糸島から神戸に移り、米田愛子は夫・まさ(北村有起哉)の理髪店を手伝いながら、娘である主人公のゆい(橋本環奈)とあゆみ(仲里依紗)のことをあたたかく見守っています。ある時、結が四ツ木翔也(佐野勇斗)との結婚宣言をしますが、それに反対する翔也の母・幸子(酒井若菜)が米田家に乗り込んできて大騒ぎに。

そんな愛子を演じるのは、麻生久美子さん。愛子と幸子のバトルシーンの撮影裏話や、愛子を演じる日々の中で感じた米田家の絆について聞きました。


幸子役の酒井若菜さんが面白すぎて、笑い負けしてしまいました

――元レディース・幸子と元ヤンキー・愛子のバトルシーンには爆笑してしまいました。

あのシーンの撮影は本当に楽しかったですね。いつもの愛子さんとこんなに違っちゃっていいのかな?と思いながら演じていました(笑)。幸子役の酒井さんがもう面白すぎたので、私の方は笑いっぱなしで勝負になりませんでしたけど。ずっと私が笑ってばかりいるから、北村(有起哉)さんが「お母さん、頑張れ!」って応援してくれたんですが、笑い負けしてしまいましたね。

――「おむすび」の放送が始まって3か月、ちょうど半分が過ぎたところですが、初めての朝ドラ出演の反響はいかがですか?

すごくあります! やっぱり朝ドラって、見てくださっている方の数がすごく多いんだなって実感しました。ふだんは「見てるよ」って声をかけていただくことは、そんなに多くないのですが、今回は行く先々で小さいお子さんからご年配の方までお声がけしていただいて。本当にいろんな世代の方に見ていただけているんだなって感じています。みなさんから「愛子さん」って呼ばれるのもうれしくて。朝ドラってやっぱりすごいです。

――ドラマを見ている方からの声で、嬉しかったことや印象に残っていることはありますか?

みなさんから「いいお母さんだね」って言っていただけています。ドラマの最初では愛子さん自身の物語が詳しくは描かれていないので、そんなに愛子さんは注目されないのかと思っていましたが、皆さんの目にはそんなふうに映っているんだなって驚きました。ドラマをすごく丁寧に見ていただけていることにも感激しましたね。


ママ友とも「愛子さんみたいになりたいけど、なれないよね」って話しています(笑)

――麻生さん自身、長い期間愛子を演じられてきて、愛子というキャラクターから学んだことや影響を受けたことはありますか?

すごく学んでいます。まだ、学んでいる途中ですね。私も子どもが2人いるんですけど、愛子さんみたいに優しく見守ってあげる方がいいのはわかっていても、あんなふうにはなかなかできませんよね。つい口を出したり、いろいろと言いたくなったりしちゃいます。どうしても心配っていう気持ちが先に出てしまいますよね。

でも、それをグッと我慢することができるようになるといいなって思っています。たぶん、それは私だけじゃなくて、このドラマを見てくださっている、たくさんのお母さんたちもそう思っているんじゃないでしょうか。私もママ友たちと「あんなふうになりたいけど、なかなかなれないよねー」って話しています(笑)。

――実生活の中で、そういう愛子らしい行動を意識されることはありますか?

やっぱり、あんまり子どもに言いすぎるのはよくないなと思って、ここはちょっと口を出すのを我慢しておこう、みたいに思うことは増えました。でも、言ってしまいますけどね(笑)。言いますけど、前よりはだいぶ減ったかな。


愛子としての時間を積み重ねることで本当の家族に近づけたのかな

――愛子はいつも明るくて、悲しみや怒りなどマイナスの感情をあまり表に出さないですよね。実は、そういう感情を心に秘めていたりするのでしょうか。

確かに、愛子さんはあまりそういう感情を見せないですよね。私自身もそうですけど、愛子さんは割と何でも受け入れるタイプだと思うんです。いろいろな人がいて、いろんな感情があって、だから、自分の思った通りにいかなくても何とも思わないというか、それが当たり前だと思っているというか。

愛子さんは両親とあまりうまくいっていなかったという過去があるのですが、そういう苦労や経験をしているから、人をそのまま丸ごと受け入れるという考え方になったんだと私は思っています。娘たちがギャルになっても、何か事情があるんだろうなって信じてあげることができたんじゃないでしょうか。

――愛子を演じる上で自分の中で意識されていることはありますか?

演じる上で意識的に変えていることはないんです。愛子として時を積み重ねてきたことで、自然と変わっていったことはあります。撮影当初は、自分の中で愛子という人物をちゃんと立てられていない感覚があって、「本当にこれでいいのかな?」という迷いとか自信のなさがありました。けれど、愛子として生きていく中で、ようやくしっかり立てるようになったなと感じています。

――そういう役として人生を積み重ねていく感覚は、他の作品よりも撮影期間が長い、朝ドラならではの感覚なのでしょうか。

確かに、長く演じているからこそなのかもしれません。こんなに長く一つの役を演じる経験は今までなかったのですが、本当に時間の積み重ねってすごく意味があることなんだと思うようになりました。もちろん、短い期間でも何かを積み重ねることはできますが、今回は撮影期間の長さを自分なりにすごく楽しめている感覚があるんです。

言葉で表現するのは難しいですけど、愛子さんの軸みたいなものが自分の中にもしっかりとできてきている感覚があります。それはたぶん「人を信じる」ということなのかなって思っています。

――愛子としての軸ができてきた、という中で、歩と結の成長をどう感じていらっしゃいますか?

私はもう、娘たちが和解してカラオケを一緒に歌うシーン(11月8日放送/第30回)で涙腺が崩壊しまして(笑)。自分でもそんなふうになるとは思っていなかったのですが、2人を見ているとうれしくて涙が止まらなくなってしまいました。自分の中ではまったく意図した感じではなく、本当に自然の流れで湧き出た感情だったんですよね。

ずっと撮影をしてきて、愛子さんとしての時間を積み重ねることで、本当の家族に近づいたってこういうことなのかなと、あの時思いました。

――結も歩も心の傷から立ち直って、今は生き生きと自分の人生を楽しんでいます。愛子としては今の2人に対してどんな心境なのでしょうか。

愛子さんはもともと娘たちに「好きなことやりなよ」というスタンスだから、それぞれ自分の道を進んでくれて喜んでいるでしょうね。結は、翔也くんという本当にいいパートナーと出会って、2人で協力していい家庭を築いていくだろうというのは、もう見ていて分かりますし。

この先、何が起こるかはわからないですけど、今はとても幸せそうだから、そこは安心していると思います。歩については、結婚はしてもしなくてもいいですけど、やりたいことをしながら幸せになってくれたらいいなって願っているんじゃないでしょうか。

――この先、物語も後半に入っていきますが、愛子さんはどうなっていくのでしょうか?

この先も本当にいろいろなことがあるので、そのたびに米田家のみんなで助け合いながら乗り越えていくんだと思います。そんな中でも、愛子さんは常に自分のやりたいことがハッキリとある人で、例えば、それは子育てだったり、家族と一緒にいることだったり。

愛子さんは自分のやりたいことを楽しみながらこの先も生きていくんだろうなと思っています。愛子さんを見ていると、何か楽しいことをやっているんだなっていうことが伝わっていくといいですね。

【プロフィール】
あそう・くみこ

1978年6月17日生まれ。千葉県出身。'95年にデビューし、'98年公開の映画『カンゾー先生』で数々の映画賞を獲得する。その後もドラマ、映画、舞台と幅広く活躍。NHKの出演作は、2004年大河ドラマ「新選組!」、'10年の土曜ドラマ「チェイス~国税査察官~」、'16年のプレミアムドラマ「奇跡の人」、'19年の大河ドラマ「いだてん ~東京オリムピック噺~」など。'21、'22年には「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」シリーズでは、漆原冴子役をコミカルに演じた。