神戸に戻って開店したヘアサロンヨネダは順調で、商店街の仲間たちとも楽しく過ごす聖人(北村有起哉)と愛子(麻生久美子)。そんな中、娘である主人公の米田結(橋本環奈)が、怪我で野球を諦めた四ツ木翔也(佐野勇斗)と結婚すると宣言。心配する聖人は一旦思いとどまらせますが、2人の覚悟を知って結婚を認めます。
そんな聖人を演じるのは、北村有起哉さん。結と歩に対する父親としての思いや、聖人を演じる上で感じた変化などについて聞きました。
結の結婚を喜んでいるものの、現実を受け入れられない感覚は大事にして演じたい
――結がとうとう結婚することになりました。でも、娘のことを好きすぎる聖人のことが心配です……。
聖人もさすがにそこまで子どもじゃないと思いますよ。さんざん今までいろんな抵抗をしてきましたけど、翔也に対してのしこりもなくなってきた感じですよね。結婚までスルスルと行ったら面白くないので、誰かが波風を立たせないといけないですから(笑)。今は聖人も結婚を祝福して、心から喜んでいるんじゃないでしょうか。
ただ、それと同時にちょっと現実を受け入れられないっていう感覚は、聖人を演じる上で大事にした方がいいのかなと思っています。きっと、どこのご家庭もそうですが、お父さんは拒否しているわけじゃなくて、面食らっちゃうっていうことなんですよね。
――北村さんご自身は息子さんがいらっしゃいますが、娘を持つ父親の心情を捉えるのに参考にしたことはありますか?
うちの妻は1人娘として育ったんですけど、今は男の子を育てています。だから、当然ですけど、男の子の生態がわからなくて悪戦苦闘しているんです。その様子は、見ていてすごくヒントになりましたね。
息子2人は生物として僕と似ているんですよ、人の話を聞いてないところとか(笑)。そういうところを妻は理解できないみたいです。きっと、どうやって付き合ったらいいのか、どういう距離感でいればいいのか、本当にわからないっていうことなんだろうなと。
――神戸に来てから、歩との関係性もすごくよくなったと感じます。聖人は歩のことをどんなふうに理解しているのでしょうか。
聖人としては、実はまだ歩と2人きりになると緊張してしまうんです。まあ、結もそうなのですが、いかんせん不器用な父親なもので。日本中にたくさんいる、「娘との距離感を掴みきれないお父さん」とおんなじです。もしかすると、聖人本人は掴んでいるつもりかもしれないですけど(笑)。
でも、歩については1人でも大丈夫だろうって思っています。ギャルになることも、彼女ならではの感性で選択してきたことだから、今は全面的に認めて応援しているんだと思います。ただ、パッと2人きりになると、何を話したらいいのかわからないっていうのが、なんかリアルでいいのかなって。
神戸に恩返しする覚悟があるから、自然と明るく元気になっているのかな
――神戸に戻って、また理容師として働きはじめたことで、聖人の心境も少し変化したように感じられます。北村さんは演じる上で意識されていたことはありますか?
それはもちろん、神戸に戻ってきたという覚悟ですよね。今までずっとウジウジしていた部分をここで恩返しするというか、取り返すという意気込みがあるから、やっぱり心機一転、元気で明るく、自然とワクワクしている感じが出るんじゃないでしょうか。
――物語が進むにつれて、聖人への印象が変わった部分はありますか?
まず、一つの作品で1人の役柄とこんなに長く向き合っていること自体が初めてです。いつもは長くても2、3か月だったりするけど、すでに半年以上関わっていますから。だから、演じていて「聖人ってこういうやつだったんだ」ってハッと気がつく瞬間があるんです。
一つは、阪神・淡路大震災で被災して避難所にいる時に、永吉(松平健)が迎えに来たシーン。「糸島に来い」って言われた聖人に、若林(新納慎也)が「帰れる場所がある人は、そっちに行ってもらったら助かります」って言うんですけど、その時、とても言葉では表現できないような感情に包まれたんですよね。
今思えば、そりゃそうやなって思うんですけど、悲しいやら苦しいやら、心の中をいろんな感情が駆け巡って、「なんだこれ?」って芝居をしながら慌てちゃいました。本当に聖人って責任感が強いというか、頼まれたら断れない人間なんだなって強く感じて。
面白いシーンもシリアスなシーンも長く米田聖人を演じてきた積み重ねがあったから、自然とそういう気持ちになったんだと思います。そういう感覚をガイドにして、また新しいシーンを撮っていくんですよね。
――いよいよ物語も後編へと突入したわけですが、ここまで根本ノンジさんの脚本を演じられてみて、どんな印象をお持ちですか?
予期できない展開が面白いですね。時代が飛んだり、回想シーンがあったり。最初は「高校時代も僕がやるの!?」って驚きましたけど、今では、なんなら小学生までやってやろうかなって思っています(笑)。あと、ツッコミどころがあるのもいいんですよね。
だって、福ちゃん(岡嶋秀昭)、要蔵さん(内場勝則)、美佐江さん(キムラ緑子)が昼間から仕事もしないで、僕のお店に入り浸っているっておかしいじゃないですか。
でも、そういう油を売っている3人の様子とか、昔からある商店街ののどかな雰囲気もいいんですよね。彼ら3人がおしゃべりするのを聞いているだけで、僕の神戸ことばもだいぶ上達したと思います。渡辺孝雄役の緒形(直人)さんは「僕はいつも1人だからな」って羨ましがっていました。
――ここからクライマックスに向けて物語は進んでいきます。北村さんとしては、どういう部分に注目してほしいですか?
米田家にとっては、愛子の存在が本当にとても大きいんです。そんな愛子を、また(麻生)久美子ちゃんが当て書きかと思うくらい見事に演じている。いつもオロオロしている聖人に対して、愛子がいつもどーんと構えていてくれるから、僕は勝手に、愛子と聖人は本当にすごい夫婦だなって思っています。
だから、僕じゃなくて、愛子の表情を見てほしいですね。だいたい家族のことを考えているから、愛子さんって受けの芝居が多いんですけど、僕はそういう時の愛子さんの表情がすごく好きなんです。聖人といる時の愛子の表情、さらには米田家のメンバーといる時の愛子の表情に注目してほしいですね。
きたむら・ゆきや
1974年4月29日生まれ。東京都出身。'98年、舞台『春のめざめ』と映画『カンゾー先生』でデビュー。以降、舞台、映画、ドラマなど幅広く活躍する。NHKの主な出演作に、「ちかえもん」、大河ドラマ「義経」「江~姫たちの戦国~」「八重の桜」「西郷どん」などがある。連続テレビ小説では、「わろてんか」(2017年度放送)で落語家の月の井団真役を、「エール」で劇作家の池田二郎役を演じた。