面が多かったのですが、動物への気持ちや向き合い方に変化はありましたか?
山田 このドラマ全体を通して描かれていることですが、動物と向き合うことは、きれいごとだけじゃ済まない部分があるんだな、ということを感じました。
ペットとしての接し方というのは知っているつもりでいましたが、食用に育てられている牛のように、人間が生活する上で欠かせない動物たちがどのように育てられているか、愛情を持って育てている人たちの思いはどんな感じなのか、といったところを改めて考えさせられました。
第1回で馬の出産シーンがありますが、馬の映像は、もうすぐ生まれそうな馬がいるという連絡を受けた監督たちが、全体の撮影の約1か月前に北海道に行って撮影したものです。すごくリアリティがありました。私は子牛を見させてもらったことがあるのですが、大学の先生に「口に指を入れたら吸うよ」と言われてやってみたら、ちゅぱちゅぱ吸ってくれて、生きていることを感じさせてもらったのは印象的でした。
北海道はもはや「また帰ってきた」と思える場所に
――明治末期の北海道を舞台にした映画『ゴールデンカムイ』で北海道のロケを経験されていますが、今回の北海道ロケはいかがでしたか?
山田 このドラマのロケは10月で、この時期に行ったのは初めてでした。肌寒く、ちょっと雪が降り始めたぐらいだったんですね。でも、まだ緑がきれいで、ドラマでも出てくるナナカマドの木が実をつけていたりして、とても気持ちがよく、撮影しやすい気候でした。12月には雪景色のシーンの撮影のために2日間行きました。季節の移ろいが感じられ、同じ場所で撮影させてもらえる贅沢さを感じました。
北海道はここ数年、東京以外で一番いる場所になっています。北海道に向かう飛行機に、ある意味緊張感がなくなったというか、新千歳空港の中もだいぶ網羅してきて、北海道はいい場所だなと。私は寒いのが比較的好きで、ご飯もお酒もとっても美味しいし、空気の澄んだ感じだとか、広大な土地を見ると、ある意味、「また帰ってきた」みたいな感じで、リラックスして撮影できる場所という感覚になっています。
――共演したみなさんの印象はいかがでしたか。
山田 綾華役の當真あみさんは今回初めてご一緒したんですけど、まずは本当にかわいい! 作品での関係性としては、聡里よりお姉さんで、物事をハキハキと言うし、あまり人と関わってこなかった聡里のことをどんどん巻き込んで動いていってくれます。
一方で、綾華は、自分は獣医師に向いていないかも、という悩みを抱えています。正反対のような2人の関係性がすごくいいなと思いました。年齢的には當真さんの方が下なんですが、すごくしっかりやってくださって。2人の関係性をしっかり築けたと思っています。
残雪役の萩原利久くんは何度目かの共演で、初めてご一緒したのはお互い10代の頃。安心感がありますし、ちょっと困ったことがあったらなんでも話せます。作品では残雪と聡里の関係性も素敵で、安心感があるからこそ彼との掛け合いが楽しめて、ご一緒できてよかったと感じています。
一馬役の佐藤寛太さんは、私が10代の時にご一緒して以来です。彼がもともと持つ、パッとした明るさがあって、現場でも一番楽しそうにしていました(笑)。
夏菜役の石橋静河さんは、すごく素敵だなと思っていて、ずっとご一緒したいと思っていた方なので、今回共演できてすごくうれしかったです。作品の中では、先輩として時には厳しく突きつけてくるところがあるのですが、学びが多かったです。
「もう行っちゃえ」という気持ちで飛び込んだ、俳優の道
――ドラマタイトルに「けものみち」とあり、聡里が獣医師を目指すのもそうだと思いますが、山田さんにとっての「けものみち」はなんですか?
山田 毎回、新しい作品に入る時は、どんなスタッフさんがいるのか、こういう芝居をしていこうとか、わからない状態で進んでいかなきゃいけないところがあり、作品ごとに「けものみち」があると思います。そして、スタッフとキャスト陣全員で「けものみち」を切り開いていける感覚があるので、そこが楽しさでもあります。
今回で言うと、動物との撮影があり、たとえば犬がいいお芝居をしているときにタイミングを合わせてやるということがありました。大変さはありつつも、だからこそ、いい映像になっているんじゃないかなと思います。
――山田さんご自身、高校3年の時に俳優になる決意をしたわけですが、聡里と重なる部分もあるのでは?
山田 私は大学に進学するかしないか迷って結局行かなかったんですけど、後からでも大学には行けると思って、とりあえず「もう行っちゃえ」という気持ちで、仕事一本できました。
飛び込まなきゃわからないことがありますし、今もまだ模索している途中ではあるんですけど、聡里自身も多分、とりあえず行っちゃえみたいな感じで飛び込んでいて、周りの環境や出会いによって変わっていく姿は、すごくいいなと思いました。
――ドラマを観るみなさんに、メッセージをお願いします。
山田 自然や動物たちが本当に美しい映像で描かれています。動物や人間の命について考えさせられるお話でもあります。温かい気持ちや、前向きになれるドラマになっていると思うので、ぜひ楽しんでください!
やまだ・あんな
2001年、埼玉県出身。2011年、『ちゃおガール2011☆』オーディションでグランプリを受賞。15年にNHK大河ドラマ「花燃ゆ」に出演。その後、初主演映画『ミスミソウ』(18年)NHKドラマ「17才の帝国」(22年)、など映画やドラマに多数出演。映画、ドラマ『ゴールデンカムイ』(24年)では、ヒロインのアシリパ(※リ=小文字が正式表記)を演じる。
春、北海道。見渡す限り原始林が広がり、初夏にはリラの花も咲き誇る白樺の並木道を、18才の聡里(山田杏奈)は歩いていた。今日から大学で寮生活をしながら獣医学を学ぶのだ。
3年前まで引きこもっていた聡里は、今は亡き犬のパールだけが友だちだった。見かねて聡里を引き取った祖母・チドリ(風吹ジュン)との生活で少しずつ立ち直り、大好きな動物たちを救うため獣医師になろうと考えた。
祖母と離れ、見知らぬ土地で一歩を踏み出した聡里にとっては、見るものすべてが新しい。初めて学ぶ獣医学、初めての共同生活、初めてのアルバイト。初めての友情、初めての恋……。
馬・牛などの「産業動物」や、犬・猫などの「伴侶動物」、飼い主や獣医師たちとの出会い、そして喜びも悲しみも分かち合える仲間たちとの出会い。
だが、救いたくとも救える命ばかりではない。命が生まれる瞬間に心震えたかと思えば、無情な死が訪れ心が折れそうになる。時には命の選択を迫られることも……。
逃げ出したくなったり、無力感にさいなまれたり、答えの出ない問いに悩んだり。次々に試練が訪れる「いのち」の現場で、頼りなかった聡里はゆっくり、少しずつ成長し、ひたむきに“生きる意味”を見つけていく。
土曜ドラマ「リラの花咲くけものみち」(全3話)
2月1日(土)スタート
毎週土曜 総合 午後10:00〜10:49ほか
原作:藤岡陽子
脚本:水橋文美江
音楽:平井真美子
出演:山田杏奈、當真あみ、萩原利久/佐藤寛太、山崎静代、甲本雅裕、石橋静河、風吹ジュン ほか
制作統括:黒沢淳(テレパック)、尾崎裕和、勝田夏子(NHK)
プロデューサー:室谷拡、三本千晶(テレパック)
演出:谷口正晃
土曜ドラマ「リラの花咲くけものみち」NHK公式サイトはこちら※ステラnetを離れます
兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体にanan、BRUTUS、エクラ、婦人公論、週刊朝日(休刊)、アサヒカメラ(休刊、「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、mi-mollet、朝日新聞デジタル「好書好日」「じんぶん堂」など。